第三十二話 フェリスの冒険者登録
数分後、完全に《幻術》を解いたタイミングで冒険者ギルドに辿り着いた俺は、やや緊張気味なフェリスと共に中に入った。
冒険者ギルドの中は、昼を少し過ぎた頃というのもあってか、そこまで混んではいなかった。大体の冒険者はそれぞれ依頼の為に出ているのだろう。
居るとすれば、昼間っから酒を飲んでいる碌でもない奴と、早々に依頼を終えて、暇になった冒険者ぐらいかな?
そんなことを思いながら中に入った俺は、少し進んだところで口を開く。
「それじゃ、受付で冒険者登録をしてきてくれ。俺はここで待ってるから」
登録する所まで出張るのはちょっとあれかな~と思った俺は、そう言ってその場で立ち止まった。
俺の言葉を聞き、フェリスは一瞬だけ不安そうな顔をしたが、直ぐに気を引き締めた顔になると、コクリと頷く。
「分かりました。では、行ってきます」
そう言って、フェリスはスタスタと受付に向かって行った。
一方俺は、通行の邪魔にならないように壁際に寄ると、壁にもたれながら、ぼんやりと待つことにした。
数分後、フェリスが小走りで受付から俺の所へ戻って来た。
「レオスさん。無事、冒険者になることが出来ました」
フェリスは嬉しそうに笑みを浮かべながらそう言うと、発行したての冒険者カードを見せてくれた。
良かった。これで、一緒に冒険者活動が出来る。
「良かったな。それじゃ、軽く森へ行ってくるか。慣らしみたいなものだから、そう気張らなくていいよ」
「分かりました」
軽い口調で、安心させるように言った俺の言葉に、フェリスは元気よく頷いた。
フェリスって、もしかして冒険者に憧れてたのかな?
フェリスの、冒険者に対する食いつき具合から、何となくそう思いつつも、俺はフェリスと共に出口へと向かって歩き出す。
すると――
「おいおい。そんなひょろっちい奴より俺たちと居た方が安全だぞ~」
「そうだぜ。
酒場にいたガラの悪い奴2人に絡まれてしまった。
この時間帯で酒に溺れている時点で、碌でもない奴だというのは容易に想像出来ていたので、「ああ、やっぱりくるかぁ」とどこか呆れたような言葉が漏れてしまった。だが、フェリスは流石に怖いようで、怖気づいたように俺の後ろに身を隠した。
フェリスって、悪人に攫われたことがある関係上、こういうガラの悪い人を見てしまうと、その時のことを思いだしてしまうのだろう。言うなれば、トラウマってところか。
俺はフェリスを庇うように一歩前に出ると、口を開く。
「失せろ。これ以上来るなら、容赦はしない」
鋭い眼光で2人を睨みつけ、圧を出しながらそう言った。
だが、悲しいことに俺ってそこまで威圧感があるような人じゃないからね。
ちょっと怯むぐらいで済んでしまった。
「ちっ 黙れ!」
「お前が失せろ!」
そう言って、2人は俺に殴りかかる。
まー無駄だけどね。
「はっ」
俺は両手でそれぞれの右手を掴むと、力を入れる。すると、ボキボキッと嫌な音が拳の中から聞こえて来た。
「ぎゃ、ぎゃ――がはっ」
拳を折られた痛みで声を上げる前に、俺は2人の喉元に手刀を叩き込んで黙らせると、口を開いた。
「フェリスは俺の仲間だ。まだ手を出すってんなら――次は腕が1本消えるかもな」
底冷えしたような声で、俺は心底侮蔑するように言い放った。
一方、喉元を叩かれたことで一瞬声が出なくなった2人は、地面に這いつくばりながら、体をプルプルと震わせていた。
そこには、怒りと悔しさ、そしてそれ以上の恐怖の感情があった。
「じゃ、行くか」
もうこれ以上突っかかってくることはないだろうと判断した俺は、フェリスの方に向き直るとそう言った。
「はい。早速行きましょう」
フェリスは嬉しそうに笑みを浮かべながらそう言った。
どこか鬱憤が晴れたような、清々しい顔をしている。
どうやら自分に絡んできた2人が、あそこまでいい感じに返り討ちにあっているのが嬉しかったようだ。
確かに、憎い奴がボコボコにされている様子を見たら、大抵の人は溜飲が下がる思いになるよね。
一方、俺はそこまで清々しいとは思っていない。言うなれば、やられたからやり返しただけという感じだ。
1か月前に絡まれた時は、内心めっちゃ清々しい思いだったのに……
殺伐とした世界――冒険者に慣れてしまったのが原因かな?
とまあ、そんなことはさておき、そろそろ行かないと。
俺はフェリスの方を向き、柔和な笑みを浮かべると、フェリスと共に冒険者ギルドの外に出た。
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