第96話
ミカエルは、リチャードが開演前に、いつになく念入りに身だしなみをチェックしているのを呆れながら椅子に座って見つめる。
「なあ、スーツ乱れてないかな??
髪跳ねすぎかな、、でも天パーだからこれ以上できないし、、無理にストレートにすると水に濡れたコリーみたいにぺちゃんこになるからなあ。。」
「大丈夫だよ。髪はいつも通りで良いんじゃない?
スーツも乱れてないし。流石に気にしすぎだってば。」
ビリーもミカエルの横で呆れていたが、温厚な明だけがリチャードにきちんと返事している。
「ったく、40男が何かっこつけてんだよ。白髪はきちんと隠れてるから心配ないぜ。あ、昨晩わざわざ白髪染めもしたんだっけ?ふさふさの黒髪だと目立つから大変だなあ。」
ビリーはコーヒーを飲みながら、リチャードを揶揄う。
「、、笑いごとじゃないんだよ、マジで目立つんだよ白髪、、。うん。白髪もきちんと染まってるな。よしよし。」
リチャードは一人でようやく納得し、やっと椅子に座る。
「珍しいですね。何千回もコンサートを年間にしているあなたが、一回のこのためにそこまで念入りにねえ。、、世話になっている女医が来るんでしたか?」
ミカエルはフルートに息を吹きかけ、楽器が冷えないようにしつつ話す。
「ああ。こないだ退院する時に通りかかって、いきなりコンサートに来たいって言われてさ。綺麗な人なんだ、、、だからあんまみっともない格好見せたくないな、、。」
「なるほど。でも別にあなたと付き合ってもいないんだし、あなたはその女医の患者なだけですよね。
あなたの白髪の有無や服になんて関心はないかと。」
ミカエルが素っ気なく言うと、リチャードは振り返る。
「そんなことわかってるけどさ!、、、わかってるけど、、、」
「かっこ悪く思われたくない、少しでも良いとこ見せたいんだろ?、、そんなに好きならコンサート後にでも食事に行ったらどうだよ。
昔はお得意だったじゃないか。女性を口説くのなんか。」
「ビリー。、、まあ、、女性として意識してしまったのは否定しないけど、、怒るぞ,それ以上そう言う話をするなら。」
リチャードはビリーを睨み、近寄って立ち上がる。ミカエルは我関せずで楽譜を見ていたが、明がリチャードの目が本気でビリーを睨むのを見て間に入る。
「まあまあまあ、、本番前だしやめようよ。
、、リチャードはさ、、女医さんに感謝を示したいんだろ?
、、だったら今は集中してみんなで良い演奏しようよ。ね、ミカエル?」
「私は別にその話はどうでも良いですが。
私のソロが良くてもあなた方がしくじれば良い演奏になりませんから。自覚して弾いてもらえればなんでも構いません。」
明はミカエルの物言いに頭を抱える。
「お前さ、もう少しマシな言い方はできないの?、、全く、よくこんな協調性がないメンバーで何十年も演奏してるよね。。」
明が呟いていると、楽屋のドアが開き、エルンストが顔を出す。
「そろそろステージへお願いします。
、、レイノルズさん、背広とタイがいつもと違いますね。いつも真っ黒の背広にワインレッドのタイが多いけど、、紺の背広もお似合いですよ。、、タイは薄い黄色にしたんですね。爽やかです。」
エルンストは、珍しくリチャードがいつもと違う衣装なのを見て驚きつつ、少し印象は違うが似合っているので褒める。
自分がマネージャーとして着くずっと前、レイノルズが20代などの若いときはプレイボーイで服も洒落ており、服には気を遣っていたと聴いているが、エルンストがマネージャーとしてついた26歳ごろ以降は、センスこそ良いものの歳と比すると落ち着いた黒っぽい服ばかり着ている印象があった。
レイノルズは25歳ごろに妻を亡くしてから女性とは全く付き合わなくなり,再婚の気もない様子だったが、今更気になる人でもできたのだろうか。
「本当か?、、久しぶりに黒じゃないの着たからどうかなと思ったが良かったよ。。
ありがとう。演奏もしっかり弾いてくる!」
リチャードは笑顔を見せて、ヴァイオリンを持って舞台へ向かう。
(レイノルズさん、人当たり良い人ではあるけどいつも微笑む程度なのにあんなににっこり笑って。。衣装褒められたのそんなに嬉しかったのか。。あんなに心から笑ってるの、初めて見たかも。、、特にヨハン君の挫折があってから余計に作り笑いっぽかったけど。。理由は分からないけど良かったな。)
エルンストも思わず微笑んで、レイノルズのあとに続いて出ていく3人を見送った。
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