第三十四話 俺たちの冒険の始まり
フェリスが、何かを決意したような様子で口を開く。
「あの……私だけで魔物を倒させてください。私は……レオスさんに背中を預けてもらえるような人になりたいんです! レオスさんに守られながら、スキルだけを使う人には、なりたくないので……」
突然紡がれたフェリスの言葉には強い気迫があり、思わず目を見開いた。
そして、俺はフェリスの言葉を頭の中で反芻する。
背中を預けてもらう……か。
確かに俺は、フェリスのことをスキルを使う支援役として見ていた。そして、フェリス自身の戦闘力に関しては、自衛さえ出来てくれればそれでいいという認識で、背中を預けて一緒に戦おうなどとは全く思っていなかった。
フェリス自身に、直接戦闘をするポテンシャルがあるにも関わらず。
フェリスが支援役に徹してくれれば、俺は安心して戦える――と言おうとしたが、寸でのところで飲み込むと、別の言葉を口にした。
「……うん。分かった。危ない時は手を貸すが、基本的にはフェリスが倒して、技量を高めつつレベルを上げてくれ」
「は、はい! 分かりました。頑張ります」
俺の言葉に、フェリスは目を見開くと、大きく頷いた。
うん。これでいいんだ。
フェリスの思いは、極力尊重したいからな。
それに、フェリス自身が技量も鍛えて強くなってくれた方が、より安心できるというのもまた事実。
フェリスの戦闘経験が乏しいことから、パワーレベリングよりはだいぶ時間がかかってしまうが、レベルを100まで上げると、必然的にフェリスとまともに戦える相手が少なくなる都合上、技量を上げることを重視しながらレベルを上げた方が、最終的な強さは上となるだろう。
「それじゃ、《堕天》を使って即座に攻撃を重視しながら戦ってくれ。武術はからっきしだが、魔物ごとの間合いや攻撃のタイミング等は熟知してるから、必要な時になったらその都度教えるよ」
「ありがとうございます!」
「ああ。それじゃ、早速――やるぞ」
「はい!」
こうして、俺とフェリスの冒険は始まったのであった。
◇ ◇ ◇
ダーク・クリムゾン視点
「「「「かんぱーい!」」」」
俺はキンキンに冷えた酒が入ったジョッキを掲げると、仲間と共に乾杯する。
そして、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。
「ぷはぁ 大仕事から帰って来た後の酒は美味いなぁ」
ああ、懐かしい気分だ。
なにせ、1か月近くも反転の迷宮に潜り続けていたからな。
昼夜の感覚はおかしくなるわ、同じ食料ばかりで飽き飽きしてくるわでもう大変だったよ。
だけど、ようやく踏破することに成功した。
「ええ。なんだか、戻って来たって感じがするわ」
ジョッキを片手に、明るく振る舞う彼女の名前はレイナだ。
俺の――物心ついたばかりの頃からの友達だ。
「うん。本当に疲れたぁ」
「はっはっは。本当にな」
ちびちびとジョッキに注がれた酒を飲むラウラと、呷るようにしてジョッキに注がれた酒――ではなく水を飲むゼイル。
2人も、レイナと同じく昔からの友達だ。
「にしても、ダーク。お前本当に凄いな。お前の言う通りに進んだら、本当に最深部に辿り着いたよ」
ドンとジョッキをテーブルに置いたゼイルが、若干雰囲気酔いになりながらそう言った。
すると、レイナとラウラもゼイルに同調して口を開く。
「だよね~。まさか隠し通路があんな所にあるだなんて、思いもしなかった」
「ダーク。凄い」
皆からの称賛に、俺は「本で読んだのと、似通っていただけだよ」と頭を掻きながら、恥ずかしがるように言った。
でも、本当は違う。
これは、何故か頭の中にある記憶なんだ。
全く覚えのない、朧げな記憶の中にあった知識の1つ。
何故こんな知識があるのかは分からない。誰かのものというのは分かるけど、それが誰なのかは朧げ過ぎてよく分からないし、その他細かいことも分からない。だけど、こうなった要因は何となく分かる。
それは15年前、クゼ村で普通に暮らしていた俺がふと目を覚ましたら、レーネ村という聞いたことも無い村で、ダーク・クリムゾンという名前の赤子に転生していたことだ。
あの理解不能な事件をきっかけに、俺の人生は大きく変わったんだ。
あれ? そう言えば以前の名前は何だったかな……?
ずっとダーク・クリムゾンとして生きていたせいで忘れてしま……ああ、思い出した。
「レオス――か」
窓の外に浮かぶ月を眺めながら、哀愁漂う雰囲気で、俺はボソリとそう呟いた。
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