第十五話 いい宿だ。ここにしよう

 食事を終えた俺は、宿を探すために冒険者ギルドの外に出た。

 外はもうすっかり日が沈み、街は街灯で照らされていた。

 宿の場所についても、あの後店主さんに教えてもらっている。

 いやーマジ感謝!

 お礼に、今後もあそこの酒場は活用するとしよう。


「さて、店主さんによると、ここがいいんだってな」


 そうして辿り着いたのは、大通りから少し外れた場所にあった、少しこじんまりとした木造2階建ての宿だ。

 店主さん曰く、ここは客の民度がいいそうだ。

 恐らく、俺がやっからみに遭わないよう、気を使ってくれたのだろう。

 因みにだが、ゲームではスリエに宿は1つしかなかった。

 木漏れ日亭っていう冒険者ギルドの正面にある宿のことで、入ると勝手に体力や状態異常が完全回復するという効果を持っており、物資の乏しい序盤では、かなり重宝していた。

 まあ、物資が充実してきた中盤以降になると、普通に回復薬を使った方が速いってなって、使わなくなっちゃったんだけどね……

 そんなことを思いながら、俺はドアを開けると、中に入った。


「んーいい感じだね」


 1階は食堂になっているようで、数人の宿泊客がそこで談笑しながら食事を取っていた。

 すると、従業員らしき若い女性が、俺に気付いて駆け寄ってくる。


「お食事ですか? それともお泊りですか?」


「泊まりに来ました」


「分かりました。それでは、4000セルになります」


「ああ、分かった」


 俺は頷くと、リュックサックから小銀貨4枚を取り出し、彼女に手渡す。


「ありがとうございます。では、2階の8号室をお使いください」


 そう言って、彼女は奥にある階段を指差す。

 俺は彼女に礼を言うと、階段へと向かい、2階に上がった。

 そして、左右にあるドアを交互に見ながら廊下を歩き、やがて8号室と書かれたドアの前に辿り着く。


「室内はどんな感じなんだろ?」


 俺はどんな部屋なのだろうかと若干期待しながら、ゆっくりとドアを開け、中に入った。


「おお……こじんまり」


 客室は、ベッドが1つ、小さな丸テーブルが1つ、戸棚が1つあるだけの、本当に簡素なものだった。

 広さは大体4畳半ぐらいだろうか?

 随分と狭いが、ただ寝泊まりするだけなら、これくらいでも全然問題ない。

 俺はドアを閉め、鍵をかけると、ベッドへと向かい、淵に腰かけた。

 そして、リュックサックを床に下ろすと、部屋に1つだけある小窓から、外の様子を眺める。

 月明かりに照らされた活気ある街――うん。いいね。


「さてと。取りあえず、この様子なら生活には困らなさそうだ」


 靴を脱いだ俺はゴロリとベッドに寝転がると、ぼんやりと天井を眺める。

 うーん。明日中にはレベルを100にするつもりだが、その後どの職種に転職するべきだろうか。


「この世界には、コンテニューなんてものは無い。いや、実際に確認していないから、もしかしたら俺だけあるという可能性も十分あるが、流石にそう考えるのは楽観的過ぎる」


 となると、やはり生存を重視した職種を優先して、そのスキルや魔法を固定化するのがいいだろう。


「生存を考えるなら……やはり、光属性魔法は必須か……」


回復ヒール》などの回復系魔法は光属性魔法に分類されており――幸いなことに、この光属性魔法を習得することの出来る職種はそこそこある。

 聖騎士や、光魔法師はその代表格だ。


「ただ、付与術師も試してみたいんだよなぁ……」


 付与術師の《付与》で装備品全てに強力なエンチャントを施してからの方が良いとも感じる。

 まあ、ここら辺はいざ決める時になったら考えるとするか。

 今考えても、仕方ない。


「……じゃ、もう寝るか~」


 疲労で思うように動けませーんってなったら、割とシャレにならない。

 もうやることもないし、さっさと寝て、明日に備えるとするか。

 俺は大きな欠伸をすると、ゴロリとベッドで横になった。

 そして、意識を手放した。

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