第十八話 王都ルクリアに到着!

 スリエを出て、のんびりと旅をすること今日で6日目。

 予定では、今日の夕方に目的地である王都ルクリアに着く。

 太陽の位置や、さっきの街から感覚的にどのくらい歩いたかなどを考慮すれば、もう間もなく見えてくる頃合いだろう。

 そう思っていると、前方に小さく門と、そこから横に伸びる城壁が見えて来た。


「見えて来たか……」


 この距離からでも見えるあたり、あの門と城壁はスリエなどの街とは比較にならない程大きいのだろう。


「遂に到着ですか……!」


 フェリスは目と鼻の先となった目的地を前に、ぱっと笑みを浮かべた。


「ああ。あともう少しだ」


「そうですね」


 そうして、俺たちは残り少ない道を踏みしめて行き――およそ20分程で、門の前まで辿り着いた。


「お~でけ~な~」


 王都に入る為の列に並んだ俺は、大きな門と城壁を見上げながら、感嘆の息を漏らす。

 城壁は……50メートルぐらいあるのではないだろうか。見上げ過ぎて、首がゴキッてなりそうだ。


「わぁ……」


 ふと横を見てみると、フェリスは口をぽっかりと開けながら、俺と同じように上を見上げていた。

 ……あ、涎垂れてきそう。


「フェリス。涎が垂れそうだぞ」


 周囲に聞こえぬよう、小声でそう教えてあげる。

 すると、はっとなった後、顔を真っ赤にしてごしごしと口元を手で拭った。

 なんか微笑ましくて……可愛い。

 そう思い、思わず笑みを浮かべていると、俺が笑みを浮かべる理由を察したのか、ポカポカと腕を殴ってくる。

 まあ、大した威力ではない為、怒っているのではなく、拗ねているだけなのだろう。

 それはそれで余計に微笑ましく思えてくるが――これ以上そんな笑みを浮かべたらマジもんに拗ねそうなので、流石に抑える。


「……お、ようやく俺たちの番か」


 30分程待ったところで、ようやく俺たちの番になった。

 俺たちは、他の街と同じように冒険者カードを提示すると――簡単な手荷物検査や滞在理由なんかを聞かれた後、通される。

 国の中心である王都であるからなのか、今まで通って来た街の倍ぐらい色々と聞かれたり調べられたな。

 まあ、そんなことはさておき、ようやく中に入れた。


「おお……ここが王都。流石に人がおおいなぁ……!」


「本当ですね」


 国の中心――王都ルクリアは、やはりと言うべきか人が多かった。

 日本の首都圏程ではないが、それに準ずるぐらいは居る気がする。

 ……あんまり外に出てなかったから分からんけど。

 とまあ、そんなこんなで王都に来た訳だが、まずはどうするか……


「ん~……一先ず宿を取る?」


「そうですね。遅くなって、取れませんでしたってなったら大変ですし」


 そうして、俺たちは一先ず宿を探すこととなった。

 王都に来る人は多いが故に、宿の利用客も多い。だが、その分宿の数も多い筈なので、この時間帯なら直ぐに見つかることだろう。

 そう呑気なことを考えながら、俺たちは――の宿探しを始めた――否、始まってしまった。


「すみません。2部屋空いているでしょうか?」


 まず手始めに、冒険者ギルドや迷宮から近い宿にしようと思った俺たちは、その中からよさげな所を選んで、訪問してみた。

 だが――


「悪いが、当分満室なんだ。祭りが終わったら、空くだろうがな。飯なら空いてるから、飯時になったら来な」


「分かりました」


 残念ながら、1軒目はハズレだった。

 まあ、仕方ないな。王都だし。1軒ぐらい。


「よし。次行くか」


「そうですね」


 直ぐに切り替え、俺たちはまた別の宿へと向かう。

 だが、だが、だが――


「わりぃ。満室だ」


「ごめんね。満室なの」


「悪いが、満室だ」


「へっへっへ。満室なんだ……あ、嬢ちゃんだけなら俺の部屋に――」


 とまあ、こんな感じで、高級宿から安宿まで、どこもかしこも満室だった。

 と言っても、これは普段からそうという訳ではなく、丁度あと1週間後に”ガラリア王国建国祭”という、建国の日を祝う祭りが開催されるせいなのだ。

 道中の街でそんな話を耳にして、「現実世界ならではのイベントだなぁ~」と呑気に思っていたあの頃の俺を、今すぐぶっ飛ばしたい。


「はぁ……マズいな。このままだと野宿だぞ……」


「こんなに空いてないなんてこと、あるんですね……」


 日がすっかり暮れた頃。

 俺たちはもうダメ元だと思いながら、新たに見つけた素朴そうな宿に入る。


「すみません。2部屋空いてますか?」


「ああ、ごめんよ。1人部屋1つしか空いてないんだ」


「「1部屋!?」」


 女将さんの言葉に、俺とフェリスは揃って目を見開く。

 何せ今まで訪問してきた宿は、1部屋も空いていなかったのだ。

 そんな中見えた希望――跳びつかないハズがない。

 とは言え――


「1部屋……か。なら、フェリスはここで取って、俺はまた別の宿を探すことに……」


 恋人でも無いのに、男女が同じ部屋で寝るのは、流石に憚られる。

 すると、俺の発言にフェリスが被せるように口を開いた。


「いえ。それならレオスさんがここで寝てください。私は他を探しますし……最悪野宿でも構いません」


「いや、流石にそれは心苦しいから、俺が――」


「いえ、私が――」


 互いを思いやるが故に、不毛な口論が起こってしまった。

 正直なところ、もうここ以外で部屋が見つかる可能性なんてゼロに等しい。つまり、ここを諦めた方は、ほぼ確定で野宿をするということになる。

 フェリスが1人寂しく野宿をする光景なんて、想像するだけでも嫌だ。なんだかんだで、俺はフェリスのことを大切に思っているのだ。だが、それはフェリスも同じこと――いや、俺に助けられたお陰で今があるが故に、その思いは俺以上なのかもしれない。

 もう、2人で一緒に野宿した方が良いのか……と内心思っていると、女将さんが不思議そうな顔で爆弾発言を投下した。


「同じ部屋で寝ればいいだろう? 知らない間柄ならともかく、恋人同士なら迷うことは無いと思うんだけど……」


 その言葉に、俺は思わず吹き出し、フェリスは顔を赤くして顔を背ける。

 いやまあ、冷静に考えれば、確かに見えなくもないか。歳は近いし、仲も良い方だし。

 すると、顔を横に背けていたフェリスがゆっくりと俺の方を向いた。そして、唇を震わせながら言葉を紡いだ。


「あ、あのっ レオスさん。この前ダンジョンで私に、”後で何でもする”と言いましたよね? それを今使います」


「お、おう」


 突然の事に、俺は困惑しながらもフェリスの言葉を待つ。

 その後一拍間を置いた後、意を決したようにフェリスが口を開いた。


「私と、同じ部屋で寝ましょう」

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