第二話 死霊術師

 まさか、ここがリバースの世界だとは思いもしなかった。

 だが、クゼ村、クゼの森、ガラリア王国、ゼライゼ帝国。

 そして、再生の霊峰。

 他にも色々あるが、ここまで地名が一致してしまったら、流石に確定でいいだろう。


「なるほど。そして――”ステータス”」


 俺はレオスの記憶にある通り、それっぽくそう言う。

 すると、虚空に俺のステータスが表示された。


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【名前】レオス

【種族】人族

【職種】死霊術師

【レベル】13

【状態】健康

【身体能力】

・体力150/150

・魔力163/163

・筋力124

・防護150

・俊敏163

【魔法】

・無し

【パッシブスキル】

・恐怖耐性レベル1

【アクティブスキル】

・死霊召喚レベル2

・鑑定レベル2

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「なるほど。まあ、序盤も序盤って感じのステータスだな」


 ずっとカンスト値である9999+αが並んだ身体能力や、レベルMAXがずらっと並んだ魔法とスキルの欄を見て来たせいで、なんだか懐かしく感じる。

 ストーリーを楽しんでいた頃の俺は、これで戦っていたんだなぁ……


「……にしても死霊術士って、俺が最初に選んだ職種と同じだな」


 リバースには職種というものがあり、職種によって上がりやすいステータスや得られる魔法、スキルが異なる。

 攻略法とか全く考えなかった頃の俺は、”何かカッコ良さそうだから”という謎の厨二心が働いて、死霊術師を選んだんだよね。

 まあ、ストーリー攻略における強さでいったら、中の下ぐらいだったせいで、初心者だった頃の俺にとってはそこそこハードな戦いになってしまったが……


「でも、別に俺は主人公じゃないんだよね」


 村の名前やその周辺地形等から、ここが主人公が生まれた地とは異なることは分かっている。主人公が生まれたのは、ここから20キロほど南下したところだ。故に、俺は主人公ではない。容姿も全然違うし。

 つまり、これは偶然ということなのだろう。

 でも、ただの偶然とは考えづらい。

 職種って、100種類ぐらいあるからね。

 聖騎士のような強い職種から、大道芸人みたいなネタ枠まで様々だ。


「ま、ともかくこれからこの世界で生きていくことになったけど……やっぱ強くなりたいな~」


 折角異世界に来たんなら、やっぱり強くなりたい。

 ……というか強くなかったら、魔物が跳梁跋扈するこの世界のことだし、死ぬ可能性も大いにある。

 ここはゲームではない。つまり、コンテニューできない可能性が非常に高いのだ。


「よし。この世界を自由に冒険しながら、全ステータスカンストを目指してみるか」


 コンテニュー出来ない縛りの中これを達成するのは、ある意味オンライン対戦で世界ランク1位を取るよりも難しいだろう。

 そんなことを思いながらも、俺はそう決意するのであった。


「さて、そうと決まれば早速レベル上げ……の前に、再生の霊峰へ行ってみるか」


 再生の霊峰とは、ここからクゼの森を抜けた先にある山のことだ。

 そこに、お目当ての物がある。


「……やっぱ20までレベル上げとこ。流石に不安だ」


 リバースの最速クリアRTAと同じ手法を取るつもりなのだが、理論上レベル1でも行ける。

 だが、命がかかっていることもあってか、安定択を取ることにした。


「じゃ、森に行って、魔物を倒してくるか」


 そう呟くと、俺は部屋の隅に置かれていた、保存食やサバイバル道具の入ったリュックサックを手に取り、背負うと、家を飛び出した。


「ん? 山菜採りにでも行くのか?」


 村の出入り口の方に向かっていると、赤髪のガタイのいいおじさんが声をかけて来た。

 この村では一番の腕っぷしを持つという、村の頼れるおじさん的立ち位置に立っている人で、名をゼルスと言う。


「はい! ちょっと足りなくなったので」


「おう! 魔物には気をつけろよ!」


「分かりましたー!」


 魔物をシバキ倒してレベル上げしながら再生の霊峰へ向かいますと言ったら止められると思った俺は、さらりと嘘をつき、村を出て行った。


「ん~……一先ず、木に登るか」


 村からある程度離れた俺は、そう呟くと木の上に登る。

 筋力が足りなくて中々キツかったが、気合で何とか登った俺は、太めの枝に腰かけると、早速スキルを使う。


「《死霊召喚》!」


 すると、地上の地面に黒い魔法陣が出現した。

 そして、そこからズズズ……とボロい剣を持ったスケルトンが5体姿を現した。

 弱いうちは、召喚中無防備になっちゃうから、こんな感じで木の上からやるのがコツなんだ。

 こうして生み出されたスケルトンたちは、カタカタと音を立てながら辺りを見回す。俺の《死霊召喚》はまだレベル2なのでこれくらいしか出来ないし、命令を下すことも出来ない。その為、こいつらは敵を見つけたら突貫するだけの人形だ。


「よし。もういっちょ……《死霊召喚》」


 俺は8秒のクルータイムが開けた後、再び《死霊召喚》を使い、スケルトンを5体召喚する。

 今の俺が召喚出来るのは、同時に10体までだからな。

 1回召喚するのに必要な魔力が30で、魔力は1秒で1回復するから、限界まで出していても、特段問題はない。


「後は、このままスケルトンが倒してくれるのを待つだけの簡単お仕事」


 死霊術師は序盤の戦闘だけなら本当に頼りになる。

 こんな感じで安全圏から一方的に攻撃できるからね。

 ただ、空を飛ぶ系の魔物や純粋に強い魔物が現れてくる中盤以降になると、死霊術士の欠点である火力不足が露呈したり、対空性能の貧弱さで一気に辛くなる。

 そんなことを思っていると、スケルトンが走り出した。

 どうやら敵を見つけたようだ。


「ブフォオオオオ!!!」


 スケルトンが向かった先から、魔物の鳴き声が聞こえて来た。姿はここからじゃ見えないが……鳴き声からして、多分オークだろう。

 数は……3体か。

 オークは体長3メートル程の豚の顔を持つ人型の魔物で、ゲームでは序盤に良くレベリング目的で戦ったな。


「……ん? 倒されたか」


 表現するのは難しいのだが、なんとなく、スケルトンが3体やられてしまったような感じがした。更に、追加で1体、2体とやられていく。

 やっぱスケルトンでオークに勝つのは難しいよな。


「だが、追加だ。《死霊召喚》」


 俺は再びスケルトンを5体召喚して、減った分を補充する。

 すると――


『レベル14になりました』


 ゲームと同じように、無機質な声が脳内に響き渡った。

 どうやら1体倒したようだ。

 そして、数が減ったことでスケルトンへの被弾数も減っていく。


「……倒したか」


 やがて戦闘音が消えたことを確認した俺は、地上に降りると、スケルトンたちの下へ向かう。


「ドロップ品は……うん。やっぱりゲームとは違ってそのままか」


 そこには、無数の斬り傷を受けて地面に倒れ伏す3体のオークの姿があった。

 ゲームでは、”オークの肉”や”オークの棍棒”のような感じでドロップするのだが、そこは現実の世界らしく、リアルに死体のままだった。


「一応試すか。インベントリ! ……無理か」


 ゲームでは、インベントリというアイテムを保有する能力があった。

 だが、そんな便利な機能も、残念ながらこの世界にはなかったようだ。


「まあ、仕方ないか。保存食はあるし、これはここに置いと……ん?」


 カタカタカタカタ


 いきなりスケルトンたちが走り出した。

 嫌な予感がした俺は、即座にスケルトンたちが走り出した方角を見る。

 すると、そこには10体のオークがいた。

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