第三十三話 《堕天》

 冒険者ギルドを出た俺たちは、そのまま歩いて街の外に出た。

 そして、早速森へと向かう。

 普段であれば、深部に近い所までは行くのだが、今回はフェリスの慣らしを兼ねている為、浅い部分だけにする。その後暫くして、最低限の技量とレベルが身についたら、一気に深部近くにまで行って、パワーレベリングをさせるつもり。

 あ、パワーレベリングっていうのは、俺が魔物を極限まで弱らせて、最後の一撃をフェリスに譲ることによって、フェリスのレベルを急激に上げさせることね。

 成長の指輪をフェリスにつけさせれば、1週間足らずでレベル100にすることが出来るだろう。

 その後は更に経験値を稼いでもらって、全スキルと魔法のレベルをMAXにしてもらえば完璧だ。


「ん~……どこにいるかな?」


 森に入った俺は、フェリスを後ろにつけながら、魔物を探していた。

 やがて、直ぐに魔物の鳴き声が聞こえてくる。


「いるな。フェリス。魔物が現れたら、即座に《堕天》のスキルを使って魔物にデバフを、俺にバフをかけるんだ」


「分かりました」


 そう言って、フェリスは杖をぎゅっと握りしめた。

 やる気十分。大丈夫そうだ。

 最初はこうやって、魔物を相手にしても冷静に行動できるようにする訓練をしないとね。

 すると、がさがさと草木を掻き分ける音と同時に、4体のゴブリンが姿を現した。


「《堕天》!」


 直後、フェリスがスキルを行使する。すると、ゴブリンたちの体表に黒い靄がうっすらと現れ、そのすぐ後に俺の体表もうっすらとした黒い靄で覆われた。

 んー確かにちょっとだけ強くなった感じがするな。

 ステータスを見てみると、全ステータスの数値の横に”+28”と記載されていた。

 ゴブリンの数は4体――つまり、1体あたり7だけゴブリンのステータスを下げ、その分俺のステータスが上がっていると……

 うん。やっぱ強いわこのスキル。

 ゴブリン4体ではこの程度だが、《堕天》によってかけるデバフは割合なので、ドラゴンとかなら1体で100近くのバフが得られる。

 対象人数の制限……は正直なところ分からないので、そこは追々検証していくとしよう。

 と、そんなことを思っていたら、先頭のゴブリンが俺の間合いの中に入り込んでいた。


「はっ」


 俺はすかさず片手剣を2本抜くと、その引き抜いた勢いのまま、先頭のゴブリンを仕留めた。


「次っ」


 地を蹴り、右側から距離をつめると、左の片手剣で次のゴブリンの首を、右の片手剣でもう1体の首を斬り落とした。


「《光槍ホーリーランス》」


 そして、すかさず光の槍を放ち、最後尾にいたゴブリンの頭を消し飛ばした。


「……こんなところかな」


 そう言って、俺は片手剣に付着した血を振り払うと、鞘に納め、フェリスに向き直る。

 フェリスは……うん。魔物を前にしても、ちゃんとスキルを使えてたな。

 動じている様子も無いし、意外とフェリスは肝が据わっている。

 まあ、かく言う俺も、恐怖耐性のスキルがあったとは言え、最初から結構動けていたのだが……

 すると、フェリスが口を開いた。


「ど、どうでしょうか。私のスキル?」


 フェリスはどこか不安げに、俺のことを見ながらそう問いかけた。


「ああ、いい感じだ。今後レベルを上げて強化していけば、いずれ相当な強さになるだろう」


「それなら良かったです……」


 フェリスはほっと安心したように胸を撫で下ろした。

 ん~もしかして、弱かったら見放されると思ったのかな?

 ほら、俺がフェリスを仲間に引き入れたのって、フェリスの持つスキルが有用だからってのが理由じゃん。

 まあ、万が一弱かったとしても、流石に見放さないけどね。

 だってここで見放したら、後々魔王サイドに渡ってとんでもないことになりそうだし……


「じゃ、次は……《縛光鎖ホーリーチェイン》」


 俺はおもむろに前方の草木の奥めがけて光の鎖を放った。

 そして、何かに振れたと分かった途端、鎖をそれに絡まらせると、一気にこっちまで引っ張り上げる。


「やっぱりゴブリンが居たか……お、何気にダブルスコアだ。ラッキー」


 光の鎖には、2体のゴブリンが雁字搦めに捕縛されていた。


「さてと……じゃ、これをつけてくれ。これは成長の指輪という特殊な指輪で、レベルが上がりやすくなる効果を持っているんだ」


 そう言って、俺はサファイア色の指輪――成長の指輪を抜くと、フェリスに手渡した。


「分かりました」


 フェリスはコクリと頷くと、受け取った成長の指輪を右手の人差し指にはめる。


「よしよし。あとは、これであのゴブリンを仕留めて、レベルを上げてくれ。流石にそのレベルじゃキツいからな」


 そう言って、今度は片手剣を1本手渡す。

 フェリスは杖を地面に置いて、片手剣を両手で持つと、少しふらりとしながら構える。

 あの片手剣って、俺が使いやすいようにある程度鍛冶師に注文を付けたせいで、見た目以上に重いんだよね。


「はあっ!」


 そんな掛け声と同時に、フェリスは両手で持った片手剣を高らかに掲げると、勢いよくゴブリンめがけて振り下ろした。

 1体のゴブリンが、頭を真っ二つにされ――死んだ。

 その後、もう片方のゴブリンを、フェリスは先ほどよりも良い動きで斬り裂き、殺した。

 動きが良くなったのは、十中八九、レベルアップによってステータスが上がったのが原因だろう。


「……あ、凄いですね! レベルが一気に2も上がりました!」


 レベルアップの音を聞いたのか、フェリスが嬉々とした様子で、俺にそう報告する。


「それは良かった」


 フェリスの言葉に、俺はニコリと笑みを浮かべた。

 この世界故当たり前のことだと思っているからか、魔物を殺すことに躊躇いは無い。

 躊躇いがあるようだと、少し困ったことになるが……まあ、だとしても見捨てはしないが。


「さてと。それじゃ、これからはその要領でレベルを上げるか」


 この調子で、俺が無力化させた魔物を殺していけば、レベル100になる日もそう遠くはない。

 その頃になれば、《堕天》の効果も相当凶悪なものになっていることだろう。

 そうなれば、今後の戦闘はだいぶスムーズなものになる。

 そんな未来を想像して、内心笑みを浮かべていると、フェリスが何かを決意したような様子で口を開いた。

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