第十四話 嘗ては無かった街、スリニア

「お、見えて来た見えて来た」


 日が傾きかけ――腹時計的には3時を過ぎた頃だろうか。

 ようやく次の街――スリニアを囲う城壁が見えて来た。


「想定より早く着きましたね」


「だな」


 隣を歩くフェリスの言葉に、俺は短く同意する。

 でもまあ、想定よりは早かったが、別に驚くほどの物でもない。

 道中で昼飯を食べた後、ちょっと距離を稼いでおこうということで、軽く20キロ程走ったのだ。時間にして大体30分程と、結構速い。

 そんなことをしていれば、徒歩と言えどもこれくらいの時間に着くのだろう。

 このタイムは、今後の旅における指標にでもしておくとしよう。

 そう思いながら、門の前に到着した俺たちは、冒険者カードの提示とここに来た用件を軽く伝え、中に入る。


「ふぅ……これからどうすっかなぁ……」


 街に入った俺は、辺りを見回しながらそうぼやく。

 ここ、スリニアはスリエの半分も無い大きさの街で、子爵家が統治しているらしい。

 で、ちょっと興味深いのは……実はこの街、ゲームの時は無かったんだよね。

 いや、それを言うのなら、スリエと王都間にある4つの街の内、ゲームでもあったのは1つだけだったな。

 何故そんなことが起きているのか……は、ちょっと考えれば分かる話で、単純にからだ。

 だって、何百キロもの距離がある王都とスリエの間に、街が1つしかないって、普通に考えたら不便すぎるだろ?

 最低でも宿場町的なものはあるはずだ。

 他にも……と言うか、これは王国や帝国などにも言えることだが、1つの国にあの規模の街が10個も無いとか、違和感しかないだろ? 不便以前の――国防的な意味で。

 知らない街があるな~と思って色々と調べていた時に気付いて、自己解決したのは今でも良く覚えている。

 さて、それはそうと、これからどうするかだが……


「……よし。一先ず冒険者ギルドに行って、魔石の残りを一部売ってくるか。ついでに宿の情報とかを拾えたらなお良し……ってことで」


「分かりました。では、早速行きましょう」


 そうして、俺たちは冒険者ギルドへと向かって歩き出した。


 ◇ ◇ ◇


 ダーク・クリムゾン視点


「《死霊召喚》《死霊強化》! やれ! スケルトンソルジャー!」


 俺は《死霊召喚》によって生み出したスケルトンの上位種――スケルトンソルジャーを10体、《死霊強化》でより強化すると、森林から飛び出してきた10体のオークの群れへ突撃させる。

《死霊強化》による強化を加味すると、ステータス的にはほぼ互角。故に、案外いい勝負になっている。


「おらぁ!」


 そこに、ゼイルが突貫して、瞬く間に撃破していく。

 俺のスケルトンソルジャーを巻き込んでいる気がするけど……まあ、いいか。

 ちらりと後ろを見ると、そっちではラウラとレイナが馬車の傍に立って、辺りを見回していた。


「ひゅ~終わったぜ」


「ああ、お疲れ」


 剣に付いた血を薙ぎ払うゼイルに、俺は労いの言葉をかけると、スケルトンソルジャーたちを消した。

 その後は魔石と討伐証明部位を取ってから、ラウラの魔法で死骸を燃やした。

 残しておくと、ゾンビ化してしまったり、病気の発生源とかになってしまうから、魔物が直ぐに食い荒らしに来るような場所でもない限りは、こうやって適切に処理しなくてはならない。

 処理していないことが発覚すれば、かなり重い罰金を払う羽目になるらしいから、これは絶対に守らないと。


「よし。終わりました~! もう進んでいいですよ~!」


 魔物の後処理まで終わらせた俺たちは馬車に乗り込むと、依頼主の商人に向かってそう言う。

 直後、ガタガタと音を立てながら、馬車はゆっくりと動き出した。


「……王都かぁ」


 動き出した馬車の中で、俺はボソリと呟く。

 そう。俺たちは今、王都ルクリアを目指して旅をしている。

 そうして馬車移動をしている訳だが、これは冒険者ギルドで偶々見かけた護衛依頼を受けた結果だ。お陰で、こうしてタダで乗せて貰っている。無論、依頼である為魔物が現れたら依頼主を守らなければならないのだが、王都へ行く道中に現れるような魔物程度に後れを取るほど、俺たちは弱くない。


「いや~王都。紅蓮の迷宮が楽しみだなぁ」


 ゼイルが、またその言葉を口にする。

 本日何度目だろうか?

 だが、それを指摘する人はここには居ない。そこには、言っても無駄だろうという若干の呆れも含まれているが、俺たちも実際に楽しみに思っているから……というのが大きい。

 スリエでやれそうなことが無くなった俺たちに、スリエの領主様が冗談めかして「君たちなら、王都ルクリアにある”紅蓮の迷宮”も最速踏破できそうだね」と言ってくださったのが発端で行くこととなった王都――そして紅蓮の迷宮。

 だが、何だろうか。王都へ行こうと思った途端、妙な胸騒ぎを感じたんだ。

 俺最大の謎とも言える、”記憶”が疼いているのだ。

 もしかしたら王都でも、一悶着あるのかもしれない。

 ”記憶”が疼いていることから、魔王関連であるということだけは推測できる。


「……頑張るか」


 何かあると分かっていながら、逃げる真似を犯すなんて俺には出来ない。

 どうやら俺は、自分が思っている以上にお人よしのようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る