第八話 宝箱……と見せかけて――

 俺の言葉に、フェリスは数秒程固まった後、声を上げた。


「本当ですか!?」


 頬を緩ませ、嬉しそうに言う。

 まー気持ちは分らんでもない。

 実際に宝箱を見つけ、開けるのって、結構わくわくするよね。

 俺はそんなフェリスを見て、思わず頬を緩ませる。

 すると、俺の見守るような視線に気が付いたのか、それとも自分のはしゃぎように羞恥心を覚えたのか、フェリスは途端に固まると、顔を赤くして俺から視線を逸らした。


「あ、あの……い、行きましょう」


「ああ、そうだな。ちゃんと罠の確認も怠るなよ」


 こんな時でもいつも通りの対応をした方が、気持ち的にも楽かな~と思った俺は、チラチラッと俺の方を見ながら言うフェリスの言葉に、いつもと変わらぬ口調と表情でそう言った。

 そして、前方へと向かって歩き出した。


「あ……!」


「お、やっぱりあったか」


 少し歩き、無事小部屋に辿り着いた俺たちは、小部屋の中を覗き込む。

 8メートル×8メートルの空間――その中央には、石の台座と、その上に鎮座する人の頭よりも一回り程大きい宝箱がポツンと置かれていた。


「宝箱です!」


 そう言って、フェリスは小走りで宝箱の下へと向かう。

 そして、蓋に手をかけた。


「レオスさん! 開けてもいいですか?」


「ああ、いいぞ」


 笑みを浮かべながらそう問いかけてくるフェリスの言葉に、俺は頷く。

 うん。止めるべきなのだろうが、フェリスなら何があっても大丈夫だろうし、そもそも何も起こらないことの方が多い。

 だから大丈夫――と思った直後、フェリスがパカッと宝箱の蓋を開けた。


「グバァ!!」


 開いた宝箱の中から出て来たのは金銀財宝――ではなく、おどろおどろしい大きな舌。更に、宝箱の開け口には無数の鋭い牙が生えていた。

 あ~ここで30パーセント引いちゃうか……


「きゃあ!?」


 突然の出来事に、フェリスは悲鳴を上げると、衝動のままに右拳を振るった。

 それだけで、宝箱……の形をした魔物――ミミックの体は木っ端微塵になった。

 流石フェリス……いい反応だ。


「ちょっとレオスさん。何で魔物がいるんですか?」


 ミミックを瞬殺したフェリスは、直ぐに落ち着きを取り戻すと、そう問いかけてくる。


「ああ。ここに出現する宝箱なんだけど……30パーセントの確率で宝箱に擬態したミミックなんだよ」


「……知ってて黙ってましたよね?」


 俺の言葉に、じとーっとジト目で見つめてくるフェリス。

 やべっと思い、俺は思わず視線を横に逸らすと、なけなしの弁明をする。


「それはまあ……ほら。フェリスって宝箱を見つけたら、警戒もせずに開けただだろ? でも、ここは迷宮なんだから、そう言うところで警戒を解いちゃだめだ。ここだから問題なかったが、迷宮によっては死んでたかもしれないぞ?」


「まあ、確かにその通りですけど……でも流石にあれは怖かったです!」


「分かった! 後で何でもするから!」


「何でも……? な、なら、この件は水に流すとしましょう」


 よーし。何とか許された。

 若干涙目なフェリスを前に、思わず何でもするって言っちゃったけど……まあ、フェリスなら無茶ぶりはしないだろう。

 若干頬を赤らめていたような気がしたが……ま、気のせいか。

 そうしてフェリスと問答していると、小部屋の中央にある台座の上に、再び宝箱が出現した。

 そうそう。ミミックが出てくる場合は、そいつを倒すとその後にちゃんと本物の宝箱が出てくるんだよね。

 何とも親切な設計だ。


「フェリス。今度こそちゃんとした宝箱だから、期待して開けていいよ」


「流石に2回連続ミミックなんてことは考えづらいですしね……」


 そう言って、フェリスは再び宝箱に手を伸ばすと、今度はゆっくりと宝箱の蓋を開いた。

 すると、その中には――


「……中級魔力回復薬が……3本」


 《鑑定》を使ったのか、フェリスはそう呟いた。

 なるほど。中級の魔力回復薬か。

 3本となると、普通にここで出てくる中ではアタリだな。

 それでもショボく思ってしまうのは、この先出てくる迷宮の宝を知っているからか……


「中々実用的なのが出たな」


「これだけで4万5000セル。不要なら、良さそうなところに高値で売りましょう」


 回復薬が入った小瓶を指に挟んで取り出したフェリスはそう言うと、念の為持ってきた回復薬が入っている袋の中に丁寧にしまう。


「さて、それじゃ、先に進みますか」


「分かりました」


 そうして、宝箱の中身を回収した俺たちは、再び先へと向かって歩き出すのであった。

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