第114話
ハンスは、ソロ前で内声が出る箇所でセカンド首席のライオネルがこれまでハンスに合わせて抑えていた音量や表現を増していくのを聴き、慌てて負けないようにファーストヴァイオリンを率いる。
すると、ライオネル率いるセカンドや、その他の中低弦もそれに応え、続いて管楽器も盛り上げてくれた。それで、口では大言を言ったが、演奏にまではいきなり強気を出せなかったハンスも、スイッチが切り替わったかのように本領を発揮し始める。オーディションのときを彷彿とさせる豊かな解釈力で、指揮の範囲からは出ないながら、前向きな演奏になった。
リチャードがそれを聴いて心配を払拭でき、伸び伸びとソロを弾きだすと、明もそれを支えるようにソリを弾いた。ここまではいつも通りなのでリチャードも驚かなかったが、音が動くフレーズになり、明がリチャードを先回りする勢いで珍しく前のめりに歌うので驚きつつ合わせてソロを続ける。
どうやら、続くオケの出方が見たいようで遊んだようだ。
(真面目なやつだと思ってたしいつも合わせてくれると思ってたけど、、遊んだりもするんだな、、。前にヴィオラ•ソロの曲をオケとやったとき全然ソリストとしても凄かったし、、当然か。でも、私だけじゃ明のこんな一面は引き出せなかったかも。
ハンスも、、ライオネルも凄い、、。
前からわかっていたけど、私にはできないことが2人にはできるんだ。)
明とはリチャードも、数回この曲を弾いてきたが、どの時もリチャードが全てのパートよりも目立ってしまい、明は自分らしく弾くというよりは、リチャードのソロに負けないように弾いたり合わせる、という感じだった。客からは好評だったが、リチャードが明と室内楽やデュオで合わせたときのようなアンサンブルができずに、少なくともリチャードはずっと不満足だった。明は、口ではネガティブなことは言わなかったが、内心が口と違うことがかなりある性格、よく言えば思慮深いので、おそらく満足はしていないだろう。
実際、明は演奏が楽しかったり良いものができるなら、一緒に演奏を企画しようと、あちらから持ちかけてくることもあるが、このモーツァルトの交響協奏曲については、明から持ちかけてきたことはない。
全て、客からは好評なのでホールやオケや事務局など他人から望まれて弾いてきただけだ。
そんなこの曲が、今回はハンスとライオネルの力によってリチャードも明も満足の行く演奏ができるかもしれない。
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