第153話

父は、空港で泣いたかと思えば、今はヨハンとカザリンに怒っている様子で、2人が話しかけても無視をして先を歩いている。ヨハンが今回父に無断で来たのは良くなかったとはいえ、相変わらず父は感情の起伏が激しいようだ。


ヨハンは心配と呆れが半分といった心持ちで、父とカザリンと一緒にタクシーに乗り、父の実家のあるハムステッドに移動した。もう時間が夕方になっていたし、家は取り壊し準備で中には入れないため、3人は駅近くで降りてから、父が予め予約していたホテルを目指して歩いた。


もちろん父は予約時にはヨハンが来ることは想定していなかったので、ヨハンの部屋は予約されていない。だから、ヨハンはカザリンから事前に情報をもらい、同じホテルのもっと価格の安い部屋を自分で予約しておいてある。

それを察して、父が不機嫌そうな表情のまま、こちらを横目で見るのをヨハンは感じた。


「2人で事前に示し合わせて予約したんだな。さすがは用意周到なことだ。別のことに用意周到さは生かせば良いのに。大学生にはかなり高いからカザリンに支払わせたのか?」


父は嫌味ったらしい言い回しでヨハンを横目で見て、久しぶりに話しかけた。


「自分で払ったよ。来ることが分かってからバイトして貯めた。、、知ってると思うけど大学で勉強してるアラビア語を使う翻訳バイトだから将来のためにもなる。せっかくあまり来ないイギリスに来たんだし、風景も綺麗なハムステッドだし。ホテルもたまには豪華でも良いだろ。


、、僕はいつだって用意周到さ。今に始まってない。そこは父さんだって褒めてくれてきた。」


ヨハンは父の言い方が癇に障り、声は荒げなかったものの言い返す。


「昔はな。大学で無計画にヴァイオリンを再開してからは違う。前も言ったけど、アマチュアとして今更弾いてお前は満足して弾けるのか?

半端にやるなら得意な勉強をしっかりやってインターンで知識を活用しながら人脈を広げて、将来を考えるほうが効率的だ。大学を休んでまでここに来たり、最近悪い方に変わり過ぎてる。」


父は先に歩いていたが振り返り、身振りもつけてヨハンの目を見て一方的な見解の説教を始めた。


「、、リック?リックじゃないか!帰ってきてたのか!!!」


ヨハンが反論しようと父に一歩、歩み寄った所で、父の後ろから男性が歩いてきた。それで、一行の視線全てが男性に行く。


「ダリル??

仕事帰りか?久しぶり。元気そうだな。」


父の知り合いらしい。父とダリルは親しげに微笑み合い、軽くハグして再会に喜んでからすぐに離れ、立ち止まって談笑し始めた。


「ああ。客と商談だった。

、、ヨハン君も立派になったな。たまに俺がドイツに行ったりお前がイギリスに来ても、彼は一緒じゃないから久しぶりに見れたよ。」


ダリルはヨハンを感心した様子で見上げながら、微笑むが、ヨハンはダリルには会った覚えはない。

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