ゲーム世界に転生した俺は、転職を繰り返しながら自由に生きる 〜あ、主人公たちがピンチだ。でも目立ちたくないし、陰ながら助けるか〜

ゆーき@書籍発売中

第一章

第一話 ”リバース”の世界……だと!?

 薄暗い部屋で、俺、高林修二はVRゴーグルをつけながら、ベッドに横たわっていた。

 その額からは薄っすらと汗が滲み出ている。


「……よし」


 やがて戦いが終わり、俺は飲み物を飲むべくVRゴーグルを外すと、息をついた。


「これで19連勝か。後1回で、このレート帯で20連勝出来る……!」


 いやー本当に長かった。

 かれこれ3年ぐらい、このゲーム――”リバース”をガチでやってきたが、とうとうここまで来たんだと考えると、感慨深いものがある。


 ”リバース”


 それは、簡単に言えば超王道のVRのRPGゲームだ。

 ただの村人だった主人公が街に出て、冒険者となって仲間を集め、国王から勇者の名を授かると共に魔王討伐の命を受け、その魔王を倒しに行くという、めちゃくちゃベタなストーリーだが、グラフィックや設定の作り込みはかなり良い為、世界的に人気のゲームとなっている。

 しかし、俺――いや、俺たちガチ勢からしてみれば、ストーリーはもはやチュートリアルのようなものだ。

 そして、ストーリークリア後に開放される、オンライン対戦がメインコンテンツだと思っている。

 オンライン対戦は、世界中の人と育てた自キャラを用いて戦うという、育成とプレイングの両方が求められる、実にやり込みがいのあるものだ。

 俺はその為にとにかく攻略サイトを漁って育成しまくり、その後はオンライン対戦に潜り続けてプレイングを鍛え、どんどんシーズンごとのレートを上げていった。

 そして、今の俺のレート帯は文字通り魔境で、世界ランク1桁の化け物と当たり前のようにマッチングするのだ。

 まあ、かく言う俺も、今は世界ランク6位なのだが……


「ゴクゴク……ぷはぁ! 水がうめぇ……」


 上半身を起こし、ベッドの横にある丸テーブルの上に置かれたペットボトルの水をゴクリと飲んだ俺は、小さく息を吐くと共に、ぼんやりと部屋の中を見渡す。

 部屋はだいぶ簡素で、生活に必要最低限のものしか置いていない。理由は、掃除等に時間を割きたくなかったからだ。

 そして、仕事も常にリモートワーク。これも、出勤時間等に時間を割きたくなかったから。

 こんな感じに無駄を省きに省いた理由が、”リバースをガチるため”なのだから、もはや末期中毒者だ。

 お陰で、今や28歳で彼女いない歴=年齢とかいう悲しい事態になっている。

 この生活を続けてたら、いずれ婚期逃しそうだな……

 だが、当分この生活を止める気はない。少なくとも、世界ランク1位を取るまでは――


「……さーてと。続きやるか。どうか、ランク1桁の化け物とマッチングしませんようにっと」


 20連勝を達成したいと切に願うと、俺は再びVRゴーグルをつけた。

 そして――意識を手放した。


 ◇ ◇ ◇


「……んぁ?」


 窓から差し込む陽光を感じ、俺は瞼を数回ひくひくとさせると、今度はごしごしと擦る。


「朝か……?」


 俺は朧げな様子で上半身を起こすと、瞼から手を退け、辺りを見回す。


「ん? ここはどこだ?」


 目覚めた俺は、思わずそう呟いた。

 いや、だってこの部屋、明らかに俺の部屋じゃないもん。

 一面、ちょっと古びた木の壁。窓には窓ガラスがついておらず、外からの風が直接入ってくる不親切仕様。

 ベッドも大分簡素なもので、硬くて薄いマットレスの上に、薄い毛皮の掛け布団をかけて寝ていたようだ。


「……夢か?」


 そう呟くと共に、俺は自分の頬を抓ってみたが……

 うん。痛い。

 どうやらここは現実のようだ。

 まあ、匂いとか、空気とかの感覚的な部分から、これは現実だと薄々分かっていたけどね。


「……本当にここはどこなんだ?」


 俺は思わず混乱しながらも、ベッドの上で立膝になると、窓の外を見る。


「わぁ……村だ」


 思わず顔を引きつらせながら、俺はそう言った。

 窓の外から見えたのは、不規則に立ち並ぶログハウスだった。数は……見える限りでは5軒だな。

 結構少ない。

 そして、それらを大きく囲うようにして、木の柵が立ち並んでいた。

 更に、そんな木の柵の奥には、青々とした木々が見える。

 これを、村と言わずして、何と言うんだ!

 ……とまあ、簡単な状況確認をしたところで1つ、俺の予想を言ってくか。


「これが噂に聞く異世界転生なんじゃね?」


 ゲームをしようとしたら、知らず知らずの内に意識を失い、気が付いたらよく分からない村にいた。

 こんなの、ラノベや漫画でめちゃくちゃ見て、憧れを持っていた異世界転生以外ありえない!

 ……誘拐という線も一応あるが、まあその辺はこれから考えていくとしよう。


「取り合えず、状況把握は大事だよな」


 そう言って、俺はベッドから降りると、立ち上がった。

 そして、早速お腹に違和感を覚える。


「ん? ……ん!? 脂肪がない……だと」


 なんと、不健康な生活によって形成されたお腹周りのぶよぶよ脂肪が、きれいさっぱり無くなって、今はすらっとした、若かりし頃の俺みたいな感じになっていた。ついでに、ほんのちょっとだけ腹筋もあるようなないような……


「よくよく考えてみれば、体の感覚とか色々と違うな。……あ、鏡あるじゃん」


 丁度部屋の隅に、ちょっと古びた鏡を発見!

 俺はドキドキしながら、その前に立った。

 そして、思わず唖然とする。


「は……誰?」


 思わず誰と言ってしまう程、鏡に映る自分の姿は変わっていた。

 まず、体型がすらっとした、いかにも若者といった感じになっている。顔つきもなんか……前よりはそこそこ美形だ。

 そして、何よりも違うのは髪と眼だ。

 銀髪碧眼とか、アニメに出てきそうな見た目だな。


「まあ……これで誘拐されたという線も消えるな」


 流石にここまでメタモルフォーゼしちゃったら、誘拐なんてのはありえなくなる。

 そして、逆に異世界転生したという可能性が、ほぼ確定事項へと変わった。


「さて、外もみるか……んぐっ!?」


 外の様子も確認しようかと部屋を出ようとした瞬間、とてつもない頭痛に襲われて、俺は思わず地面に膝をついて崩れ落ちた。

 そして、頭を押さえながら、悶え苦しむ。


「う、ぐ……」


 押し殺したような声を出しながら歯を食いしばっていると、頭の中に何かが蘇ってきた。

 そして、そんな感覚と同時に、頭痛はだんだんと引いていった。


「……そういうことか」


 俺は頭を抑えながら、どこか納得したような表情でそう言った。

 先程の頭痛で頭の中に蘇ってきたのは、今の俺――レオスが、16歳になるまで生きた記憶だった。

 山間部にあるこの村――ダゼ村で生まれ育ち、友達と笑い合い、13歳で両親を事故で失い、1人身になりながらも今日まで生き続けて来た――記憶だ。


「……なんか、”高林修二”にちょっぴり”レオス”が混ざったような感覚だ」


 そんな何とも奇妙な感覚を覚えながらも、この世界の記憶を得たことで状況が理解できた俺は足を動かすと、ベッドの淵に座り込んだ。

 そして呟く。


「ここは――”リバース”と同じ世界のようだな」

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