第十六話 釣りの結果と焼き魚

 釣りを始めてから、どれぐらい時間が経っただろうか。

 僅かに東側にあった太陽が真上に昇り、今では僅かとは言え西に傾いている。

 腹時計と相談してみても、最低で2時間は経過していることだろう。

 ああ、これだけやったのに――


「釣れないなぁ……」


 釣り竿を両手で持ったまま、俺は悟りを開いたかのような顔でそう言った。

 そんな俺の足元には、空っぽの桶が虚しく置かれている。


「だ、大丈夫ですよ! いつか必ず釣れます!」


 横では、俺に同情の視線を向けながら、必死に励ますフェリスの姿があった。

 そっと視線をフェリスの足元に向けてみると、そこには何匹もの魚が、桶いっぱいに入っていた。

 チラチラと見ながら数を数えてみると――5匹だった。しかも、小物ではなく体長15センチから25センチ程の食べやすそうなサイズだ。

 対する俺は……ゼロ。

 何故だ。何で俺は全然釣れないんだ!

 ここまで来ると、もう運の無さと言うより、絶望的なまでにセンスが無いと言わざるを得ない。フェリスが頑張って俺を擁護しようとするが、全然擁護しきれてない。

 うん……もう潮時かな?


「……よし。フェリス。そろそろ昼食にしよう。申し訳ないが、魚を分けて貰えないかな?」


 苦節2時間。

 空腹と、フェリスが釣った魚の鮮度を考慮して、俺は釣りを終わらせた。

 決して、才能の無さに打ちひしがれたんじゃないから、そこんとこ勘違いするんじゃないぞ?

 ……本当だからな?


「は、はい! 勿論です。早速焼いて食べましょう!」


 そう言って、フェリスは今まで以上に献身的に行動を始めた。

 テキパキと俺の分の釣り道具まで片付け、魚が入った桶以外をおじさんに返却すると、お金を出しておじさんプロに魚の下処理をしてもらう。

 その間、俺はずっとフェリスの後ろで突っ立ってた。

 フェリスが「レオスさんは疲れているようなので、休んでいてください」と言ってきたのもあるが、それ以前に何故か動く気になれなかったのだ。

 特別な思いを釣りに抱いているという訳ではないんだけど……それでも今日一番の楽しみとして、期待してたんだよね。

 期待していた分、ショックも大きかった……って感じだろうか。

 そんなことを思いながらぼんやりとしていると、いつの間に解体が終わったのか、綺麗に内臓と鱗が取られ、口からブスッと木の棒が突き刺さった魚を5匹手にしたフェリスが戻って来た。。


「レオスさん。いい感じに下処理して貰ったので、早速あちらで焼いて食べましょう」


「そ……そうだな」


 魚を見て、より一層お腹が空いてきた俺は、フェリスの言葉に頷くと、早速準備を始める。


「まずは……っと」


 俺は周りの人の準備を見よう見まねで再現しながら、石を円形に置く。

 その後、近くから丁度いい大きさの小枝を両腕で抱えるようにして持ってきたフェリスが、石の円の中に持ってきた小枝の半分を置く。そして、手持ちの火打ち石を使って火を起こした。


「随分と、それっぽい焼き方だよなぁ……」


 そう言って、その場にしゃがみ込む俺は、魚が刺さった木の棒を手にすると、遠火でじっくり焼き始める。横では、フェリスも俺と同じように魚を焼いていた。

 こんないかにもって感じの焼き方は、一度ぐらいやってみたいと思っていたんだよね〜

 まあ、前世じゃやれるところもそう多くはないし、そもそも外に出る気が無かったからね。


「そんな俺が、今や旅か……」


 いくら好きだった”リバース”の世界とは言え、ずっと引きこもり生活を送っていた俺が急に外へ出て、活発に活動しているという現状を、自分の事ながら不思議に思ってしまう。

 そうして思考の波に飲まれていたら、段々といい匂いが手元から漂ってきた。

 焼かれる魚をじっと見てみるが……どの程度で食べ頃なのだろうか?

 こんな焼き方は初めて故に、そういうところは良く分からない。

 だが、フェリスは初めてでは無いようで、唐突に魚を火から遠ざけた。


「良い焼け具合ですね。レオスさんのも、もう大丈夫です」


「そうか。ありがとな」


 いい助言をしてくれたフェリスに、俺は笑みを浮かべて礼を言うと、魚を火から遠ざけた。

 さて、どんな味がするのだろうか。

 鼻腔をくすぐる良い匂いに、思わず涎が出てきてしまった――が、直ぐに飲み込んで事無きを得る。


「よし。食べるか」


 そう言って、まずは一口食べてみた。

 焼き立てという事もあってか結構熱いが――高いステータス値のお陰で、口の中が火傷してしまう心配は無い。

 その後、もぐもぐと咀嚼して、味わう。

 味は白身魚……って感じだ。魚の脂が口の中一杯に広がって、結構旨い。


「……む、骨か」


 俺はペッと口の中から骨を出し、石の上に置く。

 前世で買ってた魚のように骨取りがされてない分、俺からしてみれば異様なほどに骨が多い。

 そこがちょっと煩わしいと感じてしまうポイントだが、それ以外は特に無い。

 いや、個人的には塩が欲しいところではあるが――塩味があると、今度は白米も一緒に欲しくなるので、やっぱなくて良かった。

 そうして、俺たちはその後ものんびりと焼き魚を食べるのであった。

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