第二十五話 いざ、影の支配者のアジトへ!

 その日の夕方――


「はっ はっ」


 そこそこの大きさのドラゴンの首を、俺は《付与》によって強化された筋力をもってして、両断する。

 つい先ほどまで俺の幻影と戦っていたドラゴンは、背後からの一閃に何が起きたのかも分からぬまま、苦悶の声すら上げずに絶命し、地に斃れた。


『レベルが83になりました』


「ふぅ。今日はこんなところかな?」


 俺は沈みゆく夕陽を見ながら、そう呟いた。

 午前中に色々あったせいで、これぐらい上げるのがやっとだったが……まあ、問題は無いだろう。

 レベル100じゃなくても、犯罪組織のアジト程度なら、簡単に壊滅させられる。

 しかも今の職種は、そういったことに長けた職種だ。

 失敗する道理は――無い。


「で、数値はどうなったのかな……?」


 そう言って、俺は自身のステータスを見る。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

【名前】レオス

【種族】人族

【職種】幻術師

【レベル】83

【状態】健康

【身体能力】

・体力1016/1016

・魔力1116/1116

・筋力817

・防護1016

・俊敏1016+300

【魔法】

・闇属性レベル4

【パッシブスキル】

・暗視レベル9

・恐怖耐性レベル8

・闇属性魔法耐性レベル6

・俊敏上昇レベル3

【アクティブスキル】

・付与レベル9

・鑑定レベル9

・幻術レベル9

・実体化レベル7

・看破レベル5

・遠見レベル2

・気配隠蔽レベル1

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「うん。いい感じだ。《付与》による身体強化等を加味すれば、結構余裕を持って、アジトを制圧出来るんじゃないか?」


 現実世界となった今、ゲームの時のようにアジトが一か所にしかない……というのは、どう考えてもあり得ない。

 だが、裏を返せば1か所――恐らく本部であろう場所は構造含め、あらかた割れているということになる。

 まずはそこに《幻術》等を使って潜入して情報を探りつつ、まるで神隠しにでもあったかの如く、敵の人数を減らしていくとしよう。

 ふっふっふ。恐怖に怯える敵の姿が目に浮かぶぜ!


「じゃ、戻るか」


 そう言って、俺はくるりと背を向けると、スリエへ向かって走り出した。


 ◇ ◇ ◇


 スリエに戻った俺は、早速”陰の支配者”のアジトがあるであろう場所へと向かう。

 そうして辿り着いたのは、街の一角にあるこじんまりとした飲食店だ。

 家族でのんびりと来るのが似合いそうな、いい雰囲気の店。

 だが、それは裏の顔を隠すためのカモフラージュ。

 本当の姿は、数多の犯罪に手を染める凶悪な犯罪者集団――”陰の支配者”のアジトなのだ。


「さて、そろそろ店仕舞いの時間だろうし、潜入するか」


 俺はすっかり日が沈み、星の海となった夜空を見上げながらそう言うと、《幻術》で姿を隠蔽し、更に《付与》で気配隠蔽を施す。

 そして、店仕舞い一歩手前の所で、正面から堂々と中に入った。

 さーてと。

 地下へと続く隠し扉は……あ、あったあった。

 ゲームの時と同様に、隠し扉は店員しか入れない厨房の床に、しれっと存在していた。

 俺は《幻術》を展開して周囲をカモフラージュすると、そっと扉を開け、中に入った。

 そして、梯子をゆっくりと下りる。

 ……いやードキドキするなぁ~

 バレない――むしろここまで小細工して、バレる方がおかしいとは分かって入るものの、それでも心配はしてしまう。

 まあ……万が一バレても、俺の技量なら死ぬことは無いしね。

 即殺すれば、誰かに連絡される心配も無し!

 そんなことを思いながら梯子を折り続け、やがて底に辿り着いた。


「ふぅ……」


 小さく息をついた俺は、辺りを見回す。

 そこは、端的に説明すれば酒場だった。

 ”陰の支配者”の構成員らしき人たちが、騒いでいる。


「こうしてみると、冒険者ギルドの酒場とほぼ同じだな」


 冒険者ギルドの酒場も、こんな風に笑いや怒号で溢れていた。

 ……いや、怒号はここまで無かったか。

 ここに怒号が多いのは、ここにいる人が全員、もれなく犯罪者だからだと思う。

 犯罪者って荒れくれ者が多いからね。

 ま、俺の偏見だけど。


「それじゃ、奥に進むか」


 ここにいる奴らは、どうせ暫くはここから離れないんだろうし、先に情報を集めてからにしよう。

 ここで潰したら、「突然静かになったけど何事だ?」て感じで違和感を持たれるのは確定だからね。

 そう思った俺は、奴らを置いて先へと進む。


「……物騒だなぁ」


 細い通路の両脇にも通路があるのだが――そこには投石用の石やクロスボウなどが置かれていた。

 恐らく、万が一の時の迎撃用だろう。

 この細い道では、どれだけ人を連れて来ても1列にならざるを得ず、そこにしこたま攻撃を喰らわされたら、たまったもんじゃないからね。

 まあ、俺みたいに超絶隠密が得意な人が来たら無力だけど。

 そう思いながら、歩く。

 そうして見えてきたのは、いくつかのドアだった。


「よし。早速入るか」


 俺は《幻術》でドアが開く光景を隠しながらドアを開け、中に入る。

 すると、そこには高級そうなソファで寛ぐ1人の男が居た。

 ん~……もしかしなくても、こいつが”陰の支配者”の長だよな?

 ゲームで顔をバッチリ熟知していた俺の目は誤魔化せないぞ~!

 よし! そうと決まれば早速捕縛だ!


「《幻術》《恐怖フィアー》」


 まず始めに使うのは《幻術》。

 直後、こいつはピクリと固まったかのように動けなくなった。

 そして、ドッと冷や汗までかいている。


「ふっふっふ。怖いだろう……」


 その様子を、俺は不敵な笑みを浮かべながら呟く。

 いやーいい感じにハマったね。

 俺が何をしたのかって言うと、こいつに死屍累々が広がる、荒れ果てた大地の上で、死神に大鎌を引っかけているって状況を《幻術》で見せているだけだ。

 ついでに《恐怖フィアー》で恐怖心も抱かせている為、さぞかし心に来ていることだろう。

 この辺は、流石現実世界と言うべきか、ゲームと違って結構融通が利いたんだよね。

 ゲームの時は、そこまで細かく《幻術》を設定できなかったからな~

 てか、何でも見せられたら、ゲームの場合は大問題だな。

 すると、俺の幻術に囚われている長が口を開く。


「おま……あ、あなたは誰ですか……?」


 こいつの言う”あなた”とは、十中八九俺が《幻術》で見せている黒ローブの死神だろう。

 俺は尋問を円滑に進めるべく、死神に「私は死を司る番人だ。我が問いに答えぬのならば、永劫の時を地獄で生きると思え」と言わせてみた。

 言葉が厨二臭いのは、まあご愛敬ってことで。

 すると、こいつはビクッと体を震わせた後、まるで祈るように手を組むと、両膝をついた。

 そして、「何でも答えます。なので、どうか……!」と、どこか懇願するような瞳で死神――もとい虚空を見つめる。

 ああ、涙も出ているなぁ……


「くふっ……」


 泣く子どころか大人も黙る犯罪組織の長のあんまりな姿に、俺は思わず口元を押さえて笑う――が、《幻術》が万が一にでも見破られないようにと、俺は直ぐに口を閉ざし、「貴様らの巣は1つだけか?」と聞いてみた。

 すると、直ぐに「はい。アジトは1か所だけでございます」と返って来た。

 へぇ。1か所だけなんだ……

 それは意外だったな。てっきりいくつかあるものなのかと思ってた。

 嘘ついてる可能性もなくはないが……まあ、流石にこの状況で嘘はつけないだろう。


「ん……言うて他に聞きたいことも無いし、あんまり時間かけるのもあれだから……殺すか」


 そう呟くと、俺は片手剣を一閃し、こいつの首を斬り飛ばした。

 法律上、この場合は問題ないと知った。バレれば詰問ぐらいはされるだろうが……まあ、足はつかないようにしているので問題は無い。

 ……それにしても、何気に初めて人を殺したな。

 だが、意外にも心は痛まなかった。

 恐らく、魔物を殺しまくっていたことに加えて、こいつが根っからの悪人だったことが関係しているんだろう。


「さてと。時間をかけられないし――ここからは殲滅の時間だな」


 アジトがここだけなのが分かった今、もう躊躇する必要はない。

 徹底的に――潰す。

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