第三十一話 窓から外へ

 宿に戻った俺は、そのまま部屋に向かった。

 そして、ガチャリとドアを開け、中に入るとベッド横の床にチョコンと座るフェリスが出迎えてくれた。


「あ、お帰りなさい。レオスさん」


「ああ、ただいま」


 どこか気恥ずかし気に言うフェリスに、ドキッとしてしまったのは内緒だ。

 さて、取りあえずさっさと服を渡さないと。


「はい。これ。センス無いかもだが……許してくれ」


 あれだけ悩んだのに、いざ渡すとなった途端、自信をなくしつつも、俺はリュックサックから取り出した服と、手に持っていた杖をベッドの上に置いた。

 すると、フェリスはそれらを手に取り、まじまじと見つめてから口を開く。


「いえ、こんなにも性能の良い装備を買ってくれてありがとうございます。とても……嬉しいです」


 フェリスは、はにかみながらそう言った。

 良かった。どうやら、気に入ってもらえたようだ。

 これで微妙そうな顔されたら、めっちゃへこむ自信あるからね。

 良かった~


「なら、良かった。それじゃ、それに着替えてくれ。俺は外で待ってるから」


 そう言って、俺はくるりと背を向けると、ドアノブに手をかけ、部屋の外に出て行った。

 そして、ドアに背中を預け、待つこと数分。

 トントンと控えめなノックが聞こえて来たことで、俺はドアを開けた。

 すると、そこには杖を片手に持つ、ローブ姿のフェリスが居た。


「おお、似合ってるな」


 これぞ魔法師って感じの服装をしたフェリスを見て、俺は思わずそう口に出す。

 すると、フェリスは一瞬呆けた後、ぽっと頬を赤くすると、ローブで顔を軽く隠しながら口を開いた。


「あ、ありがとうございます……」


「あ、ああ……えっと……取りあえず、次は冒険者登録をした方が良いかな」


 あまりにも反則的に可愛い仕草に、内心ドキッとした俺は、早口で捲し立てるようにそう言った。

 さ、流石にそれは反則だって……


「分かりました。では、行ってきます」


 そう言って、フェリスはドアから出ようとする――が、すかさず俺が止める。


「待ってくれ。そこから出てったら、不審がられる。フェリスは女将さんに見られてないからね。だから、念には念を入れて窓から出よう」


 《幻術》を使えば、入り口から堂々と出てもバレないだろうが……つい万が一のことを考えてしまうのだ。


「あ、そうでしたね。すみません……」


「別にいいよ。それで……」


 言葉を途中で切ると、俺は窓の外を見る。

 下に下りるのも、隣の建物の屋根に上るのも、フェリスではきつそうだなぁ……

 うーん。俺が抱えるのが一番無難かな?

 フェリスを抱えるのはある意味憚られるが、別に下心は無いので、問題は無い……と思う。


「レオスさん?」


 あまりにも沈黙が長かったのか、フェリスが不安げな様子で俺の顔を見てくる。


「ああ、悪い悪い。取りあえず、ここから出る時は《幻術》で姿を隠すことにしよう。で、俺がフェリスを抱えて、一緒に下りればいいかな」


「わ、わざわざ抱えて貰わなくても、これくらい――」


 俺の言葉に、顔を赤面させたフェリスが、ややパニックになった様子で窓の外を見に行き――


「……お、お願いします。レオスさん」


 もじもじとしながら俺をの方を向くと、そう言った。

 相変わらず反応が可愛い……というか初心だな。

 一方、俺は意外にも冷静……なのは外面だけで、内心は結構慌ててる。


「ああ、分かった。じゃ……やるね」


 そう言って、俺はそっとフェリスの背中に手を回すと、俗にいうお姫様抱っこのような感じでフェリスを抱き上げた。

 俺のステータスが結構高いお陰で、特に手間取ることなく持ち上げられたな。

 その後、俺は窓枠に足をかけると、《幻術》で姿を隠してから、隣の建物の屋根に飛び移った。そして、そこから通りに跳び下りる。

 音も《幻術》で誤魔化している為、道行く人たちは俺とフェリスに見向きもしない。


「よし。それじゃ、下ろすね」


 そう言って、俺はゆっくりとフェリスを地面に下ろした。

 地面に足をつけたフェリスは、まるで緊張から解放されたかのように息を吐くと、俺の方を向く。


「ありがとうございます」


 そして、ペコリと頭を下げた。


「良いって。これくらいのことで一々頭を下げてたら、キリがない。精々軽く礼を言うぐらいで良いよ」


 この頻度で礼を言われてたら、この先大変だなぁと思った俺は、フェリスにそう言った。

 そして、冒険者ギルドの方に体を向ける。


「それじゃ、行くよ」


「わ、分かりました」


 俺は違和感のないように少しずつ《幻術》を解除しながら、フェリスと共に冒険者ギルドを目指して歩き出した。

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