第四話 再生の霊峰

 暫く経ち――


『レベル20になりました』

『恐怖耐性がレベル2になりました』

『死霊召喚がレベル3になりました』

『鑑定がレベル3になりました』

『スキル、死霊強化を取得しました』


「よし。終わった。意外と早かったな」


 魔物を仕留め、目標のレベル20を達成した俺は、そんな感想を言うと、額にうっすらとついた汗を手で拭った。

 そうそう。レベルが20……と言うより、レベルが10上がるごとに、こんな感じで手持ちのスキル、魔法がそれぞれ1ずつ上がり、更にスキル、魔法を1つ取得できる。

 だから、上げておきたいと思ったのだ。

 まあ、これから再生の霊峰ですることとは特に関係はないけど……念のためだ。


「さてと……行くか」


 空を見ると、今はまだ昼前。

 だったら、今の内に先へ進んでおくのがいいだろう。

 早くあそこに行って、お目当てのアイテムをゲットしたいんだ。

 そう思うと、俺は召喚済みのスケルトンたちを、レベルが3に上がったお陰で出来るようになった命令能力で自分の周囲に散開させ、探知機のようにさせると、先へ向かって歩き出した。


 そうして歩くこと十数分後、前方右にいたスケルトンがその方向に向かって走り出した。

 どうやら魔物を見つけたようだ。


「よし。逃げるか」


 だが、ここはあえて逃げることを選択する。

 理由は単純に、消耗したくないからだ。

 確かに、戦えば勝利は出来るだろう。だが、確実に消耗する。

 ゲームの時は飯を食べればいくらでも自然回復出来たが……流石にここでは無理だ。

 ゲームにはなかった、空腹や疲労というものが現実にはあるのだから。

 それに、今戦ってもあまり旨味は無いからね。

 そんなことを思いながら、俺は向かって行ったスケルトンを囮にして、迂回するように先へ向かって歩き続けるのであった。


 ◇ ◇ ◇


「……そろそろ夜営にするか」


 日が完全に沈んだ。

 流石に夜に進むのは危ないので、ここで夜営にするとしよう。

 と言っても、特段準備しなければならない物はない。

 俺はこの周辺で一番頑丈そうな木の上に登ると、木の枝と俺の足をリュックサックから取り出したロープで縛り、寝返りが出来ないようにすると、地上に《死霊召喚》でグールを5体、ちょっと良さげな剣を持つスケルトンことスケルトンソルジャーを5体、簡単な魔法を使うスケルトンメイジを5体召喚すると、余程接近してくるまで攻撃しないよう命じた。


「これでよし。後は、飯でも食うか」


 そう言って、俺がリュックサックの中から取り出したのは、肉の燻製を魔物の革で包んだ保存食だ。

 沢山動いたせいで腹が減っていた俺は、早速それにかぶりつく。


「あー微妙な味だ。だが、手が止まらない」


 この肉は、別にマズくはないのだが、お世辞にも美味しいとは言えなかった。

 だが、かなり腹が減っているお陰で、まるで好物であるかのように食べ進めることが出来た。


「もぐもぐ……はぁ。美味かった」


 肉を食べきった俺は、そのまま太い木の枝に背中を預けると、葉っぱの間からチラリと見える星空を眺める。


「……いい景色だ」


 夜も明るい東京の家で、引きこもってゲームばっかりしていた俺には一生縁が無いかと思っていた綺麗な星空を見て、俺は思わず感嘆の息を漏らす。

 こうしていると、なんだか自然と心が落ち着いてくる。心が――癒される。

 この世界に来て良かったと、心から思えてならない。


「……早いが、そろそろ寝るか」


 大自然に囲まれながら、俺はゆっくりと目を閉じると、意識を手放した。


 ◇ ◇ ◇


 翌日。

 木の上で目を覚ました俺は朝食を取ると、直ぐに出発した。

 夜中の内に魔物の襲撃は無かったようで、スケルトンたちにこれといった異変は無かった。

 もしかして、魔物も夜は眠るのだろうか?

 睡眠することなく、1日中活動し続けるオークが居たら、ちょっと違和感を感じるし、多分そうなのだろうと思いながら、俺はどんどん先へと進む。

 道中、幾度となく魔物が接近してきたが、スケルトンたちにヘイトを向けさせることで、戦うことなく先へと進んだ。

 そして、その日の夕方。

 遂に、目的の場所――再生の霊峰の麓に到着した。


「やっぱ高いな~」


 再生の霊峰は緑に覆われた、綺麗な三角錐状の山だ。

 標高は1456メートルと、そこそこ高い。

 一見頂上に何かあるような感じがするが、ぶっちゃけあそこにはこれといったものは無い。ただ、頂上からの景色は綺麗だよ~ってだけのやつ。

 それに、今の俺では流石に頂上まで登れない。実力的な面でも、物資的な面でも。


「それで、確か棺の間は……こっちの方だったな」


 用があるのは、麓にある洞窟の最深部にある棺の間だ。

 あそこは人間に騙され、殺された魔王の妻が眠る場所だ。

 そこに、魔王の妻が生涯大事にしていた指輪が2つあり、それが俺の欲しいものだ。


「それにしても、今ってどの時間軸なんだろ?」


 俺はふと、疑問に思ったことを口にする。

 今俺が居るのは、主人公――勇者が生まれる前か、それとも勇者が生まれたのと同時期か、それとも勇者が魔王を倒した後なのか。

 それによって、色々とやれることが変わってくる。

 ……まあ、今考えていても埒が明かない。

 先へ進まないと。

 そう思いながら、俺は山の麓を迷わぬ足取りで歩き続ける。

 そうして歩き続けること数十分、遂に俺は岩々の間に隠れるように存在する洞窟を発見した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る