第32話 自然の導き
ガリアパーティとの同行を始めて、一カ月としばらく。
嵐の領域を越えたことで、散弾のような豪雨も小降りに、吹き荒ぶ風も穏やかに鎮まった。水の国の近辺までやってきたという合図らしい。ようやく訪れた平穏への予兆だ、肩の荷も降りた気がする。
どうやら、国と国の中間地点では非同盟国の持つエネルギーが衝突しあうことで、日常的に嵐や寒波などが発生したりと、環境がとんでもない状態になるのだと。
エネルギーの詳細は勇者から説明はあったけど、正直関わることは無いと思って受け流していた。遠回りしてでも、そんな危ない場所避けようと思ってたからな。見事失敗した。
「あの、ガリアさん」
「何だ」
「最寄りの国って水の国ですよね。立ち寄るんですか? その、使わなくなった服とか、どこかの拠点に預ける必要があるかな、と」
「何を言ってるんだ? また、買えばいいだろう」
このブルジョアめ。
と、言いたいところだが、ガリアの方が常識らしい。国と国を跨ぐ旅は環境が様変わりするものだから、使わなくなった衣服や荷物は道中に捨て置くという。
基本的に移動は往復が殆どだが、行きで大抵の仕事を終わらせ、帰りは馬などを使ってさっと移動する。そして、仕事から帰って来たタイミングで再調達するという。それが主流になっているんだと。
「お前、さては――まあ良い」
「どうかしました?」
「理由はどうあれ俺達のような人間は、誰かの日常に踏み入る真似はしないってことだ」
そう言うと、また距離を取る様に先を歩いてしまった。
恨めしそうに睨み付ける二人がまあ鬱陶しいのだが、本当に理由がわからないので、地雷を踏んだのかと教えを請うた。すると、毒舌野郎の方が、
「傭兵はな、本来汚れ仕事なんだよ。一級傭兵の戦果が持ち上げられているけど、実体は魔物を殺すなんて常だし、組織が違えば味方だった奴との殺し合いも発生する」
「なんというか、凄いシビアですね」
「お前、そんなこともわかんねぇで傭兵やってんのか?」
そんなあからさまに呆れなくても、こちとら素人だぞ。
「あのな、傭兵っていう仕事が一番しんどいのは、"金の為なら何でもする"って所だ。それはつまり、気まぐれで仲間になった奴でも、ある日敵同士でかちあって殺し合いになるってことを意味すんだよ」
確かに。名前の意味に比べて、この世界では随分と好印象を持たれている気がした。俺の想像していた傭兵も、どちらかと言えばコイツの言う解釈の方だ。そう考えると、俺の置かれている境遇は、わりと恵まれているのかもしれない。決して楽だとは口が裂けても言えないが。
「わかりました。気を付けます」
「あー、何となくわかったわ。お
「いんとん?」
「身分を隠してる奴のことだよ」
心臓が跳ねた。
「私が? いやいや……」
「詮索はしないから安心しろ。傭兵ってのは、言っちゃあ悪いが誰でもなれる。だからこそ、お忍びでボンボンのガキとかが首突っ込むことがある。実戦経験と称してな」
男の目は心なしか蔑むものに変わっていた。
「そのせいかな。傭兵は他人の人生には介入しない、とかいうクソ面倒な暗黙の了解が出来ちまったのは。本当に厄介極まりないぜ」
「正直、知らなかったので。気に障ったなら謝ります」
「そんなのいらねーよ。舐めた奴ならぶっ飛ばして魔物の餌にしてやろうと思ったけどよ、お前からはその匂いがしない。よくわかんねーけど、一言で言うなら浮世離れしているっていうか」
滅茶苦茶言うじゃん。あと、俺が世間知らずなのは俺のせいじゃない。と思いたい。
「まあ、目的は知らんけど命を賭けてるのは知ってる。ルーキーがガリアさんに盾突こうなんざ、よっぽどの馬鹿か、理由のあるイかれた奴じゃない限りやらねえだろうからな。で、お前は多分後者なんだろうな。狙ってんのかわかんねーけど、振舞い方が傭兵のソレだ」
コレは褒められているんだろうか。嬉しいかと言われると微妙だが、一定のラインは評価されているらしい。まあ、認められたのは人を信じない姿勢だとか、そんな所だろうが。
「どう見たってお前らの振舞はルーキーじゃねえ。キナ臭過ぎて絶対関わりたくねえけど」
「アタシも。この仕事が終わったらサヨナラにしたいわ。ガリアさんがそうしないの、本当に意味わかんない」
「とりあえず、距離感は気を付けます。色々と教えて頂き、ありがとうございます」
頭を下げて一礼すると、気にするな。と言って、二人ともガリアの方に向かっていった。
「ツンケンした感じ、少し消えた気がしますね」
「傭兵は能力を示せば、見方も変える。どこまでも実力、成果主義の職業……ソイツに価値があるとわかれば敵意は自ずと無くなる」
「そんなもんですか」
「そんなものだ」
何というか、本質的な部分は前世と似てるんだな。
「俺達は俺達で出来る事をやろう。課題はまだ残っているからな」
「ええ」
命令がないと戦えない。シンプルにして、最大の弱点。
ガリアパーティの連携を見れば、少しはヒントが貰えるかと思った。しかし、実際は連携レベルが高すぎて、そっくり真似るのは到底不可能。空を舞う竜を電撃で墜落させて、倒れたところに追い討ちで翼を解体、飛行能力の無力化。そこから口封じに剣を突き立て、後はひたすらなぶり殺し。
他にも白い翼を生やした天使のような化け物が口をあんぐり開け、空から突っ込んで来たが、あっさりと撃ち落として解体。喚きながら死に絶える姿は人の死を見てるようで最悪だったけど、全員顔色一つ変えやしない。
チーターの狩りと似ている気がした。口には出さないが洗練され過ぎてて正直引いた。
これを俺達にやれって言われたら、即答で無理と返すな、うん。
「ん?」
どうして、魔物はこんなにも敵の気配を察知できるんだ?
「……あ」
「どうした、シア」
「すみません、ユートさん。お願いがあります」
もし、傭兵達の戦い方のルーツが何等かの動物にあるとすれば、回避行動も動物から学べるんじゃないのか。出来るかどうかは怪しいが、試してみる価値はある。
「貴方の知る魔物の中で、警戒心の強い奴をいくつか挙げてもらえませんか?」
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