第十一話 冒険者登録といつものやーつ

 冒険者ギルドは、ちゃんとゲームと同じ場所にあった。

 木造のそこそこ広い建物で、剣と盾の紋章があるのが特徴だ。

 ゲームでは、ここで様々な依頼を受け、報酬を受け取り、その金で様々な装備品を買っていたが、現実世界となった今でも同じなのだろうか。

 そのことに若干不安になりながらも、俺は扉を開けると中に入った。


「んー内装は少し違うな」


 内装までは流石にゲームと全く同じ……というわけではなかったが、例にも漏れず、大まかなつくりは一緒だった。

 手前側に酒場があり、奥に依頼が貼られた掲示板と受付がある。

 冒険者ギルドに入った途端、俺は最初こそ見慣れない顔ということで注目されたが、直ぐに興味を失ったのか、視線は次々と消えていった。


「にしても、ここも雰囲気あるなぁ」


 この異世界感がたまらなくいい。自然と笑みが零れてくる。

 おっと。流石にここで笑ってたら、変人だと思われるな。

 俺は直ぐに表情を戻すと、辺りを見回しながら受付へと向かった。

 そして、可愛い制服に身を包んだ――俗にいう受付嬢に声をかける。


「冒険者登録は出来ますか?」


 俺の言葉に、受付嬢は「はい」と頷くと、受付の上に大きな水晶のようなものを置く。

 見たこと無いものに、これはなんだろうか……と首を傾げていると、その質問に答えるように受付嬢が口を開いた。


「こちらに魔力を流していただくと、冒険者登録が出来ます」


「分かりました」


 便利な道具だな~と思いながら、俺はその水晶に手をかざすと、軽く魔力を込める。

 すると、水晶が淡く光ると同時に、水晶を固定していた台座から、1枚の名刺サイズのカードが出て来た。

 銅色の金属製で、中央に”Gランク”、その下に”レオス”と黒いインクで書かれていた。


「へー便利なものだな」


 俺は思わず感嘆の息を漏らしながら、出て来た冒険者カードを手に取ると、まじまじとそのカードを見つめながらそう言う。


「はい。それでは、冒険者についての説明を簡単にさせていただきます。まず、冒険者はあちらにある依頼票を剥がして、ここに持ってくることで、依頼を受けることが出来ます。ただし、あの横にある常設依頼の場合は、依頼票を剥がしてここに持ってくる必要はありません。というか、止めてください。お願いします」


「わ、分かりました」


 最後の必死そうな声に、俺は何があったのかを察する。

 多分、受付嬢の話を忘れて、持ってくる奴が何人もいたんだろう。

 そして、その都度注意して、あの場所へ戻すという地味に面倒なことを繰り返していたと考えると、流石に同情を禁じ得ない。


「あとは、ランクについてですね。冒険者は主に強さによって、SからGの8段階に分けられており、Sランクが1番上で、Gランクが1番下です。ランクに応じて受けられる依頼も増えてくるので、頑張ってください」


 なるほどなるほど。

 ランク制度はゲームと変わらず……か。

 ここら辺は分かりやすくていいな。


「以上で説明は終わりです。分からないことがございましたら、またお越しください」


「ああ、分かった」


 そう言って、俺は冒険者カード片手に受付を去って行った。

 ……よし! 冒険者になれた!

 どのくらいの収入が得られるかはまだ未知数だが、少なくとも日々生活していくだけの金はGランクでも稼ぐことが出来るだろう。

 さて、あとは情報収集しつつ、どこまでランクを上げるかだが……

 まあ、程よいペースでCランクぐらいまで上げておくとしよう。

 そして、それ以降は今の時間軸を完全に把握してから決めるか。

 そんなことを思いながら歩いていると、俺に近づく3人組の冒険者の姿があった。

 ガラは悪く、ガタイがそこそこいい。

 そんな見るからにヤバそうな冒険者たちは俺に近づくや否や、酒臭い息を吐きながら口を開く。


「おいおい。そんな貧相な装備で良く冒険者をやろうと思ったな」


「流石にそりゃねーぞ。もしかしてこいつ貧乏人か? 惨めだなぁ」


「これはどうせすぐ死ぬパターンの奴だ。あーここは先輩たる俺たちがしてやるよ」


「だな」


「いいアイデアだ」


 とまあ、こんな感じで見るからにテンプレ臭がプンプンする言葉をぶつけてくる。

 ……まあ、装備の貧弱さは否定しないよ。

 だって、今の服装は村で着ていた時と同じ、無地で地味な麻のズボンとシャツだ。

 クゼ村ならともかく、こんな発展した街では、誰がどう見ても貧相に見えるだろう。

 だが、そこはちゃんとこれから金を稼いで、準備するつもりだから問題ない。


「いえ、大丈夫です。では」


 俺はそう言ってキッパリと断ると、掲示板へと向おうとした。

 今はあまり目立ちたくないから、これ以上突っかからないで欲しいなぁと願いながら。

 だが、そんな願い虚しく、行く道を塞がれてしまう。


「待てよ。ちょっと訓練場まで来いや」


 こいつらは悪意を隠そうともせず、俺の腕を掴むと、冒険者ギルドの奥にある、訓練場へ連れて行こうとする――が、流石にそれ以上はやらせない。


「悪いけど、行く気はないんだ」


 そう言って、俺は3人の喉を瞬時に叩いた。

 喉を叩かれた3人は、一斉におえっと苦しそうな声を出す。


「ぐ……ふざけ――ひぃ」


「騒ぐなよ」


 俺は喚こうとした男の目の前ギリギリに拳を突き出すことで、強制的に黙らせた。

 マジで騒がれるのだけは勘弁して欲しいからな。


「分かったら、二度とつっかかってくるな。次は容赦しないぞ」


 そう言って脅すと、俺はくるりと背を向けて、掲示板を見た。

 周囲で一部始終を見ていた奴は、俺を興味深げに見てくるが……無視だ無視。

 流石に誰にも気づかれずに対処するのは、今の俺じゃ無理だからな。

 さて、依頼はどんな感じかなー?


「ん~流石にGランクじゃ全然受けられないか」


 やはり、Gランクで受けられる依頼はほとんどないし、報酬も他と比べるといいとは言い難かった。

 これはちょっと早急にEランクぐらいには上げといた方がいいな。

 そんなことを思いつつ、1番旨味がありそうだったのは――


「ゴブリン討伐……だな」


 ランクフリーで誰でも受けられ、1体倒すごとに200セル貰える。

 ああ、セルと言うのはお金の単位のことで……まあ、1セル=1円ってところかな?

 だから、200セルは……まあ、悪くない。20体ぐらい倒せば、一先ず今日1日は普通に生活できるだろう。


「さて、そうと分かれば早速行くか」


 ゴブリン討伐は常設依頼なので、受付に依頼票を持っていく必要もない。

 受けると決めた俺は、早速冒険者ギルドを飛び出すと、スリエの西側に広がる森を目指して歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る