第二十一話 光の裏で蠢く闇
あれから少しして、フェリスが目を覚ました。
上半身を起こしたフェリスは、辺りをきょろきょろと見回す。
「あぁ……お、おはようございます。レオスさん……」
フェリスは既に起きている俺の方を見やると、目を擦りながら、寝ぼけたような声音でそう言う。そんなフェリスに、俺も「おはよう」と、さっきまで懊悩していた自分をそこら辺にペイッして答える。
すると、どういう訳か、フェリスが途端に「あ……」と何かに気付いたような顔をすると、赤面した。
あれ?もしや今朝の
俺は思わず顔を真っ青にする――が、続くフェリスの言葉で俺はほっと胸を撫で下ろす。
「あ、あの……昨晩はもしかして本当に……昨晩は同じベッドで寝ました……か?」
「あ、ああ。フェリスもいいって言ってくれたし、確かにそれが一番丸く収まったからな」
フェリスが提案したことなんだけどなぁ……と思いながら、俺はそう言葉を綴る。
すると、フェリスは「ふぅ~」と深く息を吐いた。
「あ、あの……私、変な寝方してませんでしたか? 私って、寝相そんなに良くないので……」
ベッドの上でもじもじしながら、フェリスは恥じらうようにそう言う。
その言葉に、俺は一瞬言葉に詰まる――が、黙った方がマズいと思い、まるで弁明するような感じで口を開いた。
「大丈夫だったよ。全然気にならなかった。むしろ、俺の方が寝相悪いかもしんねぇ」
俺はおどけるように言う。
すると、フェリスは目に見えて安心したように「そうですか……」と息を吐いた。
「ま、取りあえず準備して、飯食いに行くか」
「ですね」
俺の提案に、フェリスは柔らかな笑みを浮かべるのだった。
その後、準備諸々を済ませた俺たちは、荷物を全て持って宿を出た。そして、適当な場所で朝食を食べると、取りあえずと言った感じで冒険者ギルドへ歩き始めた。
早いとこ、リュックサックの中にある魔石を売却しておきたいからな。
今日出すつもりのやつで、取りあえずダンジョンで手に入れた魔石は全部なくなることだろう。
「……それにしても、昨晩は結構歩き回ったんだなぁ」
「ですね。まさか王都の端の方まで行ってたなんて、思いもしませんでした」
昨日王都に来た時以上に人通りの激しい道を歩きながらそうぼやく俺に、フェリスは達観したような目で同意する。昨日の
昨日、王都へは南門から中に入った。それなのに、今一番近い門は――どういう訳か北門だった。
その時点で、どれほどの宿を昨晩訪問したのかは推して知るべし!
因みに、冒険者ギルドは南門の方なので……あとどれぐらい歩けばいいんだろうか?
しかも、この人込みのせいで進みにくい。
「もう、姿気配を隠して、屋根の上を跳び越えた方がいいんじゃないかなぁ……」
ただ、一応観光目的で来ている側面もある為、いきなり反則技を使うのは……何かなぁ。
それに、こうやってフェリスとのんびり向かうのも、それはそれで悪くないと思っている為、結局やるつもりは無い。
そんな事を思っていると――
「……む、何しようとしてるんですか?」
フェリスが、怒り交じりの声で後ろを向く。
すると、そこには俺のリュックサックの中に手を伸ばそうとする男の姿が居た。
そう。スリだ。
こんな人込みで、それも祭り直前――スリが起こらない訳がない。
現に、スリを摘発するのはこれで二度目だ。
「痛いっ痛いっ痛いっ」
フェリスに手首を掴まれ捻られ、激痛で声を上げる男。
そして、それを「ああ、やっちゃったなぁ……」と白けた目で見る通行人たち。
その後、スリ野郎は近くにいた衛兵によって連行された。一応警備も時期に合わせて厳重になっているようで、あちこちに衛兵が居るのは、こういう時に結構助かる。
そんなことを思っていると――
「……ん?」
ふと、俺は路地裏の方に2人分の人影を見た。
路地裏で、コソコソと移動している2人組……実に怪しい。
けどまあ、それだけで犯罪者って考えるのは流石に早計かな。
俺はその情報を頭の外にペイッすると、再びフェリスと共に、のんびり歩き続けるのだった。
◇ ◇ ◇
レオスが「どうでもいいや~」と思って無視した2人組は、マイホーム……言わば隠れ家に向かって走っていた。
「これで王国は混乱に陥るぞ……!」
1枚の書状を胸に、男は仄暗い笑みを浮かべる。
そして、そんな男の同調するように隣を走る男も口を開いた。
「ああ。まさか魔族が手を貸してくれるなんてなぁ……まあ、敵の敵は味方って感じだけど」
「だな。だがまあ、今回の件では間違いなく味方だ。精々役に立ってもらうとしよう。そして、我々”帝国”の覇権が実現したら、真っ先に滅ぼす。奴らの目的は、魔族の復権だろうからな」
「ああ。向こうは我々を利用する気なんだろうが……滑稽だな。魔族如きに我々が踊らされる訳ないだろう」
「本当だ」
彼らは、自分たちの国がいずれ手にする覇権を夢見て、より一層仄暗い笑みを浮かべる。
自分たちの方が、利用されていることも知らずに――
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