第二十七話 フェリス、救出成功
「良かった。居て……」
ようやくフェリスを見つけた俺はほっと胸を撫で下ろすと、《幻術》や《付与》による気配隠蔽を解除し、その姿を露わにする。
すると、彼女は俺の存在に物音と気配で気づいたのか、ビクッと体を震わせてから顔をゆっくりと上げ、まるで恐怖の象徴を見るかのような目で俺の方を見てくる。
う、そんな目で見られるは嫌だな……
誤解を解かねば!
「……俺の名前はレオス。冒険者だ。色々あって、この犯罪組織のアジトを制圧しに来た。そしたら、君を見つけたって訳だ」
「え……」
すると、彼女の表情が一気に軟化していく。
そして、まるで信じられないものを見るような目で、こっちを見て来た。
「一先ず、この檻を壊すか」
そう言って、右手の片手剣も鞘に納めた俺は、両手で檻を掴むと、ぐっと力を入れて、檻の隙間を無理やり広げた。
今のステータスなら、これくらい朝飯前だ。
「てか、明かりが欲しいな」
俺は大丈夫なのだが、彼女のことを考えると、明かりは必要だろう。
そう思った俺は、リュックサックから簡易ランタンを取り出すと、火を灯した。
村から持ってきた安物なので、長時間使える代物ではないが、ここから出る分には十分だろう。
「ほい。俺は《暗視》を持っているから、君が使いな」
そう言って、俺は彼女の下へ歩み寄ると、しゃがんで目線を合わせた。そして、そっとランタンを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
彼女は小さく頭を下げると、ランタンを手に取った。
「うん。それで、君の名前は?」
顔的に間違いないだろうとは思いつつも、一応確認の為、名前を尋ねる。
すると、彼女は一瞬呆けた後、口を開いた。
「あ、はい。わ、私の名前はフェリスです。あの……助けて下さり、ありがとうございます」
そして、再びペコリと頭を下げた。
なんか、小動物みたいな感じがして可愛いな……
……ゴホンゴホン。
俺は決して、下心があって彼女を助けた訳ではない。ただ、戦力として欲しいと思っただけなのだ!
あと、今頃準備を進めているであろう魔王の戦力を落とすため!
だから、決して下心なんてないのだ!
そもそも……そういうことをする勇気が俺にある訳が無いだろう?
とまあ、そんな話はさておき、ここから脱出しないとな。
「ああ。一先ず、ここから出るか。付いてくてくれ。まだ殺り残しが残っているかもしれないし」
そう言って、俺は片手剣を両手に構えると、《幻術》でフェリスもろとも姿を隠す。
そして、ついでに《付与》で気配も薄くすると、ここから出るべく歩き出した。
「……ああ、まだいたのか」
部屋から出た俺は、奥から、辺りを警戒して歩く数人の男たちと出くわした。
様子を見るに、まだ異変を感じ取られているだけで、襲撃には気が付かれていないようだ。
「ひ……」
フェリスはそんな彼らを見るや否や、怯えたようにその場に立ちすくんだ。
だが、悲鳴を上げたら居場所がバレると思ったようで、悲鳴を上げることは無かった。
「意外と冷静だな。《
俺は感心したようにそう言うと、黒剣を飛ばして彼らを仕留める。
「す、凄く強いですね。もしかして、Sランク冒険者の方ですか?」
フェリスは目を見開きながら、俺の顔を見上げる。
目を合わせられ、恥ずかしくなった俺は視線を逸らすと、口を開いた。
「いや、つい最近なったばかりだから、まだDランクだ」
「そうなんですか。でも、これならいずれSランクに行けますよ!」
フェリスは目を輝かせながらそう言ってくる。
強さに魅かれてるって感じかな……?
にしても、可愛い女性からこんな風に見られた経験って全くないから、何か新鮮だな……
なにせ俺、彼女居ない歴=年齢だからな。
……う、言ってて悲しくなるな。
「まあ、上がりすぎると面倒なことになりかねないから、そこまで上げるのは事が済んでからにするつもりだけどね」
そう言って、俺は再び歩き出した。
死屍累々とした光景が広がるアジトを歩く中、ふとフェリスが口を開いた。
「あの……他の仲間はいないんですか?」
そう言って、フェリスはどこか不安げにあたりをキョロキョロと見回す。
確かに、大きな犯罪組織のアジトを1人で制圧しに来たなんて、普通は考えないよな。
誰だって、仲間が十数人はいると予想するだろう。
「いや、ここへは俺1人で来た。更に言うなら、これは依頼でも何でもなく、俺の都合で来ただけなんだ」
「そ、そうなんですか!?」
フェリスは口元に手を当てながら、目を見開いて驚いていた。
仕草が一々可愛いの……いいね。
「ああ。金が欲しくなったり……な。そしたら、君を見つけたって訳だ」
本当はフェリスを見つけ、仲間にすることが理由なのだが――そんなこと言ったら絶対ドン引きされるので、言わないでおこう。
そんな目で見られたら、1か月はへこむ自信がある。
俺、そっち系のメンタルは豆腐なんだ。
「さてと。後はここの梯子を上って、上に行けば脱出出来るぞ」
その場に立ち止まった俺は、上へと続く梯子を指差すと、そう言った。
「分かりました。それにしても、本当にこの数を1人で倒すなんて、凄いですね」
そう言って、フェリスは辺りを見回す。
ここには、先ほど一網打尽にした数十人もの盗賊たちが折り重なるようにして倒れており、その光景はまさしく地獄だった。
「まあな。にしても、この状況を見てもあまり動揺しないって、普通に凄いな」
殺し合いとは無縁だったであろうフェリスが、この光景を見てもほとんど動じていないことに、俺は僅かに目を見開くと、そう問いかける。
「はい。色々とあって、感覚が麻痺しちゃってるのかもしれませんね。それに、魔物なら一応倒したことがあるので」
「ああ、そういうことか」
フェリスのあの様子を見れば、相当雑な扱いをされていたのはよく分かる。
あんな劣悪な環境で過ごせば、フェリスが言ったように、感覚が麻痺してしまうのだろう。
俺は何だかいたたまれない気持ちになり、途端に無言になると、フェリスからランタンを返してもらい、梯子を上る。
この梯子、下る時も思ったけど結構長いよな。
下の声が絶対に上へ届かないようにしてのことなんだろうけど、絶対あいつらの中にこれについて文句を言ってる奴いただろ。
そんなことを思いながら、上へと上がって来た俺たちは、窓から外に出ることで、無事アジトからの脱出に成功したのであった。
「……よ、良かった……」
夜空を見て、フェリスが安心したように息をつくと、地面にしゃがみ込んだ。
フェリスの目からは、涙があふれている。
どうやら安心したことで気が抜けて、涙が溢れて来てしまったようだ。
「……うん。良かったね」
《幻術》によって、姿は見えないし、声も響かないようにしてある。
だから、誰にもこの光景を見られることは無い。
俺は穏やかな笑みを浮かべると、そう言ってフェリスの頭を優しく撫でた。
それは、フェリスが落ち着きを取り戻すまで続くのであった。
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