第二十二話 急ぎこれからのことを考えねばっ
「……ここは――」
意識が覚醒した俺は、上半身を起こすと、きょろきょろと周囲を見渡す。
そこは、学校の教室よりも少しだけ広い空間だった。そして、多くのベッドが置かれている。
寝ている人は、俺含めても2、3人ほどしかいないが……
「な、何が……」
何故こんなよく分からんところで寝ているのか分からず、俺は頭を掻きながら混乱する。
やがて、落ち着いてきたのか、俺は意識を失う前に何があったのかを思い出す。
「そうだ……主人公たちに会って。それで、あの痛々しい名前で……くっ」
やばい。今思い出しただけでも胸が苦しくなる。
ちょっとしたおふざけと厨二心によって決めた――否、決めてしまった二度と変えることの出来ないパーティー名とユーザー名。
ゲームの時は、特に問題は無かった。
痛々しい名前だとは思ったが、所詮はゲームの中だ。
オンライン対戦時に表示され、絶対厨二病だろ!と相手には思われたであろうが、その相手の声が俺に届くことなんてないし、パーティー名に至っては、そもそも俺以外誰も知らない。
だから、問題なかった。
だが、こうして現実の世界となり、俺が付けた痛々しいパーティー名とユーザー名が連呼されているのを見て――俺は震えた。
そりゃそうだ。
なにせ、
それも大勢に!
これは流石にきつかった……!
「はぁ。はぁ。……なんとか落ち着いてきたが……本当にあれは――”痛い”名前だな」
もし過去に戻れるのなら、俺はあの時の俺の所に行って、「血迷ったことするでない!」と言いながら、往復ビンタを100発ほど叩き込んででも正気に戻そうとするだろう。
それくらい、あれは耐え難い苦痛だった。
だが、不幸中の幸いだったのは、誰もあの名前を”痛い”名前だとは思っていなかったことだ。
痛い名前だと周囲に思われることこそが最も恐れていたことであるが故に、俺は安堵感を覚え、深く息を吐く。
「……だが、ようやくこれで今の時間軸が分かった」
今はまだ、ストーリーで言うところの序盤だ。
主人公たちのレベルは30程度といったところだろう。
となれば、次に起こるイベントは――スタンピードだな。
これは、魔王がスリエの森に儀式魔法を設置して魔物を増殖、凶暴化させたのが真相だ。
そして、この事件解決に主人公は多大なる活躍をし――それがこの国の国王の目に留まるということになっている。
つまり、ここで俺は絶対に目立ってはいけない。目立てば、国王の目が主人公たちではなく俺の方に向いてしまう。
そんなのまっぴらごめんだ。
勇者認定されるのはもっと先の話なのだが、間違いなくこの事件もそれに大きく関わってくると思う。
だから、俺はそこら辺に居る普通の冒険者になりきって、報酬という美味しい所だけを掻っ攫うとしよう。
「ま、取りあえずそんなところで良いかな。問題は、いつスタンピードが起こるかだが……まあ、そう遠くないうちに来るか。あ、そう言えば――」
ここでふと、俺は公式設定資料集のことを思いだす。
公式設定資料集はリバースの製作陣が作った分厚い本で、中にはリバースの設定や裏事情までが細かく記載されていたんだよな。
じっくりと読む――と言うよりかは暇つぶし感覚で読んでいたが故に、内容を全て覚えている訳ではないのだが、
それは、主人公が行動する裏で主要キャラがどのようなことをしていたのかが書かれていたページにあったもので、”最終的に主人公と敵対する元友人”のポジションに立っていた銀髪赤眼の女性キャラ――フェリスについてのことだ。
「そう言えば、フェリスは今頃スリエのどっかにある、”陰の支配者”っていう犯罪組織に送られたんだよな」
主人公と喧嘩し、喧嘩別れするような感じで村に残ったフェリスはそれから程なくして、人身売買を目的に攫われた。
そして、フェリスを攫った集団は、ここスリエのどこかにあるアジトに潜んでいると聞く。
あいつらはいずれ主人公によって討伐されるが、その時には既にフェリスは悪徳貴族に売られていた。
それからは紆余曲折あったが、最終的には魔王の部下となり、最終局番で主人公たちの前に立ちはだかることとなる。
フェリスと魔王。
人間を憎む者同士、気が合ったんだろうね。
主人公に負けた後、フェリスは魔王の”儀式”に命を捧げ、死んだのだが――流石にそんな人生は可哀そうだ。
ここは、陰の支配者たちに喧嘩を売りに行って、フェリスを救い出し、仲間にするのも悪くはないんじゃないか?
魔王側の戦力低下にもなるから、一石二鳥だ。
いくら魔王が不憫でも、流石に世界を滅ぼされたらたまったものじゃないからね。
それに、フェリスの職種はストーリーキャラオリジナルの”堕天使”だ。
敵にデバフをかけ、そのデバフの分だけ自身を含めた味方を強化する《堕天》というぶっ壊れスキルを持っているので、是非とも仲間にしたい。
「よし。早速目標が出来たし、頑張るぞ……とは言ったものの、付与術師だと上手くアジトを殲滅出来ないんだよなぁ……」
付与術師は、様々なものを強化して戦うことが出来るので、結構肉弾戦も強いのだが……それでも、騒ぎにはなってしまう。
そしたら、最悪隠し通路から逃げられてしまうかもだし、その騒ぎで衛兵等が駆けつけてくるかもしれない。
それは非常に面倒だ。
と、言う訳で、ここは転職して、誰にも悟られること無く陰の支配者を滅ぼし、フェリスを救出するとしよう。
「そうと決まれば、早速行動しないと。それで……人はどこにいるかな? 無断で出るのはマズそうだし……」
俺はポリポリと頭を掻くと、ここの管理人がいないか探し始めた。
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