第十四話 仕事後は酒場で

 冒険者カードを提示して門をくぐり、スリエへと帰還した俺は、真っ先に冒険者ギルドを目指して歩いた。

 その後、冒険者ギルドに到着した俺は中に入ると、真っ先に受付へと向かう。

 受付は、夕方ということもあってか、依頼を終えて帰って来た冒険者で混みあっていた。

 俺はそんな列を見て、若干憂鬱になりながらも、その最後尾に並んだ。

 そうして待つこと15分。ようやく俺の番になった。

 どんな感じで依頼の達成を報告するかは、前の人を見て、既に学習している。

 故に問題は無い。


「常設のゴブリン討伐の依頼です」


 そう言って、俺は30個のゴブリンの右耳が入った革袋を受付の上に置くと、その横にポケットから取り出した冒険者カードも置いた。


「分かりました。では、計測するので、少々お待ちください」


 そう言って、受付嬢はゴブリンの右耳を1個ずつ取り出すと、木箱の中に入れていく。

 そうして30個分測り終え、用紙にこの依頼についてのことを書くと、用紙を受付にある水晶の上に置いた。そして、俺の冒険者カードをその上からかざす。

 すると、淡く水晶が光った。

 どうやらこれで、俺の依頼達成と受注の履歴がこの冒険者カードに記録されるようだ。

 うん。すっげー便利。


「……はい。では、報酬金、小銀貨6枚をお渡しします」


 そう言って、受付嬢は銀色の硬貨――小銀貨6枚を俺に手渡した。

 俺は礼を言って受け取ると、小銀貨6枚をリュックサックの中に入れる。


「それでは、お疲れまでした」


「ああ」


 そう言って、俺は革袋と冒険者カードも手に取ると、受付から去って行った。


「……よし。何とか金は稼いだ」


 俺はそう呟くと、革袋と冒険者カードをリュックサックの中に入れ――代わりに小銀貨1枚を取り出すと、それをじっと見つめる。

 そこにはよく分からないおじさんの顔が彫られていた。

 ゲームでは、硬貨なんて存在しなかったが、薄っすらとあるレオスとしての知識のお陰で、そこら辺の基礎知識については分かっている。

 硬貨は――なんと世界共通で、小銅貨1枚が10セル。銅貨1枚が100セル。小銀貨1枚が1000セル。銀貨1枚が1万セル。小金貨1枚が10万セル。金貨1枚が100万セル。白金貨1枚が1000万セルとなっている。

 まあ、結構分かりやすいので、直ぐに慣れることだろう。


「さてと。それじゃ、夕食にしないとな」


 俺は腹を擦りながらそう言うと、酒場の方に目を向ける。

 あそこでは酒以外にも、そのつまみとなる物や、普通の食事も少しだけ売っている。

 あの雰囲気は、陰キャたる俺には少し厳しい場所だが……折角の酒場だ。

 どうせなら、行ってみたい。

 そう思った俺は、酒場へと向かうと、比較的静かな人が多めなカウンター席に座る。

 すると、この酒場の店主らしき、ガタイのいい男性が口を開いた。


「おう。見ない顔だな。新人か?」


 彼は豪胆な感じでそう言う。


「そうですね。今日冒険者になったばかりです」


「おーやっぱそうだったか。見た感じ、依頼は達成したっぽいな。それで、注文は?」


「ん~……串焼き6本と酒1杯。あと、するめを1皿」


 俺はカウンターの奥に貼られたメニュー表を見ながら、よさげなものを注文してみる。

 酒は、前世では軽く嗜む程度で、そこまでガッツリとは飲まないタイプだ。と言うか、飲めない。

 今の体の方が、酒には強いと思うが、気持ち的問題で、取りあえず1杯にしておいた。

 そして、つまみは前世でよく一緒に食べていたするめ――メインディッシュは串焼き6本……という感じだ。

 栄養バランスなんか知ったこっちゃとでも言うようなレパートリーだが……今はあまり選んでいられないのだ。

 仕方ない。


「あいよ。お代は1000セルだ」


「どうぞ」


 そう言って、俺は店主に小銀貨1枚を手渡す。


「まいど」


 ニカッと笑って金を受け取ると、店主は手際よく料理の準備をしていく。

 そして、あっという間に串焼き6本、酒1杯、するめ1皿を出してくれた。

 よし。早速食べよう!


「さて、お味はどうかな……?」


 まず、俺は串焼きに手を付ける。


「……ん! 美味いな」


 串焼きにはタレがきいていて、結構美味い。

 肉の味は……豚肉みたいな感じだな。

 さて、次は酒を飲んでみるか。

 俺は木製のジョッキに注がれた酒を、ゴクリと喉を鳴らして飲む。


「なるほど……」


 酒は冷えてなくて、ぶっちゃけそこまで美味しくは無かった。

 ただ、悪い味じゃない。

 味としては、日本酒に近い感じだ。

 そして、今度はするめを口にする。


「んー……いいね。これだよこれ」


 するめは割と予想通りの味と硬さで、高評価だ。

 すると、一通り食べきったところで、店主さんが声をかけてきた。


「お前さんは本当にしっかりと味わって食べるな。珍しい」


「まあ、ここで食べるのは初めてですからね。どんな味かは、ちゃんと味合わないと」


 初めて行く店で食べるものの味はしっかりと覚えて、また来るかどうかを考える。

 日本では割と常識だ。


「ま、そんな風に食ってくれるんなら、こっちとしても嬉しいってもんよ。そんなお前さんに俺からアドバイスだが、服装は早めにいい感じのものに変えとけよ。流石にそれじゃあ、やっからみに遭うぞ」


「あーそうですね……」


 俺はほほをポリポリと掻きながら、流し目でそう言った。

 うん。それ、もう既に遭った。

 何なら、中途半端に撃退したせいで逆恨みに合って、森で殺されそうになったよ。

 まあ、心配させたくはないから、言うつもりはないけどね。

 ただ、俺の表情で色々と察したのか、店主さんは「あー……」とどこか同情するような目で見て来た。


「なるほど。もう手遅れだったか。ただ、その様子なら、解決はしたっぽいな」


「そうですね。幸い俺よりも弱い相手だったので」


「そりゃ良かった。ま、服を買うんだったら、ここを出てすぐの大通りを北側にちょっと行ったところにあるナルニス装備店がオススメだ。あそこには冒険者向きのものが幅広く取り揃えてあるから、丁度いいだろ」


「そうなんですか……ありがとうございます」


 なんと、オススメの店を教えてくれた。

 いやーこれはマジで感謝だ。

 良し悪しはともかく、捜す手間は省けた。

 装備系の良し悪しは、目利き能力が無くても《鑑定》を使えば直ぐに分かるからね。


「はっはっは。いいってもんよ」


 店主さんは豪快に笑うと、次の注文を受けに別の場所へと向かって行った。


「んー早速行ってみたいけど、流石に夜は空いてないだろうし、宿代でいくら払うか、まだ正確には決まって無いしな。明日の朝食もあるし、買うのは明日の依頼が終わってからにしよう」


 そう呟くと、俺は引き続き食事を続けるのであった。

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