挿章 飾りなき心は
第38話 山頂で
サイモンは、ヒョロヒョロした体力が無さそうな身体の割にはスタスタと山道を登って行くミカエルを見つつ、後ろからぜえぜえと息を切らしながら後を追う。サイモンの上司に当たるフルート首席のミカエルは、山登りや野鳥撮影等が好きなアウトドア派で、たまに木管楽器の団員の一部や他のパートの一部とこうして休日に山登りに来る。サイモンは山登りは特に好きではないのでなるべく行かないが、今日は絶景で有名な山なのもありきてみたものの、後悔していた。
ミカエルはずっと前を先導しており、横にはクラリネット首席のクラウスがいる。
「ミカエルさん速いっすよ、、そんなヒョロヒョロしてるもやしのくせになんで疲れないんですか。」
「あら、あたしも疲れてないわよ?サイモンが運動不足過ぎるだけじゃないの?」
大きめの岩に座り込むサイモンを横目に、ファゴットのレシタティーヴがウィンクして颯爽と去る。山道でも化粧がはげない程度には汗をかいておらず、女性としては長い手足を生かしてさっさと歩いている。
「えええ、、信じられない、、まあ、レシティーはなあ、、外見だけだもんな、女らしいのは。」
「何か言った??クリスティーン、あんたの荷物、サイモンに持たせて良いんじゃない?」
レシタティーヴは、サイモンの毒づきをきちんと聞いており、サイモンのさらに後ろから来たクラリネットのクリスティーンに言う。
「いやあ、、そんなそんな。自分で持ちますよ。みなさんフットワークが軽くて凄いですね。、、サイモンさんも頑張りましょ?頂上まであと少しですよ。」
クリスティーンの丸メガネの奥の、ヨーロッパでも珍しい菫色のくりっとした瞳に見つめられ、サイモンは頬を赤くする。
「えっ、、あっ、あああ、、。そうだね!
頑張らなきゃ。俺,荷物少し持つよ。ほら。大変だろ?」
サイモンはクラリネットに去年入った新人のクリスティーンのショルダーバッグを持ってやり、立ち上がる。
「えっ?いいんですか。でもお疲れなんじゃ。まだ息があがってらっしゃいますよ。」
クリスティーンが戸惑っていると、後ろから野鳥を撮りながらで遅かったのだが追いついてきたオーボエのリーがやってきた。
リーは管楽器セクションでは1人だけの中国出身の団員だ。
「はは、サイモンの変わりようはゲンキンだな。
、、クリスティーン、サイモンもカッコつけたいんだろ。持たせてやれよ。」
「は、はあ。。わかりました。。」
クリスティーンはリーに言われて苦笑いしつつ、リーと並んでサイモンの後ろをついていく。
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