第四十一話 程よい手助け

 暗緑色の鱗を光らせ、顎を大きく開けて咆哮する様には、この場にいる全ての人が驚き、萎縮していた。

 こいつは確かグリーンドラゴンだったかな。風の魔法を使う、中位龍だ。

 で、レベルは……げ、レベル50もある。

 俺なら鼻歌を歌いながらでも片手間に捻り潰せるが、主人公たち+αではちょっとキツい気がする。

 ただでさえレベル差があるのに、ドラゴンっていう種族の都合上、ステータスの値で見れば2倍以上の差がある。


「こ、これは流石にヤバいだろ。おいおい。運営しっかりしろよ~」


 そう言いながら、俺は主人公たちを見やる。


「レベル50……くっ スケルトンソルジャー、行け!」


 お、主人公はそんな状態でも臆せず、攻撃を仕掛けに行った。


「グルアアァ!!!」


 だが、突撃していった死霊は全て、ドラゴンの風の咆哮によって、1撃で粉々にされてしまった。

 こいつ相手にその程度の死霊は相手にならない。

 この場合は向いてなくとも直接戦った方が良い。

 それぐらい、両者の相性は悪いのだ。


「ぐっ こいつを魔法師たちの射程圏内に入れるか。おい! 俺たちにヘイトを集めつつ、少しずつ引くぞ!」


 この場にいた、スリエ唯一のAランク冒険者パーティーの1人が声を張り上げてそう言った。


「ああ! よし。聞いたな、レイナ、ゼイル」


「ああ、やってやろうじゃないか」


「これが終わったら派手に祝勝会をやるわよ!」


 そうして、主人公たち+αは、飛ばれてしまわないようにヘイトを常に自分たちに向けながら、少しずつ後ろに下がり出した。

 お~中々悪くない。

 レベル差はあれど、城壁の上にいる人たちが一斉に攻撃すれば、主人公たちにヘイトが向いているこいつは、モロに攻撃を受けることとなる。

 2発目以降は一部対処されてしまうようになるだろうが、それでもそこそこのダメージは負わせられると思う。

 ただ、それでも……


「厳しい。ねぇ……」


 彼らに合わせて俺も後ろに下がりながら、ポツリと呟いた。

 多分、それでも勝つかと聞かれたら……五分五分だな。

 勝ち目のない戦いという訳ではないが、必ず勝てる戦いという訳でもない。

 そんな感じの戦いになるだろう。

 つまり、死傷者も多く出るわけで、その筆頭となるのは勿論、最前線でドラゴンと直接戦っている主人公たちだ。


「……よし。手遅れになる前に、手を貸すとするか」


 何度でも言うが、俺は主人公が死なれたら困るのだ。


「それで、どうやって助けようかな……」


 このまま姿を消して、グリーンドラゴンを背後から攻撃するのは違和感が出てくるだろうし……

 あ、彼らの攻撃に合わせて攻撃すればいいんだ!

 具体的には、主人公たちの攻撃が当たった箇所に、俺がその都度殴るって訳だ。

 そうすれば、違和感なくやれる……と思う。

 そんなことを考えていると、どうやら弓術師や魔法師等の射程圏内に入ったようで、後ろ上空から大量の矢や魔法が降り注いできた。

 主人公たちにも当たるのでは?と一瞬思ったが、飛んできた瞬間を見計らって、皆後ろに退避していた。

 その際に主人公が死霊だけはちゃんとその場に残していたため、即座にヘイトが飛来する矢と魔法に向くことも無い。

 うん。中々いい死霊の使い方だな。

 そう思った直後、ドラゴンに攻撃が降り注ぎ、ドラゴンは苦悶の咆哮を上げた。


「ん~……2割削れたか」


 今の猛攻で、削れた体力は2割。

 なら、あと4回やればいいだけじゃん!……ってなるのかもしれないが、そんな甘い話ではない。

 まず、こいつは常時再生を持っている為、何もしなくても回復する。

 それでもって、攻撃してくる奴に何もせず、一番近い人を狙う程馬鹿でも無い。


「グルアアァ!!!」


 城壁の上に顔を向けると同時に――咆哮。

 直後、渦巻く風が城壁の上へ向かった。


 ドオオオン!!!


 轟音が響き渡り、土煙が立つ。

 そして、土煙が消えて見えてきたのは大きくへこんだ城壁の姿だった。

 あの様子では、あと1発撃たれれば、あの場所は崩壊するだろう。

 そして、そんなことが分かってて撃てる人なんてほとんど居ない。

 だから、もうあそこからの援護射撃はあまり期待できないな。


「よし! 俺がヘイトを稼ぐ。その間に、確実にダメージを与えてくれ!」


 主人公の指示のもと、彼らは動き出した。


「《死霊召喚》《死霊強化》……行け!」


 主人公が即座に死霊を召喚し、ドラゴンに突貫させる。

 大したダメージは与えてこない奴らとは言え、攻撃してくる奴を無視するようなことはせず、さっきと同様に撃破していく。


「はああっ!」


 そこへ、右側からレイナとゼイルが突撃し――


「おらぁ!」


 右側からギルマスのガラックさんがナックルをつけた拳で思いっきり殴りつけた。

 ただ、このままやられっぱなしで居てくれるわけも無く……


「グルアアァ!!!」


 尾をぐるりと振るい、鎧袖一触。

 接近していた彼らを軒並み振り払った。


「ぐはっ!」


「ぐっ」


 手痛いダメージを受けたようで、彼らは地面に膝をつく。

 ただ、あの攻撃をした後のドラゴンには大きな隙が生まれるので、そこを叩くのがかなり効果的なのだが……この状況でそこまで頭が回らないのか、はたまたそれを知らないのか、後ろに居たことで攻撃に巻き込まれなかったAランク冒険者パーティーは警戒するように各々の武器を構えるだけだった。

 あの様子じゃ、少なくとも誰かは死ぬぞ……特に、レイナとゼイルのどちらかは。

 あの2人も死なれて欲しくないし、手遅れになる前に行動に移すか。

 そうして、俺は分身体に意識を向けつつも、慎重に前へと出た。


「ふぅ……よし。やるか!」


 時間が経ち、動けるようになったレイナたちが、再び主人公のヘイト管理の元で動き出した。

 そして、ドラゴンに攻撃をする。

 そこに、俺は横から割り込むようにして、彼らが攻撃した場所と全く同じ場所を、同じタイミングで殴った。


「グアアアア!!!」


 すると、さっきとは打って変わって、ドラゴンが僅かに後ろへ下がった。

 さっきまでとは受けたダメージの量が格段に違うからな。

 それで、残る体力は……5割切ったか。


「よし! 押せてるぞ」


 分かりやすくダメージを受けたこともあってか、主人公たちの顔に希望が見え始める。

 勝ちへのビジョンが見えたんだろうね。

 ただ、こいつって体力が1割切ると空飛んで、攻撃がより苛烈になるんだよなぁ……

 遠距離攻撃持ちがここに居ない以上、それはちょっとマズい。

 ま、ちと強引だが対処法は考えてある。

 だから、問題は無い。


「おらあ!」


「はあああっ!」


「はあっ!」


「はああっ!」


 待っていたら常時再生で回復されてしまうということで、主人公たちはとにかく攻撃の手を緩めずに、ダメージを与えていった。

 当然俺もそっと攻撃をして、ダメージを与えている。

 そうして、遂にドラゴンの体力が1割を――切った。


「グルアアアア!!!」


 天めがけて咆哮。これは飛ぶ合図だ。


「させねぇよ」


 俺は素早くドラゴンの下に潜り込むと、足を思いっきり掴んだ。

 直後、ドラゴンは羽を羽ばたかせ、飛ぼうとするが――


「グルアアァ!?」


 当然、俺が掴んでいるから飛ぶことも出来ない。

 そして、その間にも主人公たちは攻撃を仕掛けに来ており……


「グ……グルアアァ!!」


 なんか妙に苛立ったような咆哮と共に、そのまま主人公たちへ攻撃を始めた。

 ただ、なんか妙に攻撃にキレが無く、そのせいで簡単にダメージを受けてしまい……


「グ、ガァ……」


 頭が地面に倒れ、勝負がついてしまった。

 多分、俺に気が散っていたからだと思う。そのせいで、攻撃にキレが無かったんだ。

 にしても、最後は意外とあっけないものだなぁ……

 そんなことを思っていると、向こうから歓声が聞こえて来た。


「勝ったぁ……」


「さ、流石に危なかったぜ」


「よ、良かった……」


 主人公とゼイルは疲労からか、へなへなとその場に座り込み、レイナはその場に突き立てた槍に寄りかかっていた。


「まあ、何にせよ。良かったな」


 見えない場所に居る分身体の操作に苦戦しながらも、俺は穏やかな気持ちでそう言った。

 こうして、スリエ存続の危機は、僅か1時間弱の戦闘を持って、終了したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る