第39話 山頂で2

「、、やっとついたあ。。もう動きたくない。。帰りはロープウェイ使いますよね?女性もいるしそうしましょうよ。」


サイモンは意地を張ってクリスティーンの荷物まで持った結果、余計に疲れ、山頂の木製ベンチにへたり込む。


「この中で二番目に若いというのに呆れますね。タバコなんて吸ってるからですよ。

、、それに、ただでさえ持久力がないのに人の荷物まで意地を張って持つとは。」


ミカエルはサイモンが2人分の荷物をベンチの下に置いたのをみつつ、焚き火の用意をしながら言う。すると、ミカエルの様子を見てリーが用意してきた飯盒を出して調理準備をしはじめてくれた。昼すぎに集合し、夕焼けや星を見るために午後から登ったので、ここで景色を見ながら軽くカレーか何かを食べ、サイモンが言ったように帰りは無理がないやり方で下り解散する予定だ。


ファゴット首席のレシタティーヴ、通称レシティーは重いので大量ではないものの、手分けしてミカエルを含む男性陣が持ってきた食料を出し、周辺に湧き出ている川の水を使い洗う。

ここの水は澄んでおり綺麗なので心配ない。


クラウスが途中で自ら釣った魚を出し始めた。長年首席を4人で勤めて楽団の木管アンサンブルを率いてきた4人は、特に言葉がなくても息があっている。


「若いとか関係ありませんよ。普段山なんか登らないし。、、カレーにするんですか?俺が作っちゃいますよ。料理なら得意です。」


「ええ?サイモンって料理できるの?雑そうなのに?」

レシティーがサイモンに驚きの目を向ける。リーやクリスティーンも無言ではあったがいかぶしむ視線を送る。


「怪しむ気持ちはよく分かりますが、本当ですよ。サイモンは実家でも家事を手伝っていたのです。確かに性格が災いしてなんだか大味ですがまあまあ美味しいですよ。」


ミカエルがコメントすると一同はまた驚きの目をサイモンに向ける。


「何なんですか、いちいちその反応は。。悔しいなあ、絶対美味しく作りますよ!

それに!きちんと市販のルーもあるから誰がやってもヤバくはならんでしょ。」


サイモンはいいながら手際よく野菜を切っていく。普段大雑把なサイモンが綺麗に切る様子を一同は感心して見つめる。


「で、ミカエルはなんでサイモンの手料理を食ったことがあるんだ?」

リーは不思議そうに尋ねる。


「うちの妻は仕事熱心ですが家事は苦手でね。私の仕事のほうが融通もあるので、特に料理は私がやるのですが、、私が風邪で高熱を出した時がありましてね。、、だいぶ前の、サイモンが入ったばかりの頃の話で、、この3年で入団したクリスティーンやレシティーが入ってないころの話です。ほら、年末の忙しいタイミングで私が不注意に風邪をひいて降板したことが一日だけあったでしょう?6年前に。そのときに、妻も仕事があり帰れなくて。、、サイモンが演奏会後に心配して来てくれたんですよ。


、、そのときに大味だがまあまあ美味しいパン粥を作ってくれましたよ。」


「ああ!思い出したよ、ミカエルも人間なんだなあと思ったな。ムカつくくらい涼しい顔で演奏するし、風邪とかもひかないから人間以外の何かかと思っていたけど。」


リーは片手で指を鳴らし思い出した様子で微笑む。


「なんだか失礼な文言が聞こえましたが、、、

サイモンの料理がまあまあ美味しいのは保証します。」


サイモンはミカエルたちが話しながら、星や景色を見るための望遠鏡などを用意したり、食事のために紙皿を配布したりしている間に、調理を終えて飯盒から皿へ取り分けを始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る