第二十話 ハプニング、勃発!

 次の日の朝――


「ん……んぁ?」


 俺は、から来る陽の暖かみを感じて、目を覚ました。

 朧げな視界。

 そんな中、俺はそっと体を持ち上げようとして――


「ん……ん?」


 身体に違和感を覚えた。

 何故か、体が動かない。

 何か乗っかっている――?

 俺は寝起きのせいで怠く思いながらも、無理やり目を開けて状況を確認する。


「……んん?」


 そして、直ぐに異常事態に気が付いた。

 まず、俺はベッドで横向きになって寝ている。それはいい。

 だが――何故か、フェリスが俺の胸に顔を埋めて寝ているのだ。

 昨日の夜、背中合わせで寝たことを、寝起きなのにも関わらず、鮮明に覚えている俺からしてみれば混乱ものだ。

 更に、俺がそんなフェリスの背中に右手を回し、フェリスはその上から俺の背中へ左手を回している。

 言っちゃえば……抱き合ってるってことだ。


「……マジか」


 すぅすぅと胸元で可愛らしい寝息を立てるフェリスを見ながら、俺は思いっきり天を仰ぎたい気分になった。

 こ、この状況。どうするのが正解だ――ッ!

 下手に喋って起こそうものならマズいことになる……と思った俺は、心中で混乱の叫び声を上げる。


「んむぅ……」


「……!?」


 フェリスがより俺の方に来て――それにより腹に伝わる双丘の感覚。

 こう見ると、フェリスって実は割とある感じ……って、今はそれどころじゃなーい!


「……よし。やっと冷静になれた。《幻術》」


 心の中でひとしきり叫んだお陰か、ようやく冷静さを取り戻した俺は、《幻術》を全力で使って自身の動きを隠蔽すると、ゆっくりと身を引いて行く。

 本来なら起きてしまうだろう動きも、《幻術》によって感覚を誤魔化されれば、バレずに脱出は可能!

 俺はその後も亀のような速度でそろりそろりと身を引いて行き――


「……ふぅ。何とか脱出できた……!」


 この世界にあるどの迷宮よりも脱出の難しい迷宮(?)から、無事脱出出来た俺は、妙な達成感を感じながら脱力すると、そのままへなへなと壁に背をもたれさせながら、床に腰を下ろした。

 いや~ここまで神経を使ったのは久々だ。

 本当に、心が疲れた。


「……にしても――」


 俺はちらりと、今だベッドですやすや眠るフェリスを見やる。

 ……フェリスの寝顔、可愛かったな。

 俺の前では、なるべくしっかりしようと心掛ける彼女が、完全に油断しきった、あどけない顔を思い浮かべ――俺はすぐさま頭を振ってかき消した。

 煩悩退散!煩悩たいさーん!

 そんな目でフェリスを見て、それを彼女に知られたら、間違いなく幻滅される。

 そしたら俺、精神的に死ぬよ?

 余裕で死ねるよ?

 元引きこもり陰キャ舐めんな!

 そうして、俺はフェリスが起きるまで、ひたすら己と格闘(?)をすることになるのであった。


 ◇ ◇ ◇


 ダーク・クリムゾン視点


 レオスが必死に己と格闘(?)していた頃――


「ふぅ。着いたか。"紅蓮の迷宮"」


 早朝に宿を出発した俺たちは、早速王都に来た最大の目的とも呼べる”紅蓮の迷宮”の前にあるすり鉢状の広場に来ていた。早朝ということもあってか、王都の中にある迷宮だと言うのに、人はまばらだった。


「や~れやれ。こんな朝っぱらから探索するもの好きが、他に居るなんてな~?」


 俺の横で、ゼイルは周辺に居る数少ない冒険者を見回しながら、そう言った。


「まあ、私たちもその”物好き”の内に入るけどね!」


「で、でも。こうしないと大変だからね。色々と……」


 肩を竦めて、溌溂に言うレイナに、ラウラはどこか遠い目でそう言った。


「ああ。まあ、宿命だよ。これは――」


 そんなラウラの言葉に、俺は諦めの雰囲気を纏って同調した。

 そう。俺たちは、”反転の迷宮”を異例の速さで踏破した冒険者パーティーとして、既に多くの注目を浴びている。そして、そんな俺たちを配下や護衛にしたいと思う貴族商人は多いわけで……

 誘うだけならタダ……というのもあってか、王都に居る時はもう酷かった。

 時たま無理やり誘ってくる奴もいて、その時の対処はより時間がかかったなぁ……

 丁度建国祭の時期で、国中から人が王都に集まっていた……というのが、そのヤバさに拍車をかけ――昨晩は宿ではなく、王都外でこっそり夜営した。

 そうしないと、精魂尽きてた気がする……


「おいおい。な~にまたそんな目してんだよ」


「ああ、悪い。また思い出してて……」


 ゼイルの声で、正気に戻った俺は苦笑いを浮かべながらそう言った。

 そして、直ぐにリーダーとしての顔つきになると、皆にこれからの事を告げる。


「これから”紅蓮の迷宮”の攻略を進める。目指すは当然――踏破。だが、なるべく安全第一で行こう。誰かが欠ければ、危険度は格段に跳ね上がる」


「自信満々に踏破……か。中々言うな、ダーク」


「まあ、頑張りましょ」


「う、うん。頑張ろお……」


 俺の言葉に、皆それぞれそう言う。

 うん。皆となら、確実に踏破できる――そんな気がした。

 ”記憶”から得た知識を中心に、あやふやな部分はきちんと調べた。穴は無い。

 俺は心の中で、最後の確認をすると、くるりと背を向け、歩き出した。

 こうして、俺たち”創成と破壊の四天王”は、”紅蓮の迷宮”へと足を踏み入れるのであった。

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