第42話 懺悔

 夢を見た。


『お前は何度言ったらわかるんだ』

『俺の言うことを聞け』

『こっち来るな、近寄るな』

『君は間違っている』

『ごめんだけど、少しは空気読んでくれない?』

『お前、おかしいよ』


 俺は普通じゃないらしい。誰かと話そうとしても必ずあぶれる。ひとりぼっちになる。その理由がわからない。けれど、間違っていることだけは人を見ればわかった。

 誰かの顔色を頼りにした。怒られれば直す、嫌われたら謝る、そして媚びる。けれどそうする程に人は離れていく。

 いつしか、自分というものを殺していた。息を吸っているだけで満足しろと、世の中の全てに感謝しろと自己暗示し続けていた。

 寂しいと思ったこともあった。悲しい事に俺は別に孤独が好きではなかったから。

 だが、寂しさに慣れるまでそう時間は掛からなかった。


 生前、俺は満たされない毎日を過ごしていた。人と関わり、話を聞いて、試して、足りないものを補完しようとした。人が求める自分になりたかった。それでも結果は変わらなかった。不器用すぎて、まるで順応できていなかった。

 そんな苦痛から逃げるように人から離れ続けた。

 いつしか、独りが当たり前になっていた。


 俺は親父を殺した。そして、自分を殺した。

 挙げ句の果てには大事な仲間すら守れなかった。

 また俺は間違えてしまった。思った以上の居心地の良さで甘えていたんだ、地獄で生きてることも忘れて。


『――』


 なんだよ、俺はもう死んだんだ。

 誰かは知らないが、俺の事なんて捨て置け。俺だってそうするんだ、お前だってそうしろ。みんな離れていくんだ、そんなことでもう自分を揺さぶられたくないんだ。


 消えてくれ、頼むから消えてくれ。


 そいつは俺を見下ろすと、両手で俺の首をそっと掴んで締め上げた。消えるべきなのは俺の方だと、そう言いたいのか。


 いいよ、殺して。

 結局何もできなかったわけだし、役目すら果たせなかった奴は早めに退場した方がいい。

 それからずっと待ってはいたけど、最後の瞬間はやってこない。


 淡い光が閉じた瞳をこじ開けた。

 そこで目が覚めたのを理解した。


「目が覚めましたか、ステラ様」


 そこに勇者はいなかった。



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