第十五話 初めての釣り

 魔石を売って10000セル程稼ぎつつ、のんびりしつつで1日を終え――

 次の日。

 宿で朝食を食べ終えた俺たちは、王都に向けて再び移動を開始した。

 昨日と同様、のんびりとした旅だ。

 道中、森林地帯から飛び出してくる魔物を蹴散らしつつ、先へ進んでいると、街を出てから2時間程で再び草原地帯に出た。

 時刻は……腹時計的に午前の11時ぐらいだと思う。


「……お~あれか。スリニアで言ってたのは」


 俺は斜め右に数百メートル程の距離にある大きな湖を目にすると、目元を手傘で覆いながらそう言った。

 あの湖はスリニア湖という名の湖で、スリニア川の水源地でもある。

 今日はあそこで昼飯を調し、食べるつもりだ。

 それで、どうやってそこで昼飯を調達するのかと言うと――


「あそこですか……。私、釣りは初めてなんですよね~」


 そう。釣りだ。

 あそこでは程よい大きさの魚が釣れるということで、この辺ではかなり有名な釣りスポットとなっている。

 釣り道具のレンタルもやっているとのことなので、俺たちみたいな道具を一切持っていない人でも楽しめるらしい。


「よし。行くか」


「そうですね」


 俺とフェリスは頷き合うと、一旦道から外れ、草原の奥にある湖に向かって歩き出した。

 そうして、スリニア湖に到着した俺たちは、早速釣りをすべく、街で聞いていた小屋の所へ向かう。

 小屋には多くの釣り道具があり、カウンターでは1人のおじさんが、湖で釣りをする人たちをじっと見ていた。


「すみません。釣り竿と桶のレンタルを2人分。そして、餌をお願いします」


「おう。2人なら、レンタル料は小銀貨2枚だ。あと、餌は1パックで銅貨2枚だな」


 声を掛けてみると、おじさんは気さくにそう言った。

 俺は直ぐにリュックサックから小銀貨2枚と銅貨2枚を取り出すと、おじさんに手渡す。


「はい、毎度あり。釣りをする時は、小屋の前でやってくれよ」


 そう言って、おじさんは大きな桶の中に入っていた釣り竿を2本、床に置いてあった桶を2つ手に取ると、俺とフェリスにそれぞれ手渡す。その後、小屋の奥から葉っぱで包まれた餌――大きさ2センチ程の小魚が纏められたものを、俺に手渡してくれた。


「よし。ちょっと初めてだから、ドキドキするなぁ……」


 湖にせり出すようにして建てられている桟橋の上にやって来た俺は、適当な場所で桶を下ろすと、釣り針に小魚を刺す。

 う~ん。こんな感じで良いのかな……?

 初めてやることもあってか、ちょっと不安だ。


「えっと……こうかな?」


 横では、フェリスも俺と同じように小魚えさを釣り針に刺していた。


「……よし。物は試し。やってみるか」


 そう言って、俺は周りの人の動きを参考にしながら、竿を振る。

 すると、ポチャンと音を立てて、釣り針が湖に入った。

 その後、フェリスも俺に倣って釣り糸を湖に垂らす。

 さて、後は待つだけかな……?

 初心者でも、小物なら1、2匹は確実に釣れるらしいので、1匹も釣れなかった!……なんてことにはならないだろう。

 そうして、俺は釣り糸の先をじっと眺めながら、魚が喰いつくの待つことにした。


 ――30分後。


「……釣りって、結構待つものなんだねぇ……」


「ですね~」


 30分経っても、うんともすんとも言わない釣り糸を恨ましげに見ながら、俺たちはのんびり雑談する。

 いやーまさかこんなに待つとは思わなかったよ。

 でも、周りの人も半分ぐらいは似たようなものなので、別にこれは俺たちだけに起きている現象……という訳でもなさそうだ。

 そんなことを思いながら、ふと、隣にいるフェリスの釣り糸に目をやった――その瞬間。


「――あ、かかりました!」


 フェリスがそう、声を上げた。

 よく見てみると、確かに釣り竿がしなっている。


「はあっ!」


 フェリスはぐっと力を入れると、勢いよく釣り竿を振り上げた。

 ……ん? 待てよ。

 レベル80のフェリスが、全力で釣り竿を引き揚げたら――


「ま、待て!」


 これから起こることを想像し、急いでフェリスを止めようとしたが――遅かった。

 湖から飛び出した体長15センチ程の魚は、フェリスの斥力によって釣り針から外れると、空高く飛んで行った。


「《幻術》はあっ!」


 咄嗟に釣り竿を桟橋の上に置いた俺は、スキルを使うと、勢いよく跳び出した。

 そして、桟橋の上を通過する魚を素早くキャッチすると、スタッと桟橋の上に降り立つ。

 《幻術》による隠蔽のお陰で、このことに気付いた人は誰も居ない。


「ほい。次からは気をつけろよ」


 俺は《幻術》を解除すると、そう言ってフェリスの桶の中に魚を入れる。


「あ、ありがとうございます。レオスさん」


 フェリスは恥じらうように頬を赤く染めながら、ペコペコと頭を下げた。


「良いって。それより、続きをやろうぜ。まだ俺のが釣れてないんだ」


 フェリスの気を紛らわせることも意図した軽口を叩きつつ、俺は桟橋に置いていた釣り竿を手に取った。


「分かりました。どんどん釣りましょう」


 そう言って、フェリスは優しい笑みを浮かべると、釣り針に餌を括り付ける。

 そして、俺と同時に釣り竿を振った。

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