第43話 俺の旅の終わり
「目が覚めましたか、ステラ様」
知らない白天井だった。真昼なのか陽の光が窓から差し込み、そよ風でカーテンがひらひらとはためいている。昨日の戦いが嘘のような状況に困惑していると、声の主はここが
「ここは水の国、ミネリアル。この世界におけるあらゆる医学が集う場所。風の国と同様、非同盟国という位置づけで他国の介入が禁じられている国です」
「あなた、だ――っづ!?」
針で刺されたような激痛が全身に走った。そこでようやく俺が寝たきりであることを認識する。俺は確か、火の国で傭兵ギルドから依頼を受けてサタニカ=エクスを追っていたんだ。そして、魔王の気配とやらに気付いた勇者と共に闘った。
「安静にしてください。ステラ様は致命傷を負ったのです、何者かに刺されたのでしょう。血を流して倒れていた所を運よく私が見つけ、ここまで連れてきました」
俺は負けた。
成す術もなく戦闘不能にさせられた。音もなく気配もなく、ただガラクタを処分するように刃を突き立てた、人間かもわからない奴。一瞬だった。
「……ありがとうございます。何とお礼を言ったら良いか」
「お気になさらないでください。我等は貴女の帰還を待ちわびていたのですから」
手をそっと掴まれて、それで始めて勇者とは違う肌触りを知った。重荷が外れたような脱力により、少しだけ落ち着きを取り戻した。
「もう一度お会い出来て、本当に良かった」
涙ながらに喜びを嚙みしめる青年は、真っ白な鎧にいくつもの傷を付けていた。疲れの影響か目の隈も酷く、光に中てられてほんのりと輝く金髪も心なしかくすんで見えた。人の心が分からない俺でも解る、今日に至るまでに想像もできない過酷な状況を乗り越えたのだと。
そんな彼は、少しだけ喜びに浸った後、直ぐに怒りの表情を浮かべた。
「しかし、ステラ様の命を奪おうとする愚か者は絶対に野放しには出来ない。忘れたいであろう記憶を掘り返すのは大変不本意ですが、何があったのか教えていただけますでしょうか?」
「詳しくは知りません。ただ、彼はサタニカ=エクスと名乗っていました」
「その名、しかと胸に刻みました。近衛部隊隊長、マルクト=フォン=イグニスタの名に懸けて必ずや地獄の底へと落としてみせましょう。そして――」
「そして?」
「我が国の姫君を
青年は操を立てるかのように、自らの鞘に納めていた剣を抜き、剣先を立てた。息巻く青年を「無理はしないように」と静めようとしたが、忠義って奴は想像以上の大きい価値観のようだ。俺の声に反応こそすれど、「絶対にこの手で討つ」と口にして、その真剣のような眼差しが変わることはない。
もう、終わりだった。
情けないことに、何が何でもやめろなんて口にする勇気、俺には残されてない。そんな事をしてしまえば、俺がこの体の本当の主ではないと悟られてしまう。良くて異常者、もしくは精神疾患を疑われる位か。そうなれば今より勇者の身が危うくなる。今の俺にこの状況を打破する術はない。
「完全に回復次第、我々は祖国を目指します。ご安心を、どんな
せめて伝えなければならない。
俺を外の世界に連れ出し、俺を命がけで守り切った勇者へ。
風がやさしく頬を撫でる。もう十分やったと言われているようだった。それが酷く傷に染みる。
残りカスの俺に残されたのは、何も出来なかったという事実だけだった。
第四章 燦々 終
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