第四十話 あれー?
門の外に出た俺は、周りの冒険者たちと同じような場所で立ち止まった。
ん~にしてもこんなに沢山の冒険者が並んでいる光景も壮観だなぁ……
「ん~わくわくしてきた」
思わずそう口ずさんでしまうぐらいには、この状況を俺は楽しんでいた。
ゲームにおけるスタンピードの出来事を大まかに纏めるとこうだ。
まず、森からレベル20程度の魔物100体とそれらを纏めるレベル30程度の魔物が4体出てくる。
そいつらを冒険者や騎士と共に残り2割になるまで殺すと、森からレベル40のボスが出てくる。
最後にそいつを倒せば事件解決……って感じだ。
今の主人公たちのレベルは知らないが、反転の迷宮を攻略したのなら、最低でも35はあるはずだ。
それなら十分このスタンピードを乗り切れると思う。
「おいおい。随分と余裕そうな顔してんなぁ」
おっと。あんまりにも余裕そうな態度を取っていたせいで、やっからみに遭ってしまった。
戦いにおいて余裕を持つことは決して悪いことではないのだが……何事にも限度ってものはある。
流石に今のはその限度を余裕でぶっちぎっていたなぁと内心後悔しつつも、その男に向き直ると口を開いた。
「内心はヤバいっすよ。逆にこうでもしてないと、気の弱い俺じゃあやっていけないんです」
トラブルを起こして目立ちたくないと思った俺は、さっさと終わらせるために、下出に出ながら上手いこと言い訳してみた。
さて、信じてくれるかな……?
「お、おう。ならいいや。ただ、あんまりやりすぎんなよ」
思ってた反応とだいぶ違ったのか、男は戸惑ったような様子でそう言うと、去って行った。
返す言葉が見つからなかったって感じだろうか。
そう思っていると、急に最前線が騒がしくなった。
「なにが……ああ、出て来たか」
人と人の隙間から覗いてみると、森から出てくる魔物の姿が確認できた。
そして、そいつらに向かって前線に出た高ランク冒険者が突撃していく。
あ、よく見ると主人公たちもいるな。
ただ……ここからじゃよく見えない。
「よし。《幻術》」
俺は《幻術》を使って自身の姿を消すと同時に、同じく《幻術》でその場に自身の幻を作った。
1か月の創意工夫と鍛錬によって成長したこの幻には気配や体温、質感なども感じられるようになっており、注意深く触られない限りはバレないだろう。《実体化》という幻を実体化させるスキルがあった幻術師の頃なら、もっと上手くできたのだろうが……まあ、無い物ねだりしても仕方ないか。
さて、あとはこいつを上手いこと操作して戦いながら、本体は前線に行って戦いを見に行けばいい。
そして、万が一主人公たちが死にそうになったら、助けてあげよう。
他の冒険者はぶっちゃけどうでもいいのだが、主人公たちが死なれるのは色々な意味でマズいからね。
ここは現実世界だから、前のように予期せぬトラブルもあるはずだ。
そんなことを思いながら、俺は実体化させた自身の幻をその場に残すと、こっそりと前に向かって走り出した。
本当は追加で《気配隠蔽》があれば楽なんだろうけど、生憎今はないんだよね~
代わりに全力で《幻術》を使えば問題なし。
鍛錬によって五感までもを誤魔化せるようになった《幻術》を駆使して前へと進み、とうとう戦いが良く見える位置まで来れた。
「《死霊強化》やれ! スケルトンソルジャー!」
主人公ことダーク・クリムゾンは何体もの強化したスケルトンソルジャーを向かわせ、襲い掛かってくるオークにダメージを与える。
「はあっ!」
そして、スケルトンソルジャーたちにヘイトが向いている隙にレイナが槍を横から突き立て、より深いダメージを与え――
「おらぁ!」
ゼイルが剣を振るい、とどめを刺した。
うん。順調だなぁ。
流石に彼らだけでは倒しきれず、半数以上はスリエの方に行ってしまってはいるが、そいつらは城壁の上からの攻撃と、下の突撃部隊によって少しずつではあるが、確実に撃破している。
この調子なら、案外直ぐに撃破できてしまうかもな。
「……おっと。幻の方もちゃんと動かしとかないと」
仲間が突撃していく中、ただ1人だけ突っ立っているのは流石にマズい。
そう思った俺は、幻――分身体の操作に意識のリソースを割く。こいつには質量がないから、相手を攻撃するみたいな真似は出来ない為、そこそこ活躍してる感は出しつつ、下手な攻撃はしないように心掛けなければならない。また、目を閉じてより意識を集中させることで分身体の方に視覚を移すことも出来るが、流石にそんな余裕はない。
さて、これを活用してきちんと主人公たちの活躍を見なければ……!
そうして、俺は分身体を動かしながら、観戦を続ける。
「……あ~れ? 何か数が多くないか?」
ここ以外の場所も見て分かったことなのだが……明らかにゲームの時よりも数が多い。
ゲームだったら、とっくに終わってる。
まあ、ゲームの時よりも戦う冒険者の数が多いから、さしたる問題は――
「……何か強くね?」
途中から、魔物の強さが上がった気がする。
4体いるレベル30の魔物……と言う訳ではない。
明らかにいくらでもいる普通の魔物。
試しに鑑定してみると、なんと30レベルもあった。
新たに出てきた魔物を全て鑑定してみるが……それも全て30。
「あれ~……ま、まあ。これくらいなら冒険者と騎士の数を考えれば、言うてトントンだな」
ゲームの時よりはだいぶハードになっているが、冒険者の数を考慮すれば、全然許容範囲内だ。
事実、さっきよりも苦戦はしているが、ちゃんと倒せている。
「よし。レベル40になった。……《死霊召喚》《死霊強化》」
お、主人公のレベルが40になったようだ。
まあ、前線であれだけ派手に戦ってたらレベルも上がるわな。
特に主人公って、死霊を沢山召喚して戦う都合上、多対一に向いてるから、案外この戦いに限れば有利だったりする。
ただ、強い相手1体とかだと、レベル差の暴力で戦わないとキツいんだよな~
そんなことを思っていると、奥から地響きが聞こえて来た。
その音は、段々と大きくなっていく。
この感じ、どうやらとうとうボスが出てくるようだ。
「ここで出てくるボスはオークジェネラルだったな」
オークジェネラルとは、ざっくり言えば超強化版オークだ。
純粋な鈍足高耐久アタッカーなので、遠距離から死霊を召喚して戦う主人公は有利……かに思われるが、あいつって攻撃力が結構あるから、それをし続けているだけだと押し負けるんだよね~
だから、味方のレイナとゼイルとの連係がカギとなってくる。
まあ、今の戦いの様子を見る限りなら、問題は無いだろう。
ドンドン――ガサガサッ!
木々が押し倒され、森から最後の魔物が姿を現した。
他の魔物はスリエ近くにいる人たちが前線を押し上げて対処しているので、主人公たちはこいつに集中することが出来る。
ただ、これは……
「あれ? オークジェネラルは?」
思わずそんな声を出す。
それもそのはず、森から出て来たのは――
「グルアアアア!!!」
そこそこ大きなドラゴンだったのだ。
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