第十七話 邪魔者オールスターズ

 スリニア湖で魚を釣り(釣れたのはフェリスだけ)、釣った魚をいい感じに焼いて食べた俺たちは、その後も王都ルクリアに向けてのんびり旅を続けていた。

 だがまあ、そんなのんびりを邪魔するような無粋な奴も当然居るわけで――


「フェリス。小腹減ったし、おやつに何か食べるか」


「そうですね。軽く食べ歩きと行きましょう」


 道中の街で、予定よりも少し早めに到着してしまった俺たちは、折角ならと食べ歩きを始めた。この世界って、手軽に食べられるものが結構多いんだよね。

 レパートリーはそこまでだし、店によって味も当たり外れが激しいが、それなりに情報収集をしておけば、そう失敗することは無い。


「……む?」


「おい。有り金全部置いてけよ」


「逃げようとすんじゃねぇぞ」


 人込みを避けて通るべく、人通りの少ない裏道に入って直ぐのことだった。

 良い鴨だと思われたのか、ガラの悪い不良共に絡まれてしまった。

 20メートル程裏道を歩いて、ショートカットするだけだったのに……まさか絡まれるとは思いもしなかった。ちょっとこの世界の治安舐めてたかもな……つい日本のノリでやってしまった。

 もっとも。俺の運が悪いだけという可能性もあるが……

 そうして、やれやれと肩を竦めていると、舐められたと思ったのか、奴らが一斉にキレ出した。


「なに舐めてんだテメェ……」


「こりゃちょっと身の程を味合わせてやらないとなぁ……」


「その女はちょっと貸して貰おっかなぁ……」


 俺とフェリスを囲む6人の不良共は、威圧感を出し、ゲスな笑みを浮かべながら、じりじりと距離を詰めてくる。

 だがまあ、悲しきかな。レベル差が圧倒的過ぎるせいか、ちっとも怖く感じ無い。例えるなら、小学1年生ぐらいの子供の集団がちょっかいをかけてきた奴――の不快度を100倍にした感じ。

 過去に絡んできた冒険者の方が――どっちもどっちではあるが、不快度的にはまだマシだった気がする。


「フェリス。ここは俺が――」


「いえ、この程度の相手にレオスさんの手を煩わせる訳には行きません。ここは私が行きます」


「いや。ここは俺が――」


 楽しんでる所に来たということも相まってか、俺たちはこいつらに相当イラついていたようで――この様に、不良えものの取り合いをする始末であった。

 だが、そんな俺らの内心までは分からない哀れな不良共は、とうとう俺たちに襲いかかった――否、襲いかかってしまった。


「よし。フェリス。半々で手を打とう」


 俺は掴みかかってきた不良の手首を掴むと、ゴキッと明後日の方向に捻りながらそう言った。横から「痛い痛い痛い!」と悲鳴が聞こえてきたが、当然のようにスルーする。


「分かりました。こっちの3人は私が片付けます」


 そう言って、フェリスは最初に襲いかかってきた不良の頭を掴むと、程々の威力で地面に叩きつけた。

 わぁ。痛そ〜

 俺は心の中で不良君に全く心のこもっていない合掌をしつつ、右手で持っていた不良をポイッと地面に放り投げて気絶させた。

 ここで、ようやく俺たちが只者じゃないと分かったのか、残った4人はじりじりと後退ると、脱兎のごとく逃げ出した。

 だが――


「残念だが、逃がす気は無い」


 そう言って、俺は逃げ出した内の2人を捕縛すると、フルボッコだドン!って感じで殴って気絶させた。慈悲は無い。

 後ろでは、フェリスも同様にフルボッコにして気絶させていた。


「さて。衛兵に突き出すの面倒だし、いい感じに放っておくか」


「いい感じに……?ㅤまあ、分かりました」


 ニヤリと笑う俺の言葉に、フェリスは怪訝そうにしながらも頷いた。

 それから少しした後、衛兵は「”俺たちは色んな物を盗みました”という貼り紙がされた6人組が、ボロボロの状態で裏道に入ってすぐの所で吊るされている」という平民からの通報を聞き、「ん?」と首を傾げるのであった。




「……はぁ〜まさか昨日は面倒なのに絡まれるとは思いもしなかったなぁ……」


 森林地帯の道を歩きながら、俺はそうぼやく。


「レオスさんがあそこまで不快そうにするのなんて、初めて見ました。レオスさんって、誰かが襲いかかってきても淡々と対処するイメージがしますし……」


「まーな。ただ、それは冒険者として活動している時だ。今みたいな、完全オフ日にやられると、な〜んかイラつき度が跳ね上がるんだ」


 フェリスの言葉に、俺は肩を竦めて答える。

 直後、森から視線を感じて立ち止まった。


「どうかし……!?」


 気が緩んでいたフェリスも、その高いステータスによって、奴らの拙い隠蔽を破り、察知したようだ。

 直後、相手も俺たちが気付いたことを察して隠す気が無くなったのか、一斉にぞろぞろと姿を現した。

 数は……20人と言ったところか。

 ふむ……と冷静に分析していると、親玉らしき男が剣を抜いた。


「ここをたった2人で抜けようとは、命知らずも居たものだな!‌ ‌ここらで名高き盗賊団、”シボウフ・ラグ”を知らないか?」


 男は獰猛な笑みを浮かべながら、ギラリと剣を光らせる。


「なるほど……よし。面倒だし、さっさと終わらせるか。幸いなことに、盗賊は問答無用で殺してしまっても良いらしいから」


「分かりました。死体も残さず消しましょう」


 そうして、俺たちはこのシボ……なんちゃら集団に向き直る。

 一方、奴らはどういう訳か笑いだした。


「ぎゃははははっ!!! ‌実力差と数の差が分からねぇのか? ‌あ〜滑稽だ。てめぇは好きなだけ嬲り、てめぇの女をてめぇの前で犯してやらぁ!」


「うおおおおお!!!!」


 そうして、奴らは一斉に俺たちへ襲いかかってきた。

 その後、何があったのかは割愛するが、ここを通った商人曰く、「どこかで聞いたような見た目の武具が大量に転がっていました」との事だ。

 その先の街で食べ歩きをしていた時に耳にしたのだが、一体何があったんだろうねぇ……

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