第四十二話 怨念の欠片――1つ目
「フェリスは……あ、居た居た」
戦闘が終わり、素材取り等をEランク以下の冒険者が中心となって行われる中、スリエに入った俺は、城壁の上に居たフェリスが下に降りてくるのを見ると、人の波を掻き分けながら近づく。
「……あ、レオスさん!」
フェリスも俺を見つけたようで、フード越しでも分かるような笑みを浮かべると、そそくさと俺の下へ来てくれた。
「フェリス、お疲れ。どうだった?」
「はい。城門はへこみましたが、それ以外でこちらへの攻撃はありませんでしたので、むしろ余裕でした。レオスさんの方はどうでしたか?」
フェリスはコテンと首を傾げると、上目遣いでそう問いかけてくる。
「ああ。間近でしゅ……ダークたちの活躍を見つつ、バレない程度に手助けしてた。あのドラゴン、もし俺たちが居なかったらかなりの苦戦を強いられただろうな」
すると、俺の言葉にフェリスは「あれ?」と不思議そうにする。
「レオスさんは城壁の下で戦ってませんでしたか? 見間違いでは無かったと思うのですが……」
ああ、どうやらフェリスは《幻術》によって作り出された分身体を、本物だと思っていたようだ。
多少の距離があったとは言え、フェリスクラスの実力者を完璧に欺けたのはいいね。
まあ、ちゃんとその説明はしておかないと。
「あれは《幻術》で作った分身だ。まあ、質量は無いから、敵には一切ダメージを与えていないんだけどな」
「そうなんですか~。凄いですね。気づきませんでした」
口元に手を当て、フェリスは心底驚いたといった様子でそう言う。
「まあ、フェリスが成長する間、俺とて何もしてない訳では無いからな。それじゃ、今日はゆっくりするか。報酬は明後日に支払われるって聞いた。事後処理とかを考えれば、まあ妥当だな」
「分かりました。あ、この前美味しいレストランの情報を見つけたんです。折角ですし、行きませんか?」
「お、いいね。ただ、スタンピードが起きた直後にやってるかな?」
「ん~どうでしょう。まあ、今日はやれることもあまりありませんし、取りあえず行ってみるというのはどうでしょう?」
「まあ、それもそうだな」
ゲームのイベントを見た余韻に浸りたいしね。
そう思うと、俺はフェリスに連れられ、美味しい食事が食べられるというレストランに向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
ダーク・クリムゾン視点
1日後――
俺たち創成と破壊の四天王と、Aランク冒険者パーティー――あの時グリーンドラゴンを倒した面々と共に、俺たちは冒険者ギルドの裏手にある解体場に来ていた。
ここでは、昨日倒したグリーンドラゴンの解体が行われており、俺たちはその立ち合いに来ている。
ここまで強いドラゴンの素材は貴重――故に、こればかりは討伐者の間で平等に分配すべきということになったのだ。
ただ、頭部と魔石だけは国へ売却されるような形で献上することになっている。
「……にしても、やっぱでかいなぁ」
俺は半分ほどまで解体されたグリーンドラゴンの死体を見ながら、感嘆の息を漏らした。
グリーンドラゴンの血は樽に詰められて奥に積まれており、革は綺麗にはがされ、広げられている。
残りは肉の切り出しぐらいだろうか。
すると、徐にガラックさんが口を開く。
「さて、そろそろ分配について決めておけ。ああ、俺はいらんぞ。討伐に貢献したとは言え、ギルドマスターが貰うと面倒なことになる」
そう言ってガラックさんは肩を竦める。
ギルドマスターという地位も、大変なんだなぁ……
「さて、分配か。そっちでどうしても欲しい物ってある?」
俺はAランク冒険者パーティー、”暁”の面々に向き直ると、そう問いかける。
「そうだな……血が3樽と足の骨がいくらか欲しいな。あとは適当に値が付く部位を貰って、売却するつもりだ」
なるほど。
ドラゴンの血は効果の良い回復薬の原料になるし、硬い足の骨は武器防具の材料になる。
「こっちも似たようなものだな。残った3樽と、足の骨。他に欲しい場所はある?」
そう言って、俺は皆の方に視線を向ける。
「ん~まあ、その辺でいいだろ」
ゼイルは相変わらず適当だ。
「まあ、ちゃんと平等になるならそれでいいわよ」
「えっと、私は……私もそれでいいと思う」
レイナとラウラも賛成。
なら、これで大まかな分配は決まりだ。
「あとは、細かい部分を決めておかないとな」
こっちの人数が4人に対して、あちらは5人。
その分多く要求してくるだろうが、そこで取られ過ぎないように注意しないと。
そう心に決めると、俺は”暁”の面々との分配交渉を続けることとなった。
数時間後。
ようやく分配交渉及び解体が終わった。
俺たちはガラックさんに交渉内容を詳しく説明すると、その通りになるように分配してもらう。
そうして手に入ったのが、目の前にあるものだ。
「お~すげ~な」
ゼイルが若干興奮気味に皮のシートの上に乗った素材に近づくと、真っ先に骨を手に取った。
「すげ~見るからに硬そうだ」
コンコンと骨を軽く叩きながら、ゼイルはそう言う。
まあ、ドラゴンの骨だからな。実際に戦った身として、あいつの硬さは身に染みてよく分かっている。
「不要な分を売るだけでもいくらになるかな? 1000万は行きそうだなぁ……」
「これで頑丈な服を、作りたい」
レイナとラウラも素材に近づくと、それぞれ好きな素材に手を出していく。
一方、俺はそんな3人を後ろで眺めながら、ふと思い立つと懐に手を入れる。
そうして出て来たのは、5センチ程の黒くて艶やかな石の欠片だ。
俺はそれを右手で包み込むと、口を開く。
「怨念の欠片……か。これ、魔王を倒すのに必須の物らしい」
”記憶”によると、どうやらこれが魔王を倒す重要な道具の素材になるらしい。
グリーンドラゴンを倒した後、街へ戻っている時にふと、懐に手を入れてみたら、こんなものがあったんだ。
何だと思い、《鑑定》で正体を見てみたら、怨念の欠片という道具であることが判明した。
どうやって使うのかや、どんな効果があるのかは全然分からないが、”記憶”から、魔王討伐にかなり重要なものだと言うことが分かった。
もしこれが無ければ……多分、取り返しのつかないことになっていたと思う。
「……勇者か。この先俺はどうなることやら」
俺はそれを懐にしまうと、小さくため息をついた。
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