第三十八話 スタンピードを発生させる魔法陣
より鬱蒼とした木々の間を抜け続け、道を知っていなければもう帰ることは困難だろうと思われるぐらいにまで進んだその時、俺はようやく立ち止まった。
そして、1歩2歩と歩いて木々を抜けると、そこには直径10メートル程の円形の広場があった。
俺はその広場の地面に描かれていた
「やはりあったか」
「やはりって何が……え?」
俺の後に続いて出て来たフェリスもそれを見て、呆然とする。
そう。そこには、その広場いっぱいに描かれた大きな魔法陣があったのだ。
魔法陣は煌々と赤く光り輝いており、その周囲は今までと比較にならないぐらい空気が重い。
「これは、スタンピードを発生させるための魔法陣だ」
「スタンピードを? そんなものがあるんですか?」
「ああ。原理は全く知らんがな」
フェリスの言葉に、俺はそう答える。
いや~だって知らんよ。原理なんて。
設定資料集にも載っていなかったし……ゲームの開発者もそんなのは考えていないだろうからね。
「でしたら、早くスリエへ知らせに行って、調査隊を派遣しないと!」
そう言って、逸るフェリスを俺は手で制して止める。
「待て。知らせない方が良い。こいつを仕掛けたのは魔人族の王、魔王だ」
「ま、魔王!?」
俺の言葉に、フェリスはまたもや驚く。
「ああ。それで、こいつを今調査され、壊されると……事情は詳しく言えないが、最終的な被害がより大きくなる可能性が非常に高いんだ。どの道ここから出てくる魔物程度なら、スリエに居る奴らでも対処できる。だから、これは見なかったことにしよう」
そう。これを壊されると、取り返しのつかないことになる可能性があるのだ。
それは、スタンピードで発生する魔物の中で、1番強いボスモンスターを倒すことで入手できる”怨念の欠片”というアイテムがカギとなる。
これは各地で魔王が原因によって起こる事件を解決することで手に入るアイテムで、7つ集めると”怨念の塊”というアイテムへ変わり、これを解析してもらうことで、魔王最期の足掻きを防ぐ”怨念封印”というアイテムになる。
だから、今これを壊されるなどして、怨念の欠片が手に入らないなんていう事態になって欲しくないのだ。
もしそうなって、怨念封印が手に入らなかった場合、最悪この大陸に住む全ての人族が死に絶える。それはマジで嫌だ。
一応俺やフェリスといった一部の強者なら何となるかもしれないが、どの程度の威力を発揮するのかが分かっていない関係上、絶対とは言い切れない。それに、もしそれを防ぎ切ったとしても、待っているのは言わば終末世界。そんな世界で生きるのは流石に過酷過ぎる。
「レオスさんがそう言うのなら、私も賛成しますけど……本当に大丈夫ですよね? スタンピードって、最悪の場合都市をいくつも壊滅させるらしいんですけど……」
ここ1か月間の行動のお陰(?)もあってか、普通の人が聞いたら戯言と切って捨てるような言葉も、フェリスは信じてくれた。だが、それでもスタンピードに対する不安は拭えないようで、不安げにそう問いかけてくる。
そんなフェリスに、俺は優しい笑みを浮かべると口を開いた。
「大丈夫だ。急に成長しすぎたせいでまだ実感があまり湧いていないかもだが、フェリスの実力は既に世界最強クラスだ。それほどのスタンピードが例え起きたとしても、遅れは取らない。むしろ、目立たないように頑張ることに意識を向けた方が良いレベルだぞ。それに、俺もいる。気を抜きすぎても駄目だが、気張りすぎるなよ」
そう言って、俺はフェリスの頭を優しくポンポンと撫でる。
「ふぁ!?……は、はい。わ、分かりましたぁ……」
フェリスは俺に頭を触られた途端、ビクッと体を震わせると、頬を赤らめ、消え入りそうな声で頷いた。
ははっ 可愛い。
「それじゃ、行くか。スタンピードが起こった時に、少しでも余裕が持てるようにするべく、フェリスのレベルを今日中にもう1レベル上げておきたいな」
「……は、はい! 分かりました!」
こうして俺とフェリスは、魔法陣から離れると、森の奥へと向かって走り出すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます