第十二話 度が過ぎたテンプレ展開には――

 門をくぐり、外に出た俺は、早速西に広がる森の中に入った。

 森の中は鬱蒼としており、やや暗めだ。


「んーゴブリンはどこにいるかな?」


 そう言いながら、俺はのんびりと森の中を散策する。

 この森は奥に行くほど強い魔物が出てくる――つまり、入って100メートルも進んでいないこの辺なら、ゴブリンやスライムといった弱い魔物しか出てこない……というわけだ。

 だが、ここは現実。

 森の最深部にいるような強い魔物が、何かの気まぐれで浅い所へ来る可能性も無くはない。

 注意しないと。

 そんなことを思いながら散策していると、ふと後ろの茂みがガサガサと鳴った。

 いや、この森に入った時から、ずっと鳴っている。ただ、正体が分かっているが故に、無視していただけであって――


「……はぁ。尾行してきて、いったいなんの用だい?」


 俺は深くため息をつくと、茂みから出て来た3人組に視線を向けた。

 こいつらは、さっき俺が冒険者ギルドで適当にあしらった、かませ役臭がプンプンする冒険者だ。

 すると、奴らは剣や斧、拳を構えると口を開く。


「舐めた真似してくれた貴様には、ちょっと痛い目見て貰わんとなぁ」


「あそこじゃ下手に動けんからな。ただ……ここなら、別だ。殺してやる」


「適当な魔物に死体を喰わせておけば、お前の死の真相に気付く奴はいねーんだよ」


 ああ……こいつらはマジで殺す気だな。

 確かに、この世界の文化レベルに加えて魔物に喰わせる……という手段を取られれば、この事件は永久にお蔵入りとなるだろう。

 新人が、己の実力を見誤って死んだ……という感じで処理されるのは目に見えている。


「……悪いが、流石にそう来るのなら――殺すぞ」


 俺は彼らを正面から見据えると、はっきりと”殺す”と言った。

 魔物ならいざ知らず、まさか人相手でも、本当の意味での”殺す”という言葉が出て来たことに、俺は内心驚く。

 それに、武器を向けられているのに、意外にも冷静でいられている。

 ……ああ、多分これは《恐怖耐性》のお陰かな?

 だから、殺すことへの恐怖心も、武器を向けられたことへの恐怖心も、ある程度軽減出来ているのだろう。

 だが、こいつらは俺の言葉を鼻で笑うと、口を開く。


「へっ 新人が何言ってんだよ!」


 自分に都合の悪い記憶は直ぐに忘れてしまう、日本の政治家気質の脳を持っているのか、俺を弱い新人だと決めつけて、斬りかかって来た。

 流石にこの状況で、リュックサックの中にある山刀を抜くのは間に合わないかな……?

 だが、今の俺は死霊術師だ。

 だから、むしろこっちの方が戦える。


「《死霊召喚》」


 そう言って、俺は自身の目の前に2体のデスナイトを召喚すると、奴らの攻撃を受けさせる。


「なあ!? で、デスナイトだと!?」


「し、死霊術師か」


 流石に俺が死霊術師であることは想定外だったのか、奴らは驚愕の表情を浮かべる。

 ああ、そうだ。

 敵対してきたんだから、別にこいつらのステータスを《鑑定》で見ても良くね?

 そう思った俺は、奴らの中で1番強そうなやつに《鑑定》を使った。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

【名前】カスラ

【種族】人族

【職種】拳闘士

【レベル】21

【状態】健康

【身体能力】

・体力251/251

・魔力188/188

・筋力272

・防護251

・俊敏209

【魔法】

・無し

【パッシブスキル】

・物理攻撃耐性レベル2

・見切りレベル1

【アクティブスキル】

・格闘術レベル3

・鑑定レベル3

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「まあ、想像通りだな」


 今のこいつの身のこなし通りのステータスだったことに、俺は納得したように頷いた。

 すると、たった今鑑定した挙闘士の男が俺を睨みつける。


「てめぇ。俺のステータスを勝手に見やがったな? つったく。舐めたことしやがって……てめぇのも見てやる。《鑑定》」


 直後、俺を不快感が襲った。

 何と言うか、理由無くイライラする感じだ。

 確かにこれを受ければ、イラつくのも理解できるし、《鑑定》がマナー違反と言われるのも納得できる。


「……あ? 見れない……?」


《鑑定》で俺のステータスが見れなかったようで、男は困惑したような声を上げる。

 これは、非表示にしているお陰……と言いたいところであるが、そもそもレベル3程度の《鑑定》では、レベル50程度の相手までしかステータスを見ることが出来ないから、あまりそこは関係ない。


「さて、取りあえず大人しくして貰おうか。《死霊召喚》」


 そう言って、俺は奴らの背後にもう3体追加でデスナイトを召喚すると――首に漆黒の大剣をつきつけさせた。

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