第五話 ハメ技……決まれば爽快

「見つけた」


 俺は思わず口角を上げて、ニヤリと笑みを浮かべると、《死霊召喚》で召喚していたアンデッドたちを戻した。

 ここから先は、1人で行った方がやりやすいからだ。

 真っ暗な洞窟を見て、俺は心を落ち着かせると、中へ入った。

 入り口に反して中は広く、そして真っ暗だ。

 そんな洞窟を、俺は歩く。

 すると、突然洞窟内部が明るくなった。

 洞窟の壁に、等間隔で設置された半透明の紫色の石が、淡く光っているのだ。


「おう。ゲームよりも、何か雰囲気あっていいな」


 それっぽい雰囲気を感じて、若干興奮しつつも、俺は先へと進む。

 だが、直ぐに行き止まりに着いた。

 行き止まりの壁。その前の床には淡く光る白色の魔法陣があった。

 俺はそこに躊躇いなく乗る。すると、ぱっと光ると同時に、気がつけば全く別の場所に居た。

 洞窟内部であることに変わりはないのだが、さっきまで居た洞窟と比べると、だいぶ小さい。

 そして、左右にそれぞれ1つずつ、今乗っているのと同じ魔法陣があった。


「転移迷路も機能しているか」


 俺は顎を撫でながらそう呟く。

 棺の間へ行くには、この転移迷路を抜けなければならないのだ。

 だが、正しい魔法陣を踏まなければ、スタートに戻されたり、魔物が大量にいる部屋に移動させられたりする。

 そして、正解のルートを知るヒントは……無い。

 つまり、トライ&エラーと言う訳だ。

 まあ、既に正解のルートを知ってしまっているせいで、そんなことをする必要はないのだが……


「よし。先へ進もう」


 そう言って、俺は右の魔法陣に乗って、次の場所へ転移する。

 そして、そこでもまたいくつかある魔法陣の中から正解の魔法陣を踏み――転移する。

 そうして転移を繰り返すこと7回で遂に――


「よっと。到着だな」


 魔法陣のない、1つのに辿り着いた。

 石造りの壁で出来た部屋の中には何もなく、ただ下へと続く階段があるだけだった。


「行くか」


 俺はごくりと息を呑むと、ゆっくりとその階段を下り始めた。

 下り、下り、下り続け。

 5階分ほど下ったところで、とうとう開けた場所に出た。


「これはまた、随分と神秘的な場所だなぁ……」


 6つの石柱が、左右に3つ。等間隔で置かれている。その上には大きな紫色のクリスタルがあり、部屋を薄く照らしていた。

 そして、目の前にある石畳の道。その先には石で出来た、大きな円形の扉があった。

 あそこが、棺の間だ。あの中に、お目当ての物はある。

 だが、そう易々と入れてくれるほど、甘くないのだ。

 なにせ、ここは本来、魔王を倒した後に来る場所なのだから――


「ふぅ~……よし!」


 深く息を吐き、気合を入れた俺は、1歩を踏み出した。

 直後、階段へ行く道が下からせり上がって来た石で閉ざされ――前方にある円形の扉の前に、大きな赤色の魔法陣が出現した。


 ゴゴゴゴゴ――


 そして、その魔法陣から炎を纏った巨大な岩のゴーレムが出現した。

 あれが、ここの番人。名を、炎岩の巨神像と言う。

 まあ、めちゃくちゃ強そうな見た目と名から分かる通り、こいつは普通に強い。

 搦手とかは一切なく、ただあの炎を纏った岩の拳をえげつない速度で、えげつない威力で振り回してくるだけの突撃マン。

 なのに強い。

 純粋なスペックだけを見るのなら、こいつは最終形態の魔王に匹敵する。

 ただ、魔王と違って手札は全然多くない為、対策さえしっかりしていれば、さほど苦戦することなく倒せる。

 まあ、今の俺には無理だけど。


「さてと。行くか!」


 俺は即座に、左側の真ん中にある石柱に向かって走り出した。

 そして、その石柱の裏に回ると、出現した炎岩の巨神像を見据える。


「グガアアア!!!」


 完全に出現した炎岩の巨神像は、俺の姿を見るや否や、勢いよく突撃してきた。


「怖すぎだろっ!」


 炎を纏った巨大な石像が突撃してくる光景を目の当たりにして、若干恐怖を感じつつも、俺は咄嗟に手前側の石柱に向かって移動する。


「グガアアア!!!」


 炎岩の巨神像は石柱の間を抜ける――のではなく、反対側から迂回するようにして、俺に接近する。


「はあああああ!!!」


 その様子を見た俺は、即座に真ん中の石柱へと戻る。

 当然、炎岩の巨神像も俺を追いかけ――


「ガアアア!!!」


 ――無かった。

 よく見ると、炎岩の巨神像は、壁と石柱の間に挟まって、動けなくなっている。


「よし! 成功!」


 作戦が成功したことに、俺は思わずガッツポーズを取った。

 これが、炎岩の巨神像を一瞬で無効化する方法だ。

 非破壊構造物である石柱と壁を用いたハメ技は、決まれば爽快だな。

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