第297話

ヨハンが、父とカザリンとともに空港に着くと、入国したときと同じメンバー、つまり司と明とミカエルも来ていた。大学生の司は良いとしても、ミカエルも明も演奏家として忙しいが、父と一緒に仕事は午後のオーケストラのリハーサルと公演だけにして予定を空けてくれたようだ。


「!!中本さん!、、シュルツさんもわざわざありがとうございます。、、司も。」


「だってヨハンは司の次に可愛い俺の息子みたいなものだし。」


「聞き捨てならないな。、、私の息子だぞ?確かに良くしてもらってるけどさ。」


父はやはり眠そうでカザリンが運転した車の中では爆睡していたが、空港についてからはバッチリ起きていて、明に言い返す。


「えー??俺の方が色々相談されるし懐かれてるけどな〜。、、ヴァイオリンはじめて教えたのも俺だし?悔しい?」

明は父を見上げて揶揄う。


「、、朝から嫌味なやつだ。

、、で、お前も来たんだな。」


父は、ヨハンに歩み寄るミカエルを見つめてつぶやいた。


「ヨハンの様子は気になっていましたし。正直言って普通はしない惨い経験をして傷ついて帰国したのだから。、、またそこに行くなんて気になりますよ。

、、でも、もう壮健そうですね。


絶対無事に帰ってください。アメリカの大学もあるでしょうが、一度ベルリンにも顔を出してほしい。、、振り込みでも良いけれど顔を見て渡したいので。」


ミカエルは帰国のときのように、ヨハンに一線を引いた態度ではなく、ヨハンの背中を片手で軽く叩いてから、無愛想な彼にしては珍しく微笑む。帰国の際にはヨハンの様子がおかしかったため、ミカエルとしても接し方にはミカエルなりに気をつけていたのだろう。


「振り込み?、、、なんのこと、、あああ!!

葬儀での録画の??良いです良いです、要らないですよ!大した演奏できませんでしたし、、

凄いフルーティストのかたからお金頂けるレベルでは、、」


「でも出るならほしいのでは?

、、ただ条件がありますが。貴方の音楽活動に使ってもらいたいと言う、ね。


、、無断で録った迷惑料と思ってもらっても良いが、、貴方の演奏は私が今まで聴いた貴方の演奏の中で1番良い、貴方だからできる演奏でしたよ。

、、ベルリンで弾いていたころの演奏は、今だから言いますが何も響かなかった。、、技術的には今より完璧でしたが、、譜面をなぞり、リチャードの真似を不器用にしているだけでね。、、しかもその真似もできていなかった。」


ミカエルがはっきりと辛辣にヨハンの以前の演奏に言及するので、リチャードは不安になり、明はミカエルを止めようか迷ったが、ヨハンはもう以前のヨハンとは変わり、それを分かっている、と言わんばかりの表情で聞いていた。


ミカエルはヨハンの表情を見てからさらに続ける。


「、、だが、ジャズを始めてから徐々に、ですがあなたはそこから脱しましたね。、、葬儀での演奏は隣にリチャードがいたが呑まれずに弾いていた。リチャードはだいぶ抑えて弾いてはいましたが、、あなたくらいの技量の他のヴァイオリニストなら呑まれてしまったと思います。

、、あなたがやったらしい編曲やアレンジも面白かった。


、、もっとああ言う演奏が聴けるなら応援したいと思いました。、、私は弦はわからないから素人意見ではありますが。


、、無事に帰ったら渡すか振り込みます。無事に帰るのが第一の条件です。気をつけて行ってきてください。」


ミカエルが話してからヨハンとハグした後、明も頷き、ヨハンを見上げた。






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