第6話 俺と勇者で日銭稼ぎ
早速勇者へ酒場に入ってもらうと、真っ先に俺達を出迎えたのはキリキリした静寂。歓迎ではなさそうだ。
だが、矢面に立っているはずの勇者はまるで怯みもせず、ズカズカと店の中に入って誰かに話かける。
「ご主人、やけに静かだが一体何があったんだ?」
「お前、朝っぱらから店で酒飲むバカがどこに居る? まだ開店準備中だ、出直してきやがれ」
「……」
不自然な間の正体はコレ、当然っちゃあ当然。だが、勇者からすれば想定外なのか、何も言わずに固まってしまった。その方が目立つのをわからないんだろうか、この男は。
仕方がないので、本人にだけ聞こえる位のひそひそ声を作って、勇者にアドバイスをしてやることにした。
(――食い下がりますよ。うちの故郷では朝に飲む風習がある、と言ってください。ついでに謝っといてください)
「……俺の故郷では、朝に飲むのが風習でな。すまん」
「あー、お前。この付近の人間じゃねえのか? 済まなかったな。けど、またどうしてこんな場所に?」
(行商人をしていると言ってください)
「行商人をしていてな。旅をしながら、色々なものを集めている。買ってくれる人間がいないかと思ったんだが」
「珍しいもんでも持ってんのか? だとしたら残念だったな、見ての通りこの村には老人しかいねえ。そのうえ、周りには魔物もウロチョロしていてな」
来た、売り込みチャンス。
俺らの強みはとにかく敵を倒せること、ついで貴重な材料を集められること。
物も売れて、人も守れる。そんな奴は滅多に会えないとアピールするんだ。
(ここ、チャンスですよ。昨日の事を話してください)
「ああ、俺も見た。丁度夜に獣を大きくしたような奴を」
「お前、それライカンスロープのこと言ってるのか? この辺り随一の魔物だぞ!? よく生きてたな、ひょっとして手練れか?」
「倒してきた」
「ハァ!? 倒してきた!? お前、ひょっとして遠くから来たんじゃなくて、頭やられたんじゃ……」
「今なら死骸が見つけられる筈だ、五体。ついてくるか?」
「い、いや……流石にそれは危ないからやめとくよ」
「そうか。では良い品が揃ったらまた来る」
「……俺らに手が出せるモノとは思えねえが」
反応が変わった。少しだけ関心が向いている。ここで、それとなく自己紹介だ。やってやれ、勇者。
「こういう物を売っている」
そう言って、勇者は自分の背中に手を回して、何かを探し始めた。時々体に当たって妙なむず痒さを覚えたが我慢した。ここで色っぽい声なんて出して変態コンビだと言われたら、また俺の羞恥心が火を吹いてしまう。
そうやって自分を抑えている内に、勇者は目当てのものを探し終わったらしい。
気付けば、もうむず痒い感触は無くなっていた。
「これだ」
「こ、この白い毛皮は――」
事は思った以上に良い方向へ向かった。
勇者が相手に見せたのは、あの狼の化け物――ライカンスロープの毛皮。
村に入る前に見せてもらったが、毛並みが綺麗で色つやもある。しかし、並のナイフでは切れないくらいに頑丈。
素人目で見ても分かる。これは貴重な資源なんだと。当然それは相手にも伝わったようで、
「……少し話を聞いてくれるか、行商人さんよ」
「ああ、聞かせてもらおう」
日銭の問題はどうにかなりそうだ。
それからも話を盗み聞きしつつ、時折り勇者のフォローに回った。その甲斐もあって話は順調に進んだ。
一通りの会話を終えた俺たちは、村を出てもう一度あの樹海に戻ることにした。
「助かった。君が居なければ、何をするでもなくずっと
「そうならなくて本当によかったです」
ああ、本当によかった。
いきなり野宿生活に数年耐えて下さい。と言われようものなら、絶対に打ちひしがれていた。
とはいえ、俺達はまだスタートに立ったばかりだ。魔王とかいう奴に出会ってもなければ、俺に至っては魔王が何なのかもわかっていない。なんなら、死んでから半日しか経っていないうえ、身辺整理もできてない。
わかってる、この世界は残酷なのだと。後手に回れば絶対に呑まれる。少しでも順応する為の時間を確保しなければ。
けど、まあ。
「仕事は貰えた。樹海で
「ええ、守ってくれるんでしょう?」
「当然だ」
一寸先が見えたんだ、喜ぶくらいは許してくれ。
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