第二十二話 犯罪組織、終了のお知らせ

 冒険者ギルドへ行き、残りの魔石を全て売り払ったことで、大分すっきりしたリュックサックの中身を満足げに見た俺は、フェリスと共に冒険者ギルドを後にした。

 そして、取り留めも無く王都を散策する。


「ん~言うて1週間後の建国祭までそんなやることねぇんだよなぁ……」


「ですね。どこも、建国祭に向けての準備に勤しんでるって感じで……今わざわざ行くような感じでも無いって言うか……」


 俺の言葉に、フェリスも辺りを見回しながら、同調する。

 この周辺だと、俺とフェリスのレベル上げに貢献できるレベルの魔物が出現しないから、レベル上げも出来ず――”紅蓮の迷宮”は、出来れば王都で起こる”イベント”の後に行きたい。迷宮の中にいる間にイベントが起こったら、マジもんに後悔するだろうからさ。

 別にのんびり過ごすのも、それはそれで悪くないと思っているのだが……ここ最近はずっとのんびりって感じだったから……ちょっと刺激が欲しくなってきてね。

 さて、どうしたものか……


「……あ、いいこと思いついた」


 顎に手を当て、考え込んでいた俺は、唐突にニヤリと笑みを浮かべた。


「何かやりたいことでも出来たのですか?」


「ああ。やっておいた方が、建国祭を楽しめるし、気晴らしにもなる」


 フェリスの問いに、俺は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 そして、「内容、早よ!」って感じの目をするフェリスに、一拍置いてから――告げた。


「それは――”犯罪組織根絶やし祭り”だ」


「……ね、根絶やし?」


 俺の言葉が想定外だったのか、フェリスは驚いたように口を半開きにする。

 まあ、いきなり「やることないから、犯罪組織を根絶やしにしようぜ!」って言われたら、困惑するのも無理は無いだろう。

 だが、これは俺なりに考えた暇潰しなのだ。

 まず、今王都では1週間後に建国祭を控えており、多くの人が来ている。雰囲気も、浮ついた感じだ。

 だったら、治安の悪いこの世界のことだし、絶対どこかしらの犯罪組織が動く。

 派手なことはせずとも、スリ窃盗誘拐などなど……これを機に悪いことして金を稼ごうと企む奴は確実にいるし……実際さっきだって数回スリにあった。

 そんなのに巻き込まれたら、折角の建国祭を思いっきり楽しめないじゃないか。

 だから、あらかじめぶっ潰してやろう……って訳。

 それを、周囲の人に聞かれないよう気をつけながら、俺は懇切丁寧にフェリスに説明する。

 すると――


「確かに、レオスさんとのデー……散策を、邪魔するような輩は、今の内に潰しておくに限ります……! 分かりました。早速やりましょう」


「おし。だが、まずは探すところからだな。《幻術》及び《幻影ファントム》で姿を隠して路地裏を見回し、怪しい奴が居たら追跡だ」


「分かりました! 私をあのような目に合わせた奴らに、滅びを……!」


 嘗て犯罪組織に囚われていたこともあってか、猛烈にやる気を見せるフェリスと共に、俺たちは人知れず行動を開始するのだった。


 ◇ ◇ ◇


 王都のスラム街――その一角にあるボロ屋の地下。

 そこに、彼らのアジトはあった。


「ま、下見は終わった。準備はどうだ?」


 帰還した男は、アジトにいる仲間にそう問いかける。

 すると、仲間の男は愉悦に満ちた顔で、口を開いた。


「ああ、大丈夫だ。警備は厳重だが……所詮、それは王侯貴族どもだけだ。一般市民に対する警備は、普段よりも気持ち増えた程度……大して強くない衛兵が増えたところで、意味は無い」


「あいつらは、平民によって生かされていることを知らんのかな? ま、お陰でやりやすいがな。何せ、此度のターゲットは……大多数の平民なんだから」


 そう言って、彼らは嗤う。

 彼らの脳裏に浮かぶのは、自らの国――ゼライゼ帝国が、ガラリア王国、エルフの森、そして北の魔人族――それら全てを取り込み、広大な大帝国へと至っている光景だった。聞けば、大抵の人は「滑稽な笑い話だ」と思ってしまうようなそれだが――彼らはそれを本気で実現できると思っているのだ。


「それで、用意は出来ているのか?」


「ああ。町中に散布する様々な種類の毒薬……王国民共が悶え苦しむ姿が目に浮かぶ」


「本当だな……だが、連中も馬鹿じゃない。今設置すれば、そう遠くない内に気付かれて回収される。設置はギリギリまで待てよ?」


「ああ、分かっているさ。最善を尽くさずして、最高は手に入らないのだからな」


 そうして彼らは、その時を夢見て暗躍を続けるのだった。

 だが、彼らは知らない。

 彼らは――ガラリア王国を過小評価

 もっとも。とある2人組が、咄嗟の思い付きで動き出してしまった事で、くしくもそれを知ることは出来なくなる訳だが――まあ、今はどうでもいいだろう。

 だって彼らはこんなにも、幸せそう愚かなんだから。

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