第三十九話 強制召集byガラック

 次の日の朝。

 スタンピードのことを思い、少し早めに起床した俺とフェリスは、冒険者ギルドへと向かって歩いていた。

 レベル上げの件だが、フェリスは無事レベルを1上げ、レベル80にすることが出来た。

 レベルが80になったお陰で、全てのスキルレベルが1ずつあがり、更に常時再生のスキルも手に入った。

 フェリスも嬉しそうにしていたし、結果としては上々だ。

 そんなことを思いながら、俺は冒険者ギルドに入る。


「ん~特に変わった様子はなさそうだな。それじゃ、報告があるまでそこら辺で待ってるか」


 冒険者ギルド内を見渡し、特にいつもと変わった様子は無いと判断した俺は、フェリスにそう言うと、壁際へと向かう。

 そして、壁に背中を預けると、チラリとフェリスを見やる。

 特に意味は無く、ただ自然と目が行った……といった感じだ。

 だが、じっと見られるのは恥ずかしいようで、フェリスはローブのフードを深くかぶると、口を開く。


「ど、どうしましたか?」


 顔が見えずとも、顔を赤くしているということが分かるような声。

 そんな可愛らしい声に、俺は思わずふっと笑うと、「いや、何も」と言う。

 すると、俺の反応が気にらなかったのか、むすーっとフェリスが頬を膨らませた。

 可愛い。

 だが、そうしたままにし続けるのもあれだと思い、声をかけ――ようとした瞬間。


 バン!


 勢いよく扉が開かれ、幾人かの冒険者らしき人達が入って来た。

 彼らはずんずんと前へと進むと、緊急だと言って口を開く。


「森の調査をした結果、急激な魔素濃度の上昇が確認できた! いつ起きてもおかしくないぞ!」


 そう言って、1人が依頼票を掲げる。

 どうやら彼らは毎日出されている森の調査依頼を受けた冒険者のようだ。

 森の調査依頼は、Cランク以上の冒険者が受けることの出来る依頼で、これと言った苦労も無く、そこそこの報酬が貰えるということで、割と人気の依頼だ。

 それで、普段は異常なしって報告するのだが、今回は異常があったと。

 それも、急激な魔素濃度の上昇。

 どうやら、スタンピードがもうすぐ起こるようだ。


「レオスさん。もしかして……」


 フェリスも、これから何が起こるのか察したようで、やや不安げな表情を浮かべながら俺に声をかける。

 そんなフェリスの言葉に俺は頷くと、口を開いた。


「ああ。スタンピードが起こるぞ」


 ざわざわとし出した冒険者たちを見ながら、俺はそう言った。

 すると、受付の奥から筋骨隆々なスキンヘッドの男が出て来た。

 見るからに強そうなあの人がこの冒険者ギルドのギルドマスターで、ガラックって名前だ。

 ガラックはその瞳を薄く細めると――


「お前ら! 静かにしろぉ!」


 大きな声でそう叫んだ。

 建物が揺れたかと錯覚するような叫び声によって、場は急速に静まり返る。

 ナイスだ。ギルマス!

 思わずグッジョブと言いたくなるような行動を取ったガラックは、更に前へ進むと、口を開く。


「昨夜の報告から、もしやと思っていたが、まさか本当にそうなるとはな……よし。そっちは領主館と衛兵詰所に使いを送れ。冒険者には緊急時における強制召集をギルドマスターの権限によって発令する。この場にいない冒険者にも知らせに行ってくれ! そして集合場所は森がある西の門だ!」


 そして、矢継ぎ早に指示を出していく。

 にしても強制召集か。

 下手な使い方をしたら、結構マズいことになるそれを何の躊躇いも無く発動するのは凄いなあ。

 さて、強制召集と来たので、こちらも動くとするか。


「フェリス。西門へ行くよ。ただ、今行ったらこいつらの波に巻き込まれるから、少し待機で」


 俺は雪崩のように外へ出ていく冒険者たちを見ながらそう言った。

 流石にこの状況で外に出るのは、ねぇ……

 フェリスも俺の意見には賛成らしく、コクコクッと首を上下に振った。

 そうしている内に、大体の人は出て行ったことで、冒険者ギルドはだいぶ静かになった。


「よし。それじゃ、行くか」


「はい」


 そうして、俺たちはスタンピードを止めるべく、小走りで西門へと向かった。


 数分程走った先に見えてきたのは、西門の下に集まる多くの冒険者たちの姿だった。

 不安そうな顔をする人から、暴れられるぜと笑う人までさまざまだ。


「E、F、Gランクはそっち! Dより上はそっちへ行け!」


 高ランク冒険者が一段高い所から、声を張り上げてそう連呼しているのが見えた。

 なるほど。ランクが低く、戦力にならない冒険者は補助に回し、ランクの高い、戦力になる冒険者は戦闘に回すという訳か。

 それで、俺とフェリスはDランクだから……お、ギリギリ戦闘役に入ったか。

 補助よりも戦闘役になった方が報酬は多い筈なので、これは嬉しい。


「よし、フェリス。そっちへ行くか」


「はい。分かりました」


 俺とフェリスは頷き合う。

 そして、Dランクよりも上の冒険者の集まりへ向かった。


「遠距離攻撃持ちの奴は、そこから城壁の上に行ってくれ! 近接はここから打って出るぞ!」


 そこで声を張り上げているのは……ああ、主人公ことダーク・クリムゾンか。

 うっ 今思っても痛い名前だぁ……

 特に、パーティー名がヤバい。

 誰だよ。創成と破壊の四天王めっちゃ痛々しい名前を付けた奴。

 ……俺だよ!

 そんな感じで1人で勝手にダメージを受けていると、フェリスがくいっと俺の服の裾を引き、俺の後ろに隠れた。

 フェリスは、主人公たちと顔を合わせたくないからね……て、よく見たら主人公の隣にレイナとゼイルも居るな。

 ラウラだけ居ないが、恐らく彼女は城壁の上に居るのだろう。

 俺は前方に聳え立つ、スリエをぐるりと囲むようにして存在する城壁を眺めながらそう思った。


「……さて、ここで一旦別れるか。なるべく目立たないようにしてくれると嬉しいが……ま、そこら辺のさじ加減は任せるよ」


 俺は、フェリスに向き直るとそう言う。

 毎度の如く、目立ちたくはないからな。

 本気でやれば、死傷者ゼロでこの戦いを終わらせられると分かっていながらも、手を抜く。

 そこに迷いは無い。

 自分のことを顧みずに人を助けられるほど、俺はお人よしじゃないんだ。

 それに、彼らは冒険者。そこら辺は自己責任だ。

 もっとも。街に侵入されるのは流石に嫌なので、そうなりそうだと少しでも思ったら、陰ながら全力で加勢するが。


「分かりました。レオスさんも気をつけてくださいね」


 そう言ってフェリスは深くフードを被ると、城壁の上へと続く階段に向かって歩き出した。

 俺はそんなフェリスの後ろ姿を見守ると、視線を門の外へと向けた。


「……よし。行くか」


 遂にゲームのイベントを実際に見られるという興奮に胸を躍らせながら、俺は足を前に動かした。

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