第二十九話 殲滅は迅速に

「ん~……お、来た来た」


 屋根の上で待っていたら、こちらへやって来る存在の気配を微かに感じ取った俺は、空を飛んでいることからも、それがフェリスのものであると判断する。

 直後、《幻影ファントム》を解いたのか、その姿が露わになった。


「レオスさん。衛兵の下へ、送って来ました」


「ありがとう。それで、こっちは丁度目星をつけた所なんだ」


 そう言って、俺は靴をカツカツと鳴らす。


「この下に、犯罪組織のアジトがあるのですか?」


「ああ。だが、情報によるとただの犯罪組織じゃないようでな。どうやら、ゼライゼ帝国っていう国の連中のアジトのようで、絶賛悪巧み中らしい。で、その内容が、どうやら建国祭に合わせて、王都中に毒薬をばらまくっていう、結構ヤバいやつだった」


 俺の説明に、フェリスの表情はみるみる内に険しくなっていく。

 そりゃそうだ。これって、普通にテロみたいなもんだよな。

 都市中に毒薬をばらまくって言う、誰もが思いつきそうなことではあるが、相当な悪人でも実際にやるのは躊躇しそうな――そんな所業をマジで実行しようとするとか、頭イカれてるんかと言いたくなる。


「それは……早く阻止しないと、大変なことになりますね」


「だろ? だから、さっさと潰すか。結構重大な案件だし、2人で行くぞ」


「分かりました」


 そうして、アジト突入を決めた俺たちは、姿音気配を消すと、下へ跳び降りた。

 そして、室内に入ると、予め俺が見つけてあった隠し扉を開け、地下へと続く階段を下り始める。


「……下は、まだ普通に地下室って感じだな」


「ですが、奥の方から人に気配が結構しますね」


「まあ、アウトな場所っぽいな」


 降りた先は、まだ普通の地下室と呼べるような、閑散とした場所だった。だが、普通の地下室だったら、そもそもこんなに地下深くには造らないし、人の気配だってほぼしない筈だ。


「元商会って言ってたし、そこのお偉いさんの隠し通路を改良したって感じなのかな?……まあ、いいや。取りあえず、手分けして探索するか」


「分かりました」


 そんな、答えの出てこなさそうな仮説を立てつつ、俺はフェリスと共に手分けして、奥――そして更に下の探索を始めた。

 その結果――


「フェリス。地下に毒薬を見つけた。《鑑定》で見てみたけど、無駄に種類豊富だったな。見張りは10人ぐらいだ」


「こちらでは、居住スペースと逃げ道となる隠し通路を複数発見しました。そして、こっちは合計で23人いました」


 得られた情報を纏めてみた所、ここは現状でも33人居る、中々の大所帯だった。

 地下には毒薬の保管庫が隠されており、上は生活スペースといった感じだ。


「……よし。先に上を制圧しておこう。フェリスは、逃走経路の遮断を頼んだ」


 さっきの感じ的に、どうやらフェリスはスマートな殲滅が苦手なようなので、フェリスにはそっちを任せるとしよう。

 適所適材っていうからね。

 代わりに、フェリスにしか出来ない仕事がこの後残ってる訳だし。


「は、はい。分かりました……」


 フェリスはどこか元気なさげに視線を下に向けながら、頷いた。

 うーん。やっぱりさっきから元気ないな。

 だが、今はこっちが優先だ。


「さて、やるか――《操糸》《糸強化》」


 俺は糸を無数に繰り出すと、隠しドアを開け、奥にいる奴らへ襲いかかる。


「はっ はっ はっ」


 その際、ちゃっかり懐やポケットに手を突っ込んで、お金をぶん取ってから首巻き付けた糸を引いて、殺している。

 そうして、なるべく騒ぎにならないように気を付けながら殲滅を続け、あっという間に上に居た23人を屍に変えた。


「ふぅ……下へ行くか。フェリスはそこで、アジトに戻ってくる人が居ないか見ててくれ」


「分かりました。レオスさん……お気を付けて」


 フェリスの心配に、俺はグッと親指を上げると、隠し扉から更に下へと向かって梯子を下りた。

 そして、さっきと同じように殲滅する。

 ただ、今度は毒物が入った瓶を割らないように配慮しながら……だ。

 割ったら、毒物が気化して、この空間内に溜まり続ける……なんていう面倒な事になり兼ねないからね。


「……よし。フェリス! 来てくれ!」


 無事殲滅を終えたタイミングで、俺はフェリスを下に呼ぶ。

 これからフェリスに頼むこと。それは、毒物の処理だ。

 流石にここにある毒物を、放置する訳にはいかないからね。

 もう少し俺のレベルが高ければ、俺でもやれたのだが――今はレベル的に不可能な為、フェリスに任せるしかないのだ。

 俺は梯子を伝って降りてきたフェリスに向き直ると、口を開いた。


「フェリス。ここにある毒物を全て、《暗黒歪天球ブラックホール》で消滅させてくれ」


 そう言って、俺は大量にある毒瓶の山を指差す。


「分かりました。やります……《暗黒歪天球ブラックホール》!」


 直後、フェリスの手から漆黒の球体が放たれたかと思えば、瓶の山を某最強掃除機もびっくりな速度で吸引していった。

 そして、ものの10秒ちょいで、毒瓶の山は消え去った。


「はぁ、はぁ……流石にキツいですね」


 今使える魔法の中では最強だった事もあってか、枯渇寸前まで魔力を消費したようで、フェリスは疲れたように肩で息をしていた。


「ありがとう。フェリス。それじゃ、ここを出るから、フェリスは先に出ててくれ。俺は魔法でいい感じに破壊しながら出るからさ」


「分かり、ました……」


 そうして、フェリスは先に上へ出た。

 その後、俺は魔法を気晴らしも兼ねてぶっ放しながら、フェリスの後に続いて、上へと向かうのであった。

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