第三十六話 仲良く一杯
常設の依頼にあった魔物を道中でサクッと倒してから、スリエに戻った俺とフェリスは、そのままの足で冒険者ギルドへと向かった。
少し歩き、冒険者ギルドに入った俺たちは、そのまままっすぐ受付へと向かう。
今は昼を少し過ぎた時間帯ということもあってかそこそこ空いており、さほど待つこと無く順番が回って来た。
「常設依頼のオークを討伐してきました」
そう言って、俺は道中で片手間に倒してきたオークの耳30個と、オークの魔石30個が入った革袋をドサッと受付の上に置いた。
そして、受付嬢はその中身を見るや否や、手際よく中から出して、数を数えていく。
そうそう。フェリスと一緒に冒険者をやるようになってから、魔石というものもちゃんと回収するようになったんだよね。
魔石というのは、魔物の体内にある魔力の塊のようなもので、ゲームの時でもちゃんとドロップ品として存在していた。
だが、売却してもそこまで旨味が無かったせいで、しれっと忘れてしまっていたのだ。
しかし、現実世界となったここでは、魔石は日常と切り離すことが出来ないぐらい深い関係になっていた。
例えば、魔法師が使う杖にも魔石は使われているし、魔力時計などの魔道具の材料及び燃料にも使われている。
それもあってか、ゲームの時よりもだいぶ割高で取引されているのだ。
多分、ドラゴンの魔石1個売却するだけで、暫くは遊んで暮らせると思う。
まあ、そんなことしたらめちゃくちゃ目立ってしまい、後々面倒なことになるから、絶対にやらないけどね。
やるとしたら、それは魔王が斃れた後だ。
そんなことを考えながら待っていたら、集計が終わったのか、受付嬢が冒険者カードの提示を要求してきた。
「はい」
俺とフェリスは冒険者カードを取り出すと、受付嬢に手渡す。
そして、受付嬢が記録を取り、銀貨2枚の報酬と共に返してくれた。
「ああ~取りあえず終わりっと。フェリス、昼食を食べに行くか」
「ですね。行きましょう」
俺の言葉に、フェリスは柔和な笑みを浮かべるとそう言った。
そして、俺たちはそのまま受付を後にすると、酒場へと向かう。
今の時刻は午後2時を少し過ぎた頃。それもあってか、酒場はかなり空いていた。
俺たちはいつものようにカウンター席に腰かけると、いつものように酒と串焼きを注文する。
2か月間、ほぼ毎日来ていたこともあってか、店主さんには既に常連扱いされているんだよね。
「はい、いつもの」
そう言って、俺は金を店主さんに手渡す。
少しして、店主さんが食事を持って来てくれた。
俺は早速酒が入ったジョッキを掲げ、フェリスと乾杯する。
「「かんぱ~い」」
元気な……と言うよりは和やかな感じの乾杯をした後、酒を呷って喉を鳴らす。
「……あ~いいね。程よく飲む酒は一番だ」
酒は飛び切り好きという訳ではないが、仕事終わりにやる1杯は何だか特別な感じがして、結構好きだ。
これを飲むと、「今日もちゃんと稼いだんだな~」というのを実感できる。
一方横では、フェリスがちびちびと酒を飲んでいた。
フェリスは状態異常耐性というスキルのせいでアルコールにかなりの耐性があり、そのせいで酒を楽しむことが出来ない……かに思われがちだが、常時発動しているパッシブスキルも、ステータス画面から自由にONOFFが可能な為、今は酒を楽しむためにOFFにしているのだろう。
「ま、今日で丁度1か月が経ったわけだが……だいぶ強くなってきたな」
「はい。レオスさんのお陰で、とても強くなれました」
フェリスはリラックスしたような笑みを浮かべると、指にはめている成長の指輪を大事そうに撫でた。
もしこれが無ければ、10倍の時間がかかっていたのかと思うと恐ろしいな……
いや~成長の指輪様様だ。
「フェリスのやる気があってこそだ。さて、昼食を食べ終えたら、また森へ行って腹ごなしの運動を軽くするとしよう」
「はい。分かりました」
俺の言葉に、フェリスはやる気に満ちた声で言う。
「そして、レベルひゃ――ノルマを達成したら、迷宮探索なんてのもやってみよう」
おっと、危ない。危うく言ってしまうところだった。
人目の付く場所でレベル100なんて言ったら、面倒なことになる予感しかないからね。
「ですね。迷宮、1度行ってみたかったんですよ。なんかこう、冒険って感じがするんですよね」
「あ~それな」
子供のようにわくわくとするフェリスの意見に、俺は同意を示した。
迷宮を探索し、最奥にあるお宝を手に入れるってシチュエーション。結構いいと思わない?
思うだろ?
他にも前人未到の地を探索するとか、いかにも冒険してる感があっていい。
まあ、ゲームによってこの大陸のほぼ全てを網羅してしまっている俺に、知らない場所なんて無いけどな。
……いや、ちょっとはあるか。
リバースって割とどこへでも行けるゲームなんだけど、ゲームの仕様上どうしてもいけない場所とかはあったし、そもそも現実世界となった今とゲームとでは違う場所があるかもしれない。
と言うか実際、この街にある建物も、若干ゲームとは異なってるし。
そんなことを思っていると、不意にフェリスがはっとなったかと思えば、俺の服の袖をちょいちょいと引っ張る。
それにより、思考の波から戻って来た俺は、フェリスが視線を向ける方向を見るや否や、即座に《幻術》を使ってフェリスの姿をその方向からのみ見えづらくなるようにした。
フェリスが鍛錬をしている間、俺はただその様子を見ていたという訳ではなく、スキルの新しい使い方を模索したりしていたのだ。
その結果、こんな感じでだいぶ器用なことも出来るようになっていた。やっぱり、考えるって大事なんだな。
で、何でわざわざ姿を隠したのかというと――
「しゅ――ダークたちか」
「はい。あの……ありがとうございます」
小声で発した俺の言葉に、フェリスはコクリと頷くと、同じく小声でそう言う。
視線を入り口の方に向けてみれば、受付へ向かう主人公たちがいた。
フェリスは彼らと喧嘩別れのような感じになっており、会いたくないと言っているのだ。
確かに、彼らと顔を合わしたら、めっちゃ気まずい雰囲気になるだろうからね。
そして、下手に主人公たちと接触すると、今後ストーリーに巻き込まれて面倒なことになるということも相まってか、こうやって超全力で顔を合わせないようにしてるって訳だ。
その心配が無ければ、いつまでもそんな感じではよくないよという思いから、やんわりと距離を縮めたりするんだけどな。
「いいさ。奴らはいい意味でも悪い意味でもトラブルメーカー。フェリスの事関係なく、接すると目立って面倒なことになる」
「それは……うん。何となく分かる気がする」
俺の言葉に、フェリスはコクコクッと頷く。
フェリス曰く、主人公たち――特にダーク・クリムゾンは、子供のことから割とトラブルメーカーだったらしく、「何かいける気がする」と言って勝手に魔物と戦いに行っては死にかけて、皆からしこたま怒られていたそうだ。
まあ、将来勇者になるんだから、それくらい行動力のある奴の方がいい……と思う。
多分。きっと。恐らく。
「まあ、この状態なら見つかることは無いから大丈夫だよ。……にしても、あいつらもうBランクか」
あいつらは今や全員がBランク冒険者で、スリエではかなり上位の冒険者という位置づけになっている。
実力もそうだが、やはり反転の迷宮を世界で初めて完全攻略したことがかなり響いているようで、いつAランク冒険者になってもおかしくはないとのこと。
因みに、俺とフェリスはDランク冒険者だ。
やろうと思えば、直ぐにでもAランク冒険者ぐらいまでにはなれるだろうが、さっきも言った通り、主人公たちよりも目立ちたくないという理由で、これ以上は昇格しないように依頼を調整している。
ただ、金も欲しいので、もう数か月ほどしたらCランクに上げておこうと思う。
それくらいまで上げておけば、だいぶ安泰だからね。
「ですね。でも、実力は私たちの方がずっと上です」
「はははっ そうだな」
どこか張り合うように言ったフェリスの言葉に、俺は乾いた笑みを浮かべると、そう言った。
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