第二十七話  フェリス、すげぇ

 フェリスどこに居るんだろうなぁ……と、後ろ髪を掻きながら思った直後。


 ドオオオオオン!!!


 遠くから、豪快な破壊音が聞こえて来た。


「もしかして……フェリスか?」


 捜していたということもあってか、真っ先にフェリスの名前が思い浮かぶ。

 やれやれ。もしフェリスだとしたら、次からはもう少しスマートにって注意しないとな。

 殺伐としたスラム街だったからまだ良かったものの、これが普通の街とかだったら大騒ぎになること待ったなしだ。


「ま、何がどうあれ、行ってみるか」


 そう言って、俺は破壊音の発生源に向かって走り出した。

 その後、現場周辺に着いてみると、地下の方からゆっくりと上に上がる複数の気配を感知した。しかも、その内1つは良く見知ったもの。


「フェリスか」


 フェリスがアジトを制圧した後だと判断した俺は、すぐさまそこに行ってみる。

 すると、そこには地下アジトから出てくる全身血まみれのフェリスと、やや怯えた様子で追従する4人の女性の姿があった。


「お〜音がするなと思って来て見りゃ、やっぱりフェリスだったか。結構派手にやったんか?」


「レオスさん……!」


 声を掛けてみると、フェリスはどこか安堵の表情を浮かべてそう言った。


「で、後ろの子たちはアジトに囚われていたって認識で良い?」


「はい。牢屋の中に入れられていたので、救出しました」


 俺の問いに、フェリスはどこか元気なさげに答える。

 自分と同じ境遇の子たちを見るのは、やっぱ辛いんかな……?


「ま、その前に血を落とすか」


 そう言って、俺はリュックサックから現状数少ない上級回復薬を取り出すと、それをぶっかける。すると、フェリスの体についていた血の汚れが、綺麗さっぱりなくなった。

 回復薬と回復ヒールは同じ効果。そして、回復ヒールはこの世界で傷と共に汚れも落とす効果が追加されている。なら、回復薬も同じ……ということだ。

 ただ、そこそこお高い為、気軽に使えるようにする為にも、やはり光属性の習得は急務だ。


「わ、私のせいで、上級回復薬を使わせてしまってすみません。私が、上手くやっていれば……」


 フェリスは俺に上級回復薬を使わせたこと。そして、それはちゃんとやれば回避できたものであること。

 2つの意味で、フェリスは申し訳なさを感じているのだろう。


「次から気を付けてくれれば、とやかくは言わないよ。それに、どの道こいつは使わなさそうだからな。出費については……ああ、さっきのアジトから金持ってくりゃ良かったな。そしたらプラスだった」


 厨二病言語で尋問し、悶々としてしまったせいで、すっかり忘れてたよ。

 はあ……俺もフェリスのこと言えね~


「と、取りあえず俺はそこそこ大きな情報を手に入れてな。後で話すから、フェリスは一旦その子たちを衛兵隊にでも引き渡しに行ってくれ。俺は、アジトで金を回収しつつ、スラム街の北東に向かうから。フェリスも事が済み次第、北東に来てくれ」


 囚われていた4人何も知らない第三者に、あの重要そうな案件を知られるのは流石にマズいだろうと判断した俺は、後で話すと言うと、再び別行動をするよう提案する。


「……分かりました。それでは、彼女たちを送りに行ってきますね」


 そう言って、フェリスは4人と共に、スラム街の外へ向かって去って行った。

 一方、俺はそんなフェリスの後ろ姿を見ながら、ボソッと呟く。


「フェリス。やっぱり元気なかったな」


 いつものように振る舞おうと必死な感じがするが、その内面で彼女は泣いているような、苦しんでいるような気がした。

 自分と同じ境遇の子たちを見るのが辛いから……とさっき予想したが、それだけじゃない。いや、それは全くの無関係で、また別の何かに苦しんでいるのではないか?


「……俺じゃ分からんな。まあ、悩み事があったら、聞いてあげよう」


 それで心が晴れるのかは分からないが、それでも何かに苦しんでいるのなら、寄り添ってあげたい。

 俺はそう、心から思った。


「……さて、俺もやることやるか」


 そう言って、俺はフェリスが制圧したアジトの中に潜入する。用件は勿論、金を得る為。

 さっき俺に報告しなかったことから察せられるように、多分フェリスもアジトから金を掻っ攫っていないんだと思う。

 そんなことを思いながら階段を下った俺は、その先に見えて来た光景に思わず息を呑んだ。


「わーお。フェリス、すげぇ」


 知能退化でもしたんか?と突っ込みたくなる言葉を、思わず零してしまった。

 なんと、地下にあったであろうアジトは、完全に崩壊していたのだ。

 比喩でも誇張でも無く、そのまんまの意味で。


「いや……これ、どうすっかなぁ……」


 頭を掻きながら、俺はどうしようかと頭を悩ませる。

 この瓦礫を掻き分け、どこにあるかも分からない金を手に入れるなんて、流石の俺でも相当な時間が必要だ。


「……今、そんなのに時間を使っている暇は無いし、ここの金は諦めるか」


 今回犯罪組織をぶっ潰している一番の理由は、建国祭の時に事件を起こされて、邪魔されるのを防ぐ為。金は、あくまでも二番目だ。

 惜しいが、今はそっちを第一に考えるとしよう。


「さて、そんじゃさっきのアジトに行きますか」


 そう言って、俺はその場を去ると、さっき俺自身が潰したアジトへ金を回収しに戻るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る