第三十話 イカレポンチ一派

 これは、少し遡る――

 王都ルクリアの汚点とも呼べるスラム街。その北東部には、ゼライゼ帝国の貴族数家の支援によって作られた、犯罪組織――否、テロ組織のアジトがあった。

 構成員は皆レベル30前後の猛者。ボスに至っては、小国の騎士団長を務められるレベル――レベル40に至る。

 そんな彼らは、ゼライゼ帝国に忠誠を誓う――否、心酔していた。

 そして、常々思っている。


 ”ゼライゼ帝国は、世界を統一すべきだと”


 現実的に不可能だとか、そういう都合の悪いことは、全て頭の中から排除されている。

 そんな心酔共改めイカレポンチ一派の扱い方は、ゼライゼ帝国上層部にとっても悩みの種だった。

 だがある時、”熱意は本物だし、王国弱体化に貢献させようぜ”と一部貴族が独断で決め、派遣した。

 そうして王国に派遣された彼らは、そのアホみたいな心酔でとんでもない行動力を発揮し、ここまで至ったのである。

 そして今、作戦は最終調整段階に入っていた。


「お前は、このルートで、こう行けばいい」


「いや、こっちの方が良いのではないか?」


「ふむ……そちらの方が良いな」


 テーブルを囲み、話し合う彼ら。

 テーブルの上には、大きな王都ルクリアの地図が広げられている。

 そんな地図の上には無数のチェスの駒のようなものが置かれており、彼らはそれを持ち上げては、動かしていた。


「衛兵隊は、奴らに頼んで一部買収して貰った。このルートなら、安全だ」


「だが、それに頼りすぎるな」


「こちらが把握していない、極秘の部隊もあるはずだ」


「それは実力行使しかあるまい」


「我々は隠密には優れてないからな」


「だが、真っ向勝負なら負けん」


「念の為、弱そうな雰囲気でも出しておけ」


「王国の脳無し共相手なら、それで十分だ」


「一旦陽動で使う火炎石はどこに?」


「ここだったが、こっちに変更した」


「こっちの方が都合いいからな」


「それにしても、アジトが別の場所にもう1つあれば楽だったな」


「言うな」


「あのゴミ共を認める言葉だぞ。それは」


「不快だ不快だ」


「悪かった。ゼライゼ帝国への忠誠の下、許して欲しい」


「良い」


「分かった」


 地図を囲みながら、ゼライゼ帝国への忠誠もとい心酔の下、話し合うイカレポンチ一派の様子は中々異様だった。

 言葉には、王国への侮蔑と帝国への心酔がひしひしと感じられ、その眼は狂信者のそれ。

 一般人が見ようものなら、その狂気的な雰囲気を前に、気絶してしまうだろう。

 そう、誇張なしで思えてしまう光景だった。


「貴族街はどうする」


「放っておけ」


「潰したいが、我々が手を下すまでも無い」


「民衆の混乱を前に、何も出来ない愚物どもだ」


「利権しか考えんゴミ共の事を考えると、虫唾が走る」


「ああ、皇帝陛下にお会いしたい」


「その為にも、成功させねば」


「王国の崩壊を献上せねば」


「そして、大帝国を築き、この大陸の覇者となるのだ」


 直ぐに始まる王国叩きと帝国心酔。

 故に、意外と話が進まない。

 だが、それに気づく者など居るはずがない。

 何故なら、それに気付けるような常識人が、この場には1人も居ないから――


「ここは、これいいな」


「ああ。だいぶ仕上がって来たな」


「あの愚図共の慌てようが目に浮かぶ」


「ああ、待ち遠しい」


「本当だ。だが、逸るな」


「万全を期すのだ」


「全てはゼライゼ帝国の為に」


 そんな、白熱(?)した作戦会議の真っただ中で。


 バタッ バタッ バタッ


 カタッ


 部屋の外から聞こえてくる、何かが倒れる音。

 そして、それによる振動が原因なのかは定かではないが、地図に置かれた駒が5つ倒れた。


「む、起こさねば――」


 そう言って、1人が地図上の駒に手を伸ばした――その直後。


 バタッ


 部屋のドアが開かれた。

 皆、一斉にドアの方を見て――訝しむ。

 何故なら、そこには誰も居ないから。

 だが――


 ガタッ ガタッ ガタッ


 部屋に響き渡る冷酷な物音。

 その発生源に目を向けると、そこには首を絶たれた物言わぬ同胞の躯。


 ガタッ ガタッ ガタッ


 警告の声を出す暇すらなく、斃れていく同胞。


「な、なにが――」


 最後の男が、ようやく声を出した。

 だが――遅かった。


「なっ」


 首を絶たれる。

 視界が反転する。

 視界が暗転する。

 意識が――途絶える。


「ふぅ。次は地下か」


 物言わぬ死体の前で、ポツリと落とされる言葉。

 それから直ぐに、地下の同胞も――消えた。

 外に出ている同胞は――居ない。


 そうして。

 イカレポンチ一派によって企てられていた計画は、日の目を見ることなく、闇へと葬られるのであった。


 それから、少しして――

 王都の一部で、噂が流れ始めた。


「なあ、スラム街にあった犯罪組織が、殲滅されたらしいぜ」


「ああ、聞いた聞いた」


「何か、とある高ランク冒険者の怒りを買ったとか……言ってたっけ?」


「真相は分からんが……まあ、国が何かしたって訳じゃなさそうだし、割かしそれで合ってるかもな」


「へ~まあ、お陰で建国祭は楽しめそうな」


「それな」


「だな~」


 そんな事を言って、笑い合う人々。

 噂を聞いた人々は、噂ということもあってか軽い感じで、殲滅してくれた人に、感謝をするのだった。

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