第三章 地続
第25話 俺と勇者の反省会 その1
「思ったんですが」
「何だ」
「俺達の強さってどうなんです」
事は元魔王を自称するビス少年と、勇者を自称する自称勇者と俺による三者面談から始まった。
勇者は魔王を殺す為に追っていて、ビス少年は元魔王。それが本当なら、勇者の実力は魔王に劣るのではないか。
そう思った俺は、少しでも連携を強化すべきだと考えた。俺自身が弱すぎるせいで、さっさと諦めて隠居という選択が出来ない以上、仕事での生存確率を上げなければならないからだ。
その為にはやはり現状を知る必要がある。
「ねえ、一抜けていい?」
「ダメ」
という取り繕いを口実に、実際のところは自分より絶対年下の小僧に言いくるめられたのがむしゃくしゃして、とりあえず食い下がろうと場を作っただけ。
俺のくだらない意地など知る由も無い勇者の出した答えは、
「単純な力比べなら一級傭兵にも負けない」
勇者の言う一級、三級というのは傭兵ギルドが定める構成員の等級を示す。
全部で四等級あり、下限が四で上限が一。その区分けは完全成果主義で、入隊して間もなくは四等級からスタートする。それから数々の依頼を受け、お客からの評判が一定を達した時、初めて昇格することができる。
これが問題で、単純に難しい依頼を受けて、何となくクリア。では当然お客は評価しない。ちゃんと依頼された仕事を依頼通りに、良い品質でお届けすることが重要視される。
「四等級の俺等からすれば、皆目の上のたんこぶじゃないですか。ただでさえ初陣で滅茶苦茶怒られたのに」
「狂暴化現象は良い手土産だと思ったんだが。嫌われたものだ」
他人事すぎやしないか。
ということで、俺達は命がけで化け物の大群を一網打尽にし、そのうえで良質なオホロリュウキンカを手に入れたが、オホロ山での大量虐殺を勇者がボロってしまい、晴れて大目玉をくらったわけだ。
生態系を狂わせる気ですか。と、ヴァイオレットさんにしこたま怒られ、俺達はとにかく平謝りすることで矛を収めてもらった。
というか、この勇者。大事なことを言っていた気が。
「ひょっとして俺達って強いんです?」
「どうした急に」
「だって一級傭兵の実力って、確か千名単位の戦場なら単騎で終結できるって噂ですよね」
「そうだ。まあ、人によるが」
じゃあ、常に一級レベルと戦える状態に出来たなら、問題ないのでは?
「俺達が相手するのは魔王。いわば人知を超えた存在だ。いくら一級レベルの実力を得られたとしても、それだけでは勝算に繋がらない」
「会ったこともないのに、よく言いきれますね」
「それは、このアイゼンブラッド卿が身を持って証明したからな」
ブイと、指でブイサインを作って決めポーズしているこの少年がか。
「でも、チミらが考えるべきなのは、勝つことじゃないと思うよ」
「どういうことです」
「だって、勝てた所で死なないわけじゃないもの。特にお姫しゃまは恰好の的なんじゃないのぉ?」
ブイサインが増えた。二個は流石に危ないと思う。
でも絶対言わない。だって淑女だもの。
「――って、何でこの少年が俺達のこと知ってるんだ? まさか」
「それは杞憂だねぃ。今はユート、だっけ? の事は出会った時から知ってるよ。それに通ずるとなれば、自然とチミの能力はわかるよね。動けないんでしょ? チミが居ないと」
心臓が跳ねた。さっきから得体の知れなさといい、妙な観察眼といい何なんだこの少年。本当に元魔王だとでも?
「済まない、少々目立った。今は人目には出ないようにしている」
頭を下げる勇者を諫めて、話の軌道を元に戻す。
「とりあえず、俺達には"命令がないと戦えない"っていう弱点が明確にある。それは対策すべきでしょう」
「流石に認めざるを得ない。人海戦術で押し切られた時、俺一人でシアを守り切るのは困難だ」
「わかってんじゃん!!」
小僧はキラキラした目で机をバンバン叩くと、えっへんと腕組みをした。
この弱点が最初にして最大の弱点。例えば敵の攻撃が死角から来た時、俺が気づかないと勇者は動けない。勇者は気付く事が出来ても、命令がないと動けないからだ。
その弱点が出たのが、オホロ山での失態に繋がる。ジェット・ニードルが背後から俺を刺した時、その瞬間まで全く気付かなかった。
野生の魔物ですら隙を狙うのに、対人戦となればその弱点はより狙われやすくなる。最優先で解決しなければいけない問題だ。
「しかし、対策といってもどうする。シアを鍛えるといっても、地力が非戦闘要員……今から始めても三等級の傭兵に仕上げるのは相応の時間が必要だ」
「まあ、正直じっくり行きたいところですが……嫌なんですよね?」
「魔王の気配がある内に倒したい。気配が途絶えたら、また一から探さなければならない」
「循環、ですっけ?」
「そうだ。魔王は周期的に"体"を変える。その前に倒したい」
「一応聞くけど、少年。これって本当?」
「うん!!」元気な返答、どーも。
そういう訳で、俺達は次の依頼を受ける前に修業期間ということで、弱点の洗い出しと克服を目指すことにした。猶予は三カ月、勇者曰く魔王が変わる周期は半年で、今はまだ一ヶ月弱。二ヶ月あれば、どうにか合流できるらしいが。
「ちょっとはなちたいことがあるの。ユートちん、席を外してくれないかな」
「わかった」
「え、修行は……」
「大丈夫、五分もあれば終わるから」
そう言って、勇者は大人しく席を外してしまった。突然の事態に困惑していると、
「ところで、お姫しゃま」
「どうした、少年」
ニコニコ笑顔で少年は椅子から降りると、俺の前に立ち塞がった。仰々しい所作のせいで言葉のやりどころに困っていると、少年は笑顔のままこう言った。
「あんな人形、捨て置けばいいじゃない。別にアレを救いたいだなんて思ってないんでしょ?」
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