第23話 残響2
「父さん!エルンストさん!!ちょっと待って!!」
リチャードは聞き間違えようのない息子の声がして、驚いて振り向く。
「ヨハン??、、片付けとかあるんじゃないのか?私たちはカフェで待ってるから、」
リチャードは走って追ってきたらしいヨハンと、その隣でヨハン同様に息を切らす輝くようなブロンドを二つ結びにした少女を見る。
「片付けは下級生が中心だしまあなんとかなるよ、、それよりも、この子。前に話したガールフレンドなんだよ。イザベラって言うんだ。」
リチャードは言われて、まだ息は切らしているが明るい笑顔で顔を上げる少女を見る。
「、、へえ。
、、いつもヨハンをありがとう、イザベラさん。
可愛らしい子じゃないか。
お前、女の子と話すの苦手だったのによく仲良くなれたな。
オケのセカンドヴァイオリンの首席、、だよね?ヴァイオリンにはどうしても注目するから、見ていたよ。二人ともとても頑張っていたね。」
リチャードはイザベラに微笑んで話す。
「わあ!!ありがとうございます!嬉しいなあ。あの!あのっ!サイン、頂いても良いですか!!」
イザベラは、冷静なヨハンと比して明るくおしゃべりで、反応も大きい。リチャードのCDを持っていて、サインを求めてきた。
「ああ、ヨハンと仲良くしてくれてありがとう。CDも聴いてくれているんだね。私がだいぶ若い頃のやつみたいだ、、これは確か、、!!」
リチャードはCDを見て、自分が20代ごろのものなのはわかったが、まさか良い思い出のない演奏だとは思わず、一瞬サインの手が止まる。
「サー•レイノルズ?どうかなさいましたか?」
イザベラは、レイノルズがヴァイオリンでの功績からイギリスで与えられている卿の称号をつけて敬意を示しながら訊ねる。
「いや、、懐かしいなあ、若かったなあと思ってね。ブラームスのコンチェルト、好きなのかい?」
「はい!!特に3楽章が大好きです。あの冒頭の重音とジプシー風の旋律がとてもインパクトがあって。」
「そうなんだね。私も同じように、、思って好きな曲だったよ。
ほら。こんな感じで良いかな?サインは。」
父の好き、ではなく好きだった、の過去形と様子から、ヨハンは違和感を覚えたが、そのCDの演奏は評判が良いので理由はわからない。
(どうしたんだろ、父さん。そういえばブラームスのコンチェルト、あんなに絶賛されてるのに全然弾かないな。さすがに父さんも人間だし苦手な曲くらいはあるのかな。)
「でも、父さんが頑張った、なんて言ってくれるの、珍しいよね。いつもはもっとああできた、こうすればより良かった、なのに。嬉しいな。」
ヨハンは話題を変え、父の言葉に嬉しかった素直な気持ちを述べる。
「惜しいなあ。レイノルズさん、客席ではよく弾いていた!って言ってたんですよ、素直に褒めれば良いじゃないですか。ヨハンくんのソロが良かったって。聞きながらニヤけてましたもんね。」
「ええ!!そうなんですね!良かったじゃない、ヨハン!ヨハン、サー•レイノルズがなんて言うか、とっても気にしていたんですよ,上手く弾けたコンクールでもダメだしされて悔しかったからって、一生懸命練習してました。」
「ちょっと!イザベラ、余計なことペラペラ話さないでよ。
、、でも本当なら嬉しいなあ。父さんヴァイオリンには厳しいからさ。」
ヨハンは初対面のエルンストとも屈託なく話し、騒ぐイザベラを宥めながら父を見上げる。
「へえ。悔しかったか。じゃあ今日も帰ったらいっぱい改善点を伝えるから楽しみにしていなさい。
ま、今日は確かに良く弾けていたんじゃないか。誰かに言われた通りだけで弾いていなかったのは分かったぞ。」
父はヨハンの頭を片手でくしゃくしゃと撫でてヨハンの髪を乱しながらすこしいたずらっぽく微笑みつつ、話す。
「ちょっとやめろって。イザベラも見てるのに。もう15だよ、子どもじゃないんだから。」
「まだ全然、身長が私に届いてないけどな。
声変わりもちょっと前にしたんだっけ?
イザベラさんの前でだけ格好つけてもね。」
「ううう、、イザベラ、学校で絶対言わないでよ,父さんに髪くしゃくしゃにされたの。。。」
ヨハンは髪を整えつつ、イザベラに挨拶してから去る、父とエルンストを見ながらイザベラに頼んだ。
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