3章 私は何処へ流離うのか

第15話 空白のページ

レイノルズとビリーから、ジャニスとレイノルズの過去について聞いた後もハンスはこれまで通りにレイノルズに接していたが、それから一ヶ月経った頃に1週間ほど有給休暇を取った。


楽団では、演奏における楽団員のリーダーであるコンサートマスターや、各パートの演奏上のリーダーである首席奏者以外に、外部対応や団員の楽団生活における代表として「団長」と言う役割を設けている団もある。ハンスやレイノルズが所属する楽団の団長は、フルート首席であるミカエルだ。

そのミカエルが、有給を取ってから3日後にハンスを尋ねてきた。


ハンスは時間通りにインターホンが鳴ったので、ドアを開く。

ミカエルはリハ帰りでフルートケースを持っており、リハに良く着てくるダーググリーンのコートに、紺のセーター、黒のズボンでやってきた。


「ミカエルさん、わざわざ来て頂いてありがとうございます。」


「いえ、せっかく有給日なのにおしかけてすみません。あなたとレイノルズが最近ぎくしゃくしているのが、気になりまして。団長であるからだけではなく、私個人としても。


あなたにしてみれば、同じ弦楽器やヴァイオリンの団員には話しづらいこともあるかもしれません。その点、私は管楽器ですから距離感もちょうど良いかと。

、、私はレイノルズとはよく話すので私に伝えるとレイノルズに伝わると思うかもしれませんが、私は演奏上の団員のリーダーであるレイノルズとは立場が別ですし、秘密は守ります。なので、もし話すのが嫌ではなければ、困っているなら力になりたいですね。」


ミカエルはコートを脱いでハンスが持ってきたハンガーを受け取り、玄関近くのハンスのジャケットやコートがいくつか掛かっている衣紋掛けに掛けると、ハンスの後について居間に入り、ソファに座る。ミカエルの全体的に白く細長い見た目に、着ているシックな落ち着いた色合いの服はよく映えている。


ミカエルは、ドイツ人の中でも珍しいプラチナブロンドのストレートの髪を襟足ギリギリで切っており、肌は白く、切れ長の瞳はアイスブルーで涼やかで静かな印象がある。そんなミカエルは、中性的だか少し険のある顔立ちである上に、普段から冷静かつ音楽には厳しいので接しにくい印象があるが、意外にも面倒見は良く、口数は少ないが経験が浅い団員をフォローしてくれる。また、頭の回転が良いため話も理路整然としており、そのため、お世辞にも愛想は良くないが団長に任命されている。


整いすぎた外見は、ミカエルの母親でトップモデルのブリギッテ•リヒターによく似ている。

ミカエルの父親はドイツの大手銀行の頭取だが、ブリギッテとはミカエルが幼い頃に離婚し、ブリギッテとミカエルは長く会っていないと以前噂で聞いたことがある。


良くも悪くも喜怒哀楽が豊かで、愛想が良く、多弁なレイノルズとでは、ミカエルは対照的な存在だ。楽器や性格だけではなく演奏のタイプも違う。あくまでオケ奏者をメインにしてたまにソリスト活動しているミカエルと、もともとソリストのキャリアの方が長いレイノルズはハンスのキャリアを考える上でも良い手本になる。特に落ちついた性格のミカエルなら、アドバイスをもらうにはうってつけかもしれない。


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