第二十一話 黒歴史を掘り返すなああ!!……あふっ(気絶)

 スリエにやって来て、今日で1か月が経った。

 あれから毎日のように依頼をして、金を溜めつつ冒険者ランクの昇格を頑張った。

 お陰で大した魔物は倒せておらず、付与術師のレベルは89だが、その2つを頑張ったかいがあったか、俺の貯金は遂に10万セルを超えた。

 貯金だよ。貯金。

 宿代、食事代、装備品代。

 これらで少なくない出費をしているのにも関わらず――10万セル。

 これがいかに凄いことかは、言うまでもないだろう。

 更に、俺の頑張りが功を奏したのか、冒険者ランクもFからDランクに上がった。

 お陰でより効率よく金が稼げるようになり、更にウハウハだ。

 まあ、そのせいで情報収集や街の探索が全然進んでいないのは、ご愛敬ってことで……


「まあ、これだけやれたし、5日ぐらいその2つに費やしても、大丈夫かな?」


 俺は冒険者ギルドで、掲示板を眺めながらそうぼやいた。

 今までは毎日冒険者として働いて、金を稼がないと生活出来なかったが、これだけ貯金が出来た今なら、数日程冒険者活動を休止しても、特に問題は無いだろう。


「……ん? なーんか急に騒がしいな……」


 そう言って、俺はくるりと後ろを向く。

 ……いや、冒険者ギルドが騒がしいのはいつものことだ。

 ただ、いつもより騒がしくなった感じだ。

 何か、話題になるようなことでもあったのだろうか?

 そう、疑問に思い始めた直後、冒険者ギルドの扉が開いた。

 そして、それと同時により一層騒がしくなる。


「な、なんだなんだ!?」


 何が起きているのか分からず、俺は混乱する。

 だが、直ぐに心を落ち着かせると、思案する。

 この感じ、多分有名人でも来たんじゃないか?

 騒ぎ方が、到着したアイドルを出迎えるファンたちと似通ったところがあるのを、直感で察したのだ。


「Sランク冒険者でも来たのかな?」


 冒険者の間での有名人と言うと、真っ先に浮かび上がるのはそれだ。

 だったら、Sランク冒険者の強さをこの目で確かめておくのも悪くは無いと思うと、意を決して、あの集団に近づく。

 騒いでいるとは言っても、皆遠巻きに騒いでいるだけなので、ちょっと人込みから顔を出せば、直ぐに見えることだろう。

 そう思うと、俺はそっと人を掻き分け、冒険者ギルドに入って来た人を見る。


「さて、どんな人か……んん!?」


 彼らの――4人の顔を見た瞬間、俺は思わず目を見開いて驚いた。

 いや、これは流石に驚くよ。マジで驚く。

 まさか――


「主人公……ッ!」


 そう。

 そこに居た4人の内の1人――黒髪黒目の青年は、間違いなくリバースの主人公だ。

 しかも、かつて俺が使っていたスキンと同じ。

 まあ、俺は初期スキンをそのまま使っていたので、偶然と言う訳ではないだろうが……

 そして、周りにいる3人は、始まりの村で出会った主人公の仲間だ。

 黒いローブを羽織った桃色の髪を持つ内気な少女――ラウラ。

 動きやすそうな、軽めの防具を身に纏い、穂先を布で包んだ槍を持つ深紅の髪を持つ明るい女性――レイナ。

 白金の防具に身を包んだ金髪のおちゃらけた雰囲気を持つ青年――ゼイル。

 ゲームの時はNPC故に、戦闘面では少々融通が利かないところがあったが、その分技量は並以上だったのはよく覚えている。


「まさか、主人公とこんなところで出会うとはなぁ……」


 俺は仲良く談笑しながら受付へと向かう4人を見て、感慨深く思いながらそう呟く。

 そして、周りの声に耳を傾けてみると、もっといいことが分かった。


「まさか、反転の迷宮を踏破するとはな」


「まだ冒険者登録して半年しか経ってないんだぞ? どれだけ素質があるってんだよ」


「ここまでくると、悔しいって言う感情すら出てこないんだな。俺ら、ここ半年間で1レベルも上がってないし」


「そりゃしゃーないだろ。平凡なんだし」


 どうやら、主人公たちは反転の迷宮を踏破した直後のようだ。

 反転の迷宮は、スリエ近郊にある迷宮で、ゲームでは最初に踏破する迷宮だったはず。

 冒険者登録してからまだ日が浅いことからも、彼らの旅はまだ序盤であると見て、間違いないだろう。

 ああ、今の冒険者の話にも出て来たのだが、どうやらレベルが上がるスピードは、人によって異なるようだ。

 そして、現状全員が、指輪をつけていない俺よりもレベルアップの速度が遅いことが分かっている。

 ……まあ、確かに、レベルアップの速度がゲーム通りだったら、もっと多くの人がレベル100に至っているだろうからね。

 何とも都合のいい世界だ。


「……あ、そういや主人公の名前って何なんだろ?」


 ふと、俺はそんな疑問を浮かべ――直ぐに頭を振ってかき消した。

 いや、流石に俺と同じな訳が無いな。

 きっと、公式設定資料集で使われている名前に違いない!

 そう思いながらも、俺は心に残る微かな不安から、周りの声に耳を傾ける。

 すると――


「彼らのパーティー名って何だっけ?」


「ああ。確か、”創成と破壊の四天王”だったな」


「がはっ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず四つん這いになった。

 嘘だろ。嘘だろ。嘘だろ。

 な、何故、俺の黒歴史を……


「”創成と破壊の四天王”は今やスリエでも有数の冒険者パーティーだからな」


「ああ。にしても、”創成と破壊の四天王”って響き、何かいいな」


「分かる分かる。何か心に響くよな。”創成と破壊の四天王”」


 やめて! それ以上俺が嘗て使っていたパーティー名を連呼しないで!

 ぐっ マジで心にぃ……!


「ど、どうした? 何かあったのか?」


 四つん這いになる俺を心配し、駆け寄ってくる冒険者たちが居たが、その言葉に答える余裕はなく、この得がたい苦痛に耐えるので精一杯だった。

 そこに、更なる追い打ちがかかる。


「特に、リーダーの”ダーク・クリムゾン”が強いんだってな」


「あいつの死霊術はえげつないからな~」


「そうそう。俺も”ダーク・クリムゾン”みたいに、急激に成長したいぜ」


「んぐっ!?」


 ちょ、名前まで同じなの……!


「あ……あふっ」


「ちょ、い、急いでこの人を医務室に連れてくぞー!」


 厨二病末期だった頃の俺の、黒歴史ノート――それも最も重要な場所を大勢の人が連呼している光景を見たことで、俺はショックで意識を失ってしまった。

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