第二十話 俺の服って……結構ボロかったんだぜ?
食事を終えた俺は、満足げな表情を浮かべながら、にぎやかな夜道をのんびりと歩いていた。
これから向かう先は、昨日店主さんに紹介してもらったナルニス装備店という場所だ。
冒険者に人気の装備店と言うことで、結構期待している。
「……お、良かった。まだ営業時間中だったか」
営業時間を過ぎているのだけ心配だったが、客足が少しあることから、その心配は杞憂で終わった。
俺はそっと店の中に入ると、店内をぐるりと見回す。
「ん~本当に色々あるなぁ……」
店には動きやすさ重視の服や、安めの武器防具。ちょっとしたサバイバルグッズなんかが売っていた。
色々と買いたいものはあるが、まだそこまで金に余裕があるわけではない。
今晩の宿代も残さなくてはならないし、一先ずは不自然にならない程度の服を買うとしよう。
道行く人から偶に向けられる視線が、結構痛かったからね。
「無難な見た目で値段も普通程度となると……まあ、この辺りかな?」
他の人と同じような、無難なものが良いと思った俺が選んだのは、5000セル程の服数着だ。
さて、後は《鑑定》で詳細の確認をしてから決めますか。
こうして、俺はそれらの服に《鑑定》を使い、一番いいのがどれか見る。
「……お、これがいいな」
鑑定した結果、黒を基調とした服が、この中では一際品質が良いものだということが分かった。
レベルが足りず、何の素材を使っているのかは分からなかったが――裏を返せば、それは今のレベルの《鑑定》では完全に見通すことが出来ない程度には良い素材を使っているということを意味する。
「すみません! これを下さい!」
俺は手を上げると、ここの店員を呼ぶ。
そして、値段通りの金を払うと、服を受け取った。
よし! これでもう二度と、服装のせいで変な視線を浴びる心配はない!
さあ、後は宿に帰って寝るだけだ。
本当はもうここで着替えたかったのだが……残念なことに、ここには更衣室が無いからね。
ま、街灯が夜道を照らしてるといっても、この暗さなら、俺の服装に目が行くことも無い……はず。
「よし。行くか」
そう呟くと、俺は服を丁寧に畳み、リュックサックの中に入れた。
そして、店を出ると、足早に宿へと向かって歩き出す。
程なくして、宿に到着した俺は、中に入ったところで従業員に金を払うと、部屋に向かった。
「……あー疲れた~」
ドアを開け、中に入った俺は鍵を閉めると、ベッドにダイブする。
そして、枕に顔を埋め、ゴロゴロと転がる。
うん。マジで気持ちいい。
「ん~……はあ」
やがて、枕から顔を離すと、大の字になってベッドに寝転がりながら、天井をぼんやりと眺める。
レベル上げに夢中になりすぎていて自覚していなかったが、どうやら俺は相当疲れていたようだ。
体が重く、新しい服に着替える気力すら出てこない。
俺は脱ぎ捨てるようにして靴も脱ぐと、明日以降の予定を考える。
まず、《付与》で自身の装備品全てにエンチャントをしておこう。
今のレベルでは、大したエンチャントは出来ないが、それでもないよりはマシだ。
あとは、金だな。
Fランクに上がったことで、受けられる依頼のレパートリーもそこそこ増えた。
それでとにかく金を稼いで、装備を充実させないと。
そして、本命の冒険とレベル上げ。
最低でも今の時間軸について分かるまではここに留まるつもりだが、それが終わったら、スリエを出ようと思う。
強くなりながら、冒険をする。
それが、俺の方針だ。
だから、今日みたいに無茶してレベル上げをするつもりは当分ない。
やるとすれば、それは急を要する事態に限られる。
「……寝る。疲れた」
昨日以上に疲れを感じた俺は、重くなった瞼を閉ざし、深い眠りに落ちて行った。
◇ ◇ ◇
次の日の朝。
だいぶ日が上がって来た頃に目を覚ました俺は、早速昨日買った服に着替えることにした。
だが、その前に《付与》を試しておこう。
《付与》は知っての通り、人や物に様々な特殊効果を付けることが出来るスキルだ。そして、物に対してのみ、《付与》の効果が永続化されることとなっており、逆に人――生物に対して使うと、時間経過で解除されてしまう。
なんでこんな違いがあるのかは……まあ、運営のバランス調整の結果だろう。
それで、現状使える《付与》は攻撃力上昇と防護力上昇と言う、定番中の定番エンチャント2つだけだ。
それも、スキルレベルが2であるが故に、そこまで効果は強くない。
だがそれでも、やらないよりはよっぽどいい。
と、言う訳で、早速試して行こう。
「《付与》防護力上昇!」
俺は服を手に取ると、そこに右手をかざし、唱える。
すると、右手に展開された魔法陣が光り輝き、それと同時に服を淡い白の光が包み込む。
やがて、魔法陣が消え、それに伴い服を包み込んでいた白い光も、すっと消えた。
「成功……なのかな?」
多分成功したんだろうけど……見た目は全く変わっていないせいで、あまり実感が湧かない。
そこで、俺はまだ《付与》を使っていないズボンと比較してみることにした。
「えっと……はっ!」
俺は服の袖に腕を突っ込むと、服越しに腕を叩いてみた。
……うん。痛いね。
次に、俺はズボンの中に手を突っ込み、同様に叩く。
……うん。痛いね。
結果、どっちも痛いことが判明した。
……とまあ、冗談は置いといて、真面目に言うと、やはり《付与》を施した方が痛みは小さかった。
つまり、《付与》の効果はちゃんと働いているということになる。
「うん。じゃ、こっちもやるか」
そう言って、俺はズボンやリュックサック、山刀にも、同様に《付与》を施した。
これで、本来よりもちょっとだけ、俺は死ににくくなった。
「さてと。それはそうと、そろそろご飯を食べに行かないと。その後は、依頼を受けて、金を稼ぎつつレベル上げ。そして、余裕が出てきたら情報収集をするか」
今日も頑張るぞ!
そう気合を入れると、俺は朝食を食べに、下の階へ向かうのであった。
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