第四十三話 これからも頑張ろう
「お、今日は開いてたか」
俺はやや豪華そうな風貌のレストランを前にして、そう口にする。
いや~昨日行ってみたんだけど、生憎休業だったんだよね。
毎日営業して金を稼がないと維持が出来ない所ならいざ知らず、こういうちょっとお高い人気レストランなら休む余裕も十分あるのだろう。
「ふぅ。今日は開いてるって聞きましたからね。心配はいりませんよ」
「まあ、そうなんだけどね」
フェリスの言葉に、俺は頭を掻きながら言う。
フェリス。昨日は開いていないことに落ち込んでいたからなぁ……
取りあえず行ってみようとは言ってたものの、内心では絶対開いていると無意識の内に思い込んでいたらしく、その落ち込みようといったら。
そこには、俺に無駄足をさせてしまったと言う負い目もあったんだろうね。
別にそれくらいなら気にしないのに。
まあ、前のように頑張って励まして、どうにか立ち直らせたけど。
「じゃ、入るか」
「はい。そうですね」
俺たちは頷きあうと、扉を開け、中に入った。
「おお……これはまた」
店内は、日本の洋風レストランのような感じだ。
2人または4人のテーブル席がいくつもあり、天井にある明かりはシャンデリア……と。
俺は少しの間店内を見渡すと、空いている席を見つけ、フェリスと共にそこへ向かう。
「さて……と。お、メニュー表か」
対面式の2人席に座った俺は、テーブルの横に取り付けられている薄い木箱からメニュー表を取り出すと、テーブルの上に置いた。
メニュー表には料理名と値段が書かれているだけで、日本のように写真が載せられているという訳ではない。それは、こういうお高い所でも変わらないようだ。
「ふむ……悩むな」
顎を撫でながら、俺は悩む素振りを見せる。
だが、内心はというと……うん。マジで分からん。
いや、何かよく分からん料理名がつらつらと書かれていて、なんか呪文みたいだ……
なーんか見たことがあるような、でもどこか違うような……て感じのもちょくちょくあるが、結局それがどんな料理なのか分からない。
コンフィ、ブイヤレース、ブリギ……なんちゃら。
ただ、全ての料理が全く分からないと言う訳ではなく、ミノタウロスやオークといった料理に使われている名前や、普通に有名な料理等で何となく全体像の予想がつく。
その中から、俺が好んで食べられそうなのというと……
「ミノタウロスのステーキ、ライス中盛、水にしようかな」
「私は……カーラナ鳥のコンフィと水にします」
お、フェリスはあのよく分からない料理を選ぶのか。
まあ、顔を見た感じ、フェリスはちゃんとそれがどういう料理なのかは知っているようだが……
「では、店員さんを呼びますね」
そう言って、フェリスは机の中央に置かれていた銀色のベルを持ち上げると、チリンチリンと鳴らす。
すると、奥から店員がさっとやってきた。
その後、手短に注文をし、金を払うと、店員はさっと戻って行った。
因みに、今回の食費は2人合わせて6700セル。まあまあ高いね。
「……さて、今日はこうして休息して、明日からは……息抜きに迷宮攻略をしようか。ノルマ達成後にしようかと思ってたが、我慢できなくなってな。行先は勿論、反転の迷宮だ」
「それは楽しみです!」
俺の言葉に、フェリスは嬉しそうに笑みを浮かべる。
迷宮内にはランダムで宝箱が設置されているんだが、そこから出るアイテムがまた、この段階にしてはいい値段で売れるんだよなぁ~
金はいくらあっても困らない。常識だね。
ただ、あそこはゲームで最初に攻略する迷宮と言うこともあってか、出てくる魔物は大して強くないし、宝箱に入っているアイテムも他の迷宮と比べると見劣りしてしまう。
だから、息抜きと言ったのだ。
仕掛けは少々面倒だが、あらかじめ知っていれば、何の障害にもならないし。
そうしてその後も雑談に花を咲かせていると、ようやく料理が届けられた。
「お~美味しそうだ」
四角い木皿にすっぽりとはまる鉄板プレートの上には、タレがかかった肉厚なミノタウロスのステーキがあった。
鉄板の隅には、ちょこんと見たこと無い野菜添えられている。
そして、その横には陶器製の白い皿に薄く盛られた白米。
これが肉に合うんだよな~
「ふふっ 美味しそう」
フェリスも、届けられた自身の料理に目を輝かせている。
どれ、フェリスの食事は……ふむ。何かの鳥を丸ごと焼いたような感じかな?
酸っぱい系の匂いもしてくる。そして、野菜が添えられていると……
うーん。まあ、見た感じ美味しそうだ。
「さて、お味は……」
俺はナイフとフォークを手に取ると、力加減に気をつけながら、慎重に切る。
ここで上手く切れないからと言って下手に力を入れすぎると、冗談抜きに皿がパッカーンする。
そうなったら弁償ものだ。
そうして慎重に一口分を切り取ると、ライスの上に乗せ、少量のライスと一緒に口に入れる。
「ん……」
かかっているタレは、オニオン系だな。
肉は焼き加減的に、ミディアム……って感じか。
噛むたびに溢れ出る肉汁が溢れる。
ごくりと飲み込み、余韻に浸る。
……最高だ。マジで美味い。
「もぐもぐ……むふっ 美味しい……」
フェリスもナイフとフォークを使って器用に食べながら、実にご満悦な表情だ。
見ているこっちも笑みが出てくる。
「……ちゃんと主人公は怨念の欠片の意味を理解してくれたかな?」
ぽつりと呟く。
あの後、俺はグリーンドラゴンの口から出て来た怨念の欠片を回収し、そっと主人公の懐に入れてあげたのだ。
分身体で尾行して、ちゃんと《鑑定》するところを見たから大丈夫だとは思うけど、それでもキーアイテムなだけあってか、少し心配だ。
心配なら、俺が持っていればいい……となるかもだが、何故だかそれをする気にはなれなかった。
直感とでも言うべきだろうか。それが、こうした方が良いと言ったのだ。
何だかんだで今の所はシナリオに沿っているし、そのシナリオから外れるような行動をあえて取る必要も無いだろう。
フェリスを仲間にしている時点で今更感はあるが……あ、もしかして、今回若干シナリオと違ったのは、俺がシナリオを無視したからとかかな?
だとしたら、今後はマジでシナリオを改変するような行動は取らない方が良さそうだな。魔王相手に、不確定要素を増やすのは避けたい。
「……にしても、本当にここはどこなんだろうか」
ここはどう見ても現実だ。ゲームではない。
異世界転生……というのならまだ分からなくもないが、あろうことかここはゲームとほぼ同じ世界。
……今更ながら、そんな根本的な所に疑問を抱いてしまった。
ただ、そこは考えていても埒が明かない。
まあ、冒険を続ければ、いずれその手掛かりになるようなものが見つかるかもしれないな。
なら、俺のやることは変わらない。
「全ステータスカンスト。まだまだ道のりは遠いが、楽しく冒険しながら頑張るか」
ふっと笑うと、俺は水をごくりと飲み、喉を潤した。
◇ ◇ ◇
大陸最北端、魔王城にて。
魔王アムールは巨大魔法陣を前に佇んでいた。
無言。ただひたすら、無言。
そんな永遠とも思える静寂が今、破られた。
「……失敗か」
瞼を開いたアムールが、ポツリと呟く。
スリエの森に仕掛けた監視用の魔法陣によって、戦闘の一部始終を見ていたアムールは、膨大な魔力こそ使うものの、これといった代償も無く召喚できる魔物としては最上位のグリーンドラゴンが、冒険者たちによって殺されるのを見ていたのだ。
アムールは不快そうに口元を歪め――舌打ちをする。
「ちっ 討伐されるのは想定の範囲内だった。だが、人族ども与えた損害があまりにも軽微過ぎる。いや、グリーンドラゴンの素材を筆頭とした魔物の素材を丸々渡してしまった事を考えれば、むしろやらない方がマシだったまであるな……」
敵に塩を送ってしまった。
そんな感情が頭によぎるが、それは即座にかき消す。
無意味だ。考えるのは、無意味だ。
そうしてアムールは冷静さを取り戻すと、これからのことを思案する。
別に、人族どもを皆殺しにするのなら、この大魔法陣を――己が命を以て発動すればいい話だ。
故に、今自分がしているのは、本当にただ人族に対して絶望を与えているだけ。
直ぐに殺すなんて――あまりにも勿体ないのだ。
どうせなら、出来る限り人族を恐怖のどん底に落とし、そこにその元凶たる魔王アムールの死で最高級の希望を抱かせ、最期の足掻きで一気に落とす。
それが、アムールが成そうとしていること。
「……絶望。そう、絶望だ。絶望を与える方法は数多ある。が、その中でも効果的なのはやはり、大切なものが奪われることだ」
大切なもの――妻リーティアを奪われ、絶望をその身で味わったことがあるアムールだからこそ、それは誰よりも理解している。
「子供は大切。故に、子供だけが死ぬ不可視の毒を、街に散布させればいい。ついでに魔物も置いておけば効果的だ。さて、魔物召喚の魔法陣は私にしか出来ないが、散布は……同じ愚かな人族にやらせるとしよう。人族は決して一枚岩ではないのだからな。くくく……」
嗤う。アムールは、嗤う。
壊れたように、嗤う。
「……だが、あれらは貴重――数が多くない。なるべく人族の多い場所を――」
アムールは脳内で地図を広げ、見渡した。
そして、直ぐに結論に辿り着く。
「ガラリア王国の王都ルクリア。そこにしよう」
アムールは口元を歪め、嗤った。
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これにて第一章が終わりです。
いやーほぼ10万字で一区切りをつけられて、満足満足。
では、次から第二章の始まりです。
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