第十九話 よし。寝よう
フェリスが紡いだその言葉に、俺は目を見開いた。
口を半開きにし、固まる。
一方、フェリスはそんな俺を見てどう思ったのか、捲し立てるように言葉を続けた。
「あ、あの。別にへ、変なことを思っているとかじゃなくて、その、このままだと話は平行線だし、その、だったら、一緒の方が良いかなって。あと、宿代も節約できるし、その、同じ宿で寝る方が、合流とか楽だし、あ、あと別に私は……ごにょごにょ……」
わたわたとしながら言うフェリスの言葉を、俺は取りあえず頭の中で整理して、考えてみる。
ん~……確かに、2人別々の場所で寝るというのは、色々と面倒だ。
それに、宿代もそっちの方が安く済む。
フェリスが同じ部屋でも良いと言うのなら、俺も断る理由は無いし。
もっとも。あの時のことを持ち出されたとなれば、どの道断れなかったけど。
「よし。まあ、フェリスがいいって言うなら、構わないよ。女将さん。1部屋を……取りあえず10日お願い」
「まいど。それなら銀貨3枚だけど……いい物見せてもらったから、特別に銀貨2枚小銀貨3枚にしてあげる」
祭りが終わるまでは、他に部屋は取れまいと思った俺は、祭りが終わり、宿が空き始める10日後の分まで先払いしておくことにした。すると、どういう訳かニコニコ笑顔な女将さんが、そう言って負けてくれた。
いい物とは、一体何だろうか……?
まあ、安くしてくれたらならいいか。
俺は料金を払い、女将さんに部屋番号を教えてもらうと、今だ顔を赤くするフェリスに向き直る。
「フェリス。部屋を取ったから、これから夕飯を食べに行くか」
「は、はい! さ、早速食べに行きましょう」
顔を赤くし、俯いていたフェリスは、ガバッと顔を上げ、早口でそう言った。
そんなフェリスの頭を思わずポンポンと撫でると、そのままの足取りで宿を出て行った。その後少し遅れて、駆けるような足音と共にフェリスがついて来る。
「うぅ……何でレオスさんは無自覚にこのようなことを……」
「ん? 何か悪いことでもしたか?」
「い、いえ。むしろ嬉しいです! それより、早く行きましょう!」
俺の問いに、フェリスは若干嚙み合わない答えを返す。
「ああ……だな。宿を探す途中で飯屋はいくつか見つけたし、その中から良さげな所に行ってみるか」
そうして、俺たちは食事を食べに向かうのであった。
「はぁ……食った食った」
「美味しかったですね~」
良さげな飯屋を見つけ、そこで美味そうなステーキやらシチューやらを食べた俺たちは、満足げな顔をしながら宿へと帰還した。
食堂が無いタイプの宿であるが故に、夜9時を過ぎていることもあってか、宿内は大分静かだった。今のステータスを駆使してそっと耳を澄ませてみると、上から艶めかしい声が聞こえてきた……が、その記憶はそっと脳内パソコンのごみ箱にカーソルを持って行ってペイッする。
うん。俺は聞いてなかった。
2人きりで楽しんでろ。
「……どうしましたか?」
「いや、何でもない。それで、宿の部屋番号は301だから……3階かな」
不思議そうに問うフェリスの言葉に、俺は内心慌てつつも冷静に答える。
フェリスに俺が何聞いてたか知られたら、失望されること間違いなしだろうなぁ……
いや、聞いてたも何も、俺は何も聞いて無いんだったな。
無いったら無い!
俺は脳内コントをしつつも、フェリスと共に3階へと上がる。そして、上がって直ぐの所にあった部屋のドアを開け、中に入った。
「おお……まあ、いいんじゃない?」
2畳半ほどの部屋には、窓とその傍にベッドが1つ。物を置く小さな丸テーブルが1つあるだけ。
簡素だが、寝泊まりするだけなら十分だ。
1人なら……と言う言葉が最後につくが。
部屋に入った俺は、一先ず荷物を壁際に置いた。その後、俺に続いて入って来たフェリスも部屋の鍵を閉めると、荷物を俺の横に置く。
「さて……それじゃ、やることも無いし、寝るか。ベッドはフェリスが使いな。俺は床に革シートを敷いて寝るから」
「い、いえ。ベッドはレオスさんが――あ」
「ああ……」
俺の言葉に、フェリスが反発し――そして気づいた。
あれ? またさっきと同じことが起きるくね……と。
だが、それでも話をしなければ結論が出ない。
「うん。まぁ……フェリスに言われりゃ、ベッドに寝るよ。ただ、フェリスを床に寝かすという罪悪感があってだな……」
「それは、私の場合でも同じですよ……」
うん。やっぱり平行線だ。
もう、2人とも床に……いや、床に2人で寝るスペース……あるかぁ?
すると、フェリスが再び意を決したように口を開いた。
「それなら、私と一緒にベッドで寝ましょう! せ、背中合わせで寝れば……も、問題ありません!」
問題大ありだろ……と言いそうになったが、何とか堪える。
多分……それが一番丸く収まると、直感で理解したのだ。
「分かった。んじゃ、さっさと寝るかぁ~」
なるべく動揺を表に出さず、俺は気楽そうな態度で体を伸ばすと、靴を脱ぎ、ベッドに寝転がった。そして、窓際に体を寄せる。
それから少しして、布が触れ合う音と共に背中に何かが当たった。
何か……とは、恐らくフェリスの背中だろう。
流石に、フェリスと同じベッドで寝るのはドキドキする。別に、そういう感情で見ているつもりはないのに……
「……おやすみ。フェリス」
さっさと意識を手放してしまえ!と思った俺は、そう言って直ぐに眠りにつくことにした。
「……はい。レオスさんも、おやすみなさい」
すると、背後から柔らかくて心地のいい声が聞こえて来た。
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